※本記事は2015年12月4日に公開したものです。

過剰な「ストーリー」を警戒せよ

 先日、生命保険のアドバイザーで最近「生命保険は『入るほど損』?!」(日本経済新聞出版社。良著です。ご一読を)という直截なタイトルの書籍を上梓された後田亨氏のお話を伺う機会があった。大変印象的だったのは、保険は(契約者にとって損なのに)「ストーリー」で売れているという話だった。

 生命保険に関する筆者の考えは以下の通りだが、後田氏の見解とほぼ一致している。

  1. 基本的に保険は「損な賭け」。自己資金で対応できるリスクには保険を使わない方がいい。
  2. 生命保険が必要なのは、蓄えのない片稼ぎの夫婦に小さな子供がいる時だけ(保険料の安い生保で、掛け捨ての死亡保障の保険に入る)。
  3. 健康保険に入っていれば(高額療養費制度があるので)ガン保険等の民間生保の医療保険は不要。
  4. 貯蓄性の保険は効率性の悪い運用。
  5. 保険に使うお金があれば、自分で貯蓄ないし投資せよ。

 少々経済合理的な思考を巡らせると、誰でも以上のような結論を得ることが出来るはずだ。しかし、人間は感情に弱い動物だ。悲惨な状況のイメージと保険で備えておいて良かったという「ストーリー」に心を動かされて、不要な保険に入ってしまう人が多いことが、容易に想像できる。

 もっとも、この保険の「過剰加入」の現象の背景には、保険が複雑且つ高額な金融商品であるにもかかわらず、消費者の判断材料となるべき情報が十分提供されていないことの問題がある。せめて、投資信託並みに、手数料の内訳(販売者が幾らインセンティブを貰って売っているか、保険会社の粗利は幾らか、等)と保険金の支払い実績(投信なら運用報告に相当する)などを公開させるべきだろう。