一般個人が投資について学んでいただく場合に、投資の失敗をまったく経験せず投資家として成熟することはありえません。自転車に乗ることを覚えようとしたとき、一度も転ばず自転車やローラースケートに乗れるようになることが不可能であるようなものです。

「負け方」はなかなかレクチャーすることが難しいテーマですが、転び方を知らずに自転車もローラースケートもすべきでないように、投資の負け方を知らずに「なんとなく投資」するべきでもありません。

失敗は重要な財産である

 確定拠出年金の資産運用テクニックについてある場所で対談していて、「20代の投資はどうあるべきか」というテーマになりました。セオリーとしては20代はこれから拠出される掛金ベースが大きく、投資期間も長く残されているのでリスク許容度が高くなります。つまり、積極的に投資をしてもよいと解されます。

 しかし私がちょっと変化球を投げて「そうはいっても、資産残高がきわめて少ないことを考えると20代の運用利回りが年10%であっても残高を増やすインパクトは低いのではないか」とコメントしてみました(もちろん本意ではなく対談者に話題を振るねらいだったのですが)。

 すると、対談者は「むしろ少額だからこそリスクを取って投資経験にすべきだ」と応じてきて、それは私も同感だったので、「投資の成功経験と失敗経験の双方が重要だ」と話題が盛り上がりました。

 ここ数年の投資環境においては、本人の能力ではなく市場の上昇傾向に乗った形で得られた収益と成功経験しか得ていない人もいます。しかし、これはまだ投資の一面しか知らない初心者です。それこそ「なんとなく投資」をしていたらビギナーズラックで儲かっているようなものです。

 投資の厳しい現実、「含み損」と「損失確定」を覚えなければまだまだ個人投資家としては半人前なのです。