• 金利低下は、金が代替通貨としての輝きを増すきっかけの一つ
  • 各国の中央銀行は総じて金の買い手。近年はロシア・中国・トルコの購入量が増加中
  • 通貨不安または通貨安傾向が生じている国では、現地通貨建て金の上昇率が高い傾向に

 

「黒田バズーカ第3弾」と例えられる“マイナス金利の導入”がきっかけとなり、日本国内の金利が下落している。

 

資金を調達する上では有利に働くものと言われるが、運用という面で見た場合、日本におけるマイナス金利の導入実績がないだけに、それが株価にどう影響するかなどまだ不透明であり、かつ、中国の景気減速懸念・米国経済の弱含み懸念などと幾重にも折り重なり、足元のマーケット環境は不安・不透明さがさらに増しているように思われる。

今後の金利政策の動向については、黒田日銀総裁は「さらなるマイナス金利」について示唆しており、マーケット環境はさらに未踏の地へ足を踏み入れる可能性が出てきている。

このような、つまり、不安・不透明さが高まり、さらに今後、その不安・不透明さの度合いが増す可能性がある環境の中では、資産運用によってパフォーマンスを維持・拡大していくには、不安・不透明さと上手に付き合うことができる方法が必要である。

教科書的な言葉だが、「金(ゴールド)」は不安が高まる時ほどその輝きを増す」などと言われる。

今回のレポートでは、国内外のマーケット環境が、これまでよりも不安・不透明感が高まるという変化を迎えた今、投資先の一つとして金(ゴールド)を取り入れることを検討している、あるいはこれから検討したいと思われている方に特に、ご参考にしていただければと考えている。

金利低下は、金が代替通貨としての輝きを増すきっかけの一つ

以下の図は、円建て金(東京商品取引所の価格を参照)と、日本国債2年・5年・10年の利回り、および、ドル建て金(CME(COMEX)の価格を参照)と、米国債2年・5年・10年の利回りの推移である。

図1:円建て金(左軸)と、日本国債2年・5年・10年の利回り(右軸)の推移

出所:各種データソースより筆者作成

図2:ドル建て金(左軸)と、米国債2年・5年・10年の利回り(右軸)の推移

出所:各種データソースより筆者作成

日本国債の2年債は、黒田バズーカ第3弾のアナウンスより前に利回りはマイナスとなっていた。黒田バズーカのアナウンスを機に5年債はマイナスに、10年ものは0.04%(原稿執筆時)まで急低下している。

また、図2のドル建ての金および米国債の利回りについては今年(2016年)に入り、米国の経済指標の弱含みや、それを受けた米国経済が弱含んでいること、および利上げ先送りなどを受け、徐々にドルの下落、米国債利回り低下が鮮明になっている。

このドルの下落、米国債利回り低下一因となり、ドル建て金価格は強含む展開となっている。

世界の基軸金(ゴールド)であるドル建て金の強含みは、他通貨建ての金の強含みの要因となり図1のとおり円建て金価格も反発傾向となっている。

そして、そのドル建て金価格が強含んでいる最中に「黒田バズーカ第3弾」が放たれたのである。

ドル建て金の強含み・日本国内の金利低下となれば、円建て金のさらなる強含み、というシナリオを描くこともできるのではないだろうか。

ドル円がドル建て金と円建て金の値動きに強弱を加える点に留意が必要だが、基本的には米国と日本の金利低下はドル建て・円建てともに強材料となるものと思われる。

各国の中央銀行は総じて金の買い手。近年はロシア・中国・トルコの購入量が増加中

中央銀行とは、日本の日本銀行、アメリカの連邦準備銀行(FRB:Federal Reserve Bank)イギリスのイングランド銀行、ドイツのドイツ連邦銀行、などである。

一国の中心的な金融機関として位置づけられる銀行である中央銀行は、その役割である物価安定や通貨供給の他、その多くがその国や関わりが深い国の不測の事態に備え、財源強化・信用力強化のために外貨準備高の中に金(ゴールド)含めている。

IMFを含め公的機関と呼ばれるこれらの中央銀行の金(ゴールド)保有高は、世界の金鉱山の生産量の約10年分に相当するレベルである。(2014年時点)

中央銀行等は、保有高を高めるために新たに金(ゴールド)を購入したり、緊急の資金調達や資産の組み換えなどのため保有する金(ゴールド)を売却したりしている。

このような中央銀行等の金(ゴールド)の購入・売却は金(ゴールド)価格の大きな変動要因の一つとなっている。
※過去のレポート、「中央銀行、金(ゴールド)保有高を増加させる」より抜粋

この中央銀行の金(ゴールド)をめぐる動きについて、2016年2月4日に、金の国際的な啓蒙・調査などを手掛ける「ワールドゴールドカウンシル」が複数の最新のデータを公表している。

