そして、100%と0%といった両極端に特定の資産クラスへの配分を移すと考えることが現実に必要な場合は乏しかろう。

本来なら、運用計画は、ポートフォリオの調整コストを加味しながら、1年単位くらいの目線の置き方で随時考えていくのが正しい。但し、現実的には、取引コストも個々の資産クラスの期待リターンも正確に推定することが難しい。

或いは、ある程度長い期間を「想定運用期間」として、その期間の期待リターンとリスクが概ね均一であるかのように扱うことが一種の簡便法としては許されよう。だが、そうした期間は、GPIFでもせいぜい5年くらいのものだろう。

政府の経済見通しでは、これからしばらくの間にインフレ率も金利も大きく変化すると考えているのだから、この期間を含めた25年を通算してひとまとまりの運用期間と想定することは、常軌を逸している、と筆者は思う。

にもかかわらず、次に「積立金の水準が最も高く」なるのが25年後だという理由で、25年を想定運用期間とするのは、全く無理だ。

それでも25年とした理由を推測すると、そうとでもしなければ、運用目標が達成出来そうだという説明のでっち上げが困難だったからではなかろうか。

現在の国内債券の利回りは、10年満期の長期国債を全額買ったとしても約0.5%にすぎない。これが、上がるか、下がるかは、将来起こるイベントに左右されるのであり、確信を持って予測することなど全く不可能だ。

にも関わらず25年もの「想定投資期間」を考えることで、例えば国内債券に対して2.6%(財政見通しの「経済中位ケース」)といった、現実的にありもしないリターンをひねり出して、年金財政は大丈夫だとの辻褄を合わせているのだから、この期間想定は「実害」を及ぼしている。

その他の問題点

他にも、投資家が反面教師とすべき問題点が幾つも指摘出来る。

例えば、政府の長期経済見通しを前提として計画を考える点が、計画を検討した人達にとっては「そうせざるを得ない」ところであっただろうが、現実離れしている。誰が作ろうと、経済見通し、まして長期の見通しなど全くあてにならない。マクロ経済見通し(まして長期の)を丸々前提とする運用計画など作るべきではない。

また、リスクの目処として「全額国内債券ポートフォリオ」を用いるのも不適切だ。はっきりとどの程度のリスクで、たとえば一年間にどのくらいの積立不足を生む可能性があるかを示しながら、運用計画を策定すべきだし、国民に説明すべきだ。

また、「国内債券」に±10%、「国内株式」に±9%、「外国株式」に±8%などと付けられた「許容乖離幅」は、大きすぎて無責任だ。上下にこれだけ異なるポートフォリオは、全く「別物」だ。

それが必要なほどの環境変化があれば、基本ポートフォリオ自体を見直すのがGPIFサイズの資金といえども当然だ。

これは、「25年間の標準ポートフォリオ」という奇妙なものを想定するから、このようなことになったともいえるし、政府の求めるリスク資産購入を可能とする運用計画無理に整合性を与えようとしたツケであるかも知れない。

さて、できあがりの基本ポートフォリオは、政府見通しの「経済中立ケース」を前提として、名目で4.57%の期待リターンで、標準偏差は12.8%だという(リスクの推計は通常の機関投資家よりもやや大きめだ)。同様の前提で、全額国内債券ポートフォリオは名目リターンが2.6%で、リスクは4.7%とされている。

「経済中位ケース」に加えて、「市場基準ケース」(現在の超長期債の利回り等を参考にしたケース)も使って両者の比較をしているが、GPIFの資料によると、全額国内債券のポートフォリオは、全てのケースで「ほぼ予定積立金額を確保することはできない」という結果になり、策定された基本ポートフォリオでは、2039年(25年後!)に積立不足となるのは「経済中位ケース」で40%、「市場基準ケース」で25%だとしている。

要は、基本ポートフォリオが期待リターンとして「名目賃金上昇率+1.7%」を満たすポートフォリオの中では「最もリスクの小さいポートフォリオ」であり、全額国内債券ポートフォリオ(そもそも期待リターンが足りない)よりも、積立不足が起こる確率は小さい、ということを根拠に、今回のポートフォリオが妥当だとしている。

しかし、これでは、目標リターン期待値として目指すポートフォリオの中ではリスクが最も小さいことが主張されているが、そのリスクが適正な範囲のリスクであるか否かの根拠は全く示されていない。

総括するに、考え方として多くの誤りを含む上に、結局のところ無責任な運用計画だというしかない。要は、当面の「公的相場操縦」を可能とする運用計画に素人では反論しにくい、ややこしい理由を付けただけのものだ、とでも理解するしかない。

せめて、リスクについて、国民にもっと分かりやすく説明すべきだろう。大変残念な運用計画であり、投資家が真似してはいけない要素に満ちている。