これらのデータには、現在の各国の公的金融機関(中央銀行)の金(ゴールド)の保有高や、これまでの売却・購入量の履歴などが記載されている。

図3:各国の公的金融機関(中央銀行)の金(ゴールド)保有高 単位:トン

出所:ワールドゴールドカウンシル公表のデータより筆者作成

圧倒的に米国(FRB)の金(ゴールド)保有高が多い。次いで、欧州諸国が並ぶ、中国およびロシアは近年急激に保有高を増加させている。一方、スイスは2000年前半に大量に売却したためそれ以降、順位を落としている。

図4:中央銀行の金(ゴールド)保有における購入・売却量の合計 (単位:トン)

左:全体 右:中国・インドを除いた全体

出所:ワールドゴールドカウンシル公表のデータより筆者作成

2009年の初旬を境に、それまでマイナス(売却量が購入量よりも多い)状況であったが、その後はプラス(購入量が売却量)よりも多い状況となっている。

リーマンショック前の好況時、保有するメリットがなかった金(ゴールド)は、売却される対象であった一方、景気後退時は金(ゴールド)への投資が見直されてきたことがうかがえる。

図5:外貨準備高上位国の、外貨準備高に占める金(ゴールド)の割合と保有高ランキング

国名 外貨準備高(10億ドル) 金(ゴールド)の割合 金保有 ランキング
中国 3900.0 1.8% 6
日本 1260.7 2.1% 9
サウジアラビア 744.4 1.7% 17
スイス 545.8 6.0% 8
米国 434.4 72.2% 1
ロシア 386.2 13.0% 7
ブラジル 363.6 0.6% 42
韓国 362.8 1.0% 34
香港 328.5 0.0% 94
インド 325.1 5.4% 11
シンガポール 261.6 1.7% 27
メキシコ 195.7 2.3% 30
ドイツ 193.5 66.3% 2
アルジェリア 186.4 3.6% 25
タイ 157.2 3.3% 26
フランス 144.0 60.1% 5
イタリア 142.8 64.0% 4
トルコ 127.4 15.7% 12
マレーシア 116.0 1.4% 51
インドネシア 111.9 2.5% 40
英国 107.7 8.2% 18
ポーランド 100.5 3.7% 36

出所:ワールドゴールドカウンシル公表のデータより筆者作成

米国および欧州諸国は従来より(金本位制の名残等で)外貨準備高に占める金(ゴールド)の割合は高い傾向にある。

近年では、中国・ロシア・トルコなどの保有高の増加傾向が顕著であり、特に外貨準備高に占める金(ゴールド)の割合が低い国ほど、今後、保有する高を高める傾向が強まることも考えられよう。

図6:ロシア(左)、中国(右)中央銀行の金(ゴールド)保有における購入・売却量の合計(単位:トン)

出所:ワールドゴールドカウンシル公表のデータより筆者作成

図6の左のグラフのロシアは、2006年以降、着々と金(ゴールド)の保有量を積み上げている。右の中国は、2015年7月以降は毎月、購入・売却量の合計のデータを公表するようになったが、それ以前は6~7年に一度の頻度でまとめて公表されていた。

2002年以降、2015年12月までの合計は、中国が1,200トン超、ロシアが970トン超となり、現在イタリアやフランスの中央銀行が保有している量に匹敵する量を購入していたこととなる。

世界の情勢不安、自国通貨の信認などへの対応が保有量増加の理由の一つと考えられよう。

通貨不安または通貨安傾向が生じている国では、現地通貨建て金の上昇率が高い傾向に

図7:各国の通貨建ての金(ゴールド)価格の推移(2009年を100として指数化)
※1トロイオンスあたり

出所:ワールドゴールドカウンシル公表のデータより筆者作成

同じ1トロイオンスあたりの重さで、各国の通貨建ての金(ゴールド)価格を指数化(2009年を100)したものである。
ユーロ建て、ポンド建て、円建てなど比較的安定した通貨よりは、政情に不安を抱える国の通貨建ての金価格がより上昇していることが分かる。

こうした国の国内では、従来より自国通貨で自国通貨建ての金(ゴールド)を保有していた投資家においては、他通貨建ての金を保有していた投資家に比べて利益が大きくなっていることが伺える。

図8は、図7のデータにて、「米ドルを100」として、米ドル建ての金とパフォーマンスを比較している。

図8:各国の通貨建ての金(ゴールド)価格の推移(2009年を100として指数化)を、米ドル建てと比較した騰落率

出所:ワールドゴールドカウンシル公表のデータより筆者作成

さまざまな要因によって環境が不安定になったり、自国通貨が割安になった場合、その国の通貨で金(ゴールド)を保有することは、その国の投資家にとってポートフォリオを改善する手立てになるものと考えられよう。