今日のまとめ
- 通信業界は独禁法の見地から一旦分割され、最近また統合の途上にある
- AT&Tは財務力を生かした自社株買い戻しで一株当りの業績を保っている
- スプリントは高水準の先行投資中
- T-モバイルUSは巧妙なマーケティングでシェアを伸ばしている
- ベライゾン・コミュニケーションズはM&Aで米国携帯事業の持ち株比率をUP
- ボーダフォン・グループは事業譲渡で株主へ還元
通信業界の歴史
電話は1874年にアレキサンダー・グラハム・ベルによって発明されました。それを事業化するために彼は自らベル・テレホン・カンパニーを設立します。
ベル・テレホン・カンパニーはその後アメリカン・テレホン&テレグラフという名前に改名され、全米にサービスを広げ「マ・ベル(Ma Bell)」の愛称で親しまれました。
司法省は1974年にアメリカン・テレホン&テレグラフがその巨大な通信網を利用して独占的な価格設定をしているのではないかと疑い、調査に乗り出します。訴訟の末、アメリカン・テレホン&テレグラフは7つの企業に分割を命ぜられます。
こうして出来たのがアメリテック、ベル・アトランティック、ベルサウス、ナイネックス、パシフィック・テレシス、サウスウエスタン・ベル、USウエストの各社です。
その後、携帯電話会社やケーブル会社が電話会社と競合するようになった関係で、司法省は態度を軟化し、一度バラバラにされたそれらの企業が再びひっつくことを許しました。
ベライゾン・コミュニケーションズ(ティッカーシンボル:VZ)はベル・アトランティックを母体とし、合併を繰り返した結果出来た企業です。
AT&T(ティッカーシンボル:T)はサウスウエスタン・ベルが母体とし、合併を繰り返した末に出来た会社です。
一方、イギリスのボーダフォン・グループ(ティッカーシンボル:VOD)はもともとレーカルという名前のラジオ機器の会社だったのですが、次第に携帯電話事業に参入してゆき、アメリカの携帯電話大手エアタッチを1999年に買収します。そして全米をカバーするサービス網を構築するためベル・アトランティックの携帯事業とエアタッチの携帯事業を統合し、ベライゾン・ワイヤレスという名称でサービスを開始します。
今年に入ってベライゾン・コミュニケーションズはボーダフォンが所有するベライゾン・ワイヤレスの持ち株分を全部買い戻しました。
このような一連のM&Aの結果、アメリカの通信業界にはベライゾン・コミュニケーションズとAT&Tという二つの巨大企業が生まれました。
そして、彼らよりずっと規模の面で劣るスプリント(ティッカーシンボル:S)とT-モバイルUS(ティッカーシンボル:TMUS)がそれに続いているわけです。
スプリントの株式の80.3%は日本のソフトバンクが所有しています。ソフトバンクはさらにT-モバイルUSの買収にも関心を持っていると言われています。
AT&T
AT&T(ティッカーシンボル:T)は売り上げ規模で米国最大、時価総額ベースで第2位の通信会社です。
売上比率は携帯事業が54%、固定電話が46%です。
AT&Tの携帯事業は2013年の第4四半期に僅か56.6万人しか加入者が増えませんでした。携帯事業が伸び悩んでいる主な理由はT-モバイルUSが激しいセールス攻勢で顧客を奪っているからです。
同社はブロードバンド、ビデオ、インターネット電話を抱き合わせでオファーする「Uヴァース」というサービスを展開中です。
2014年と2015年のAT&Tの売上高成長率はそれぞれ2%前後にとどまるものと思われていますが、同社は積極的に自社株を買い戻しており、発行済み株式数の減少が一株当り売上高や一株当り利益の数字を押し上げています。
またAT&Tの配当利回りは5.7%あり、これは極めて魅力的な水準です。同社は従ってキャピタル・ゲインというよりインカム・ゲインが欲しい投資家に選好されそうな銘柄だと言えます。
スプリント
スプリント(ティッカーシンボル:S)は2013年7月にソフトバンクに買収されました。ソフトバンクは同社株式の80.3%を所有し、残りは一般株主が保有しています。
スプリントはもともとスプリント・ネクステルという名称だったのですが、ネクステルのビジネスは廃止し、社名も単に「スプリント」という名前にしました。
現在、同社は「ネットワークビジョン」という名前のインフラストラクチャのアップグレード工事を実施中で、これが完成すれば4G LTEのサービスが開始されることになります。現在の進捗状況は96%だそうです。
このアップグレードが終了するまでは他社に比べてスプリントのサービスは見劣りしており、その結果、一部の加入者はライバル企業に流れています。
現在のスプリントの加入者数は5,390万人です。
同社は課金体系を見直し中で、その結果、ARPU(ユーザー当たり単価)は下がってきますが、マージンは逆に拡大すると見られています。
スプリントは一連のM&Aで発行済み株式数が2012年の30.1億株から2013年に39.3億株に増えた関係で一株当りの売上高が急減しているように見えます。
T-モバイルUS
T-モバイルUS(ティッカーシンボル:TMUS)はドイチェ・テレコムが発行済み株式数の73.8%を支配しています。
2013年4月にメトロPCSを買収し、新会社としてスタートしています。下の業績のグラフのうち2012年の数字は、この買収前のT-モバイルUSA(=旧名称には「A」がついています)の数字です。
現在の同社の加入者数は4,670万人です。
最近、同社の加入者離反率は1.7%と低く、「シンプル・チョイス」と銘打たれた料金プランも好評です。
ベライゾン・コミュニケーションズ
ベライゾン・コミュニケーションズ(ティッカーシンボル:VZ)は時価総額ベースで全米最大の通信会社です。
同社の売上構成比率は携帯電話が67%、固定電話が33%となっています。
同社は2014年2月にイギリスのボーダフォン・グループからベライゾン・ワイヤレスの45%株式を1,300億ドルという巨額の取引で取得しました。この関係でベライゾン・コミュニケーションズの発行済み株式数は2013年の28.28億株から2014年は41.84億株へと増えます。
一株当り売上高の数字が急減しているのはそのためです。
なおこの取引は2014年のEPSを10%引き上げる効果があります。
ベライゾン・コミュニケーションズも配当利回りが4.5%と高いです。
ボーダフォン・グループ
ボーダフォン・グループ(ティッカーシンボル:VOD)はイギリスに本社を置く通信会社ですが、売上構成比率はドイツ18%、イギリス12%、イタリア11%、インド10%、スペイン9%、その他40%となっています。
2014年2月にボーダフォン・グループはベライゾン・ワイヤレスの45%株式を1,300億ドルでベライゾン・コミュニケーションズに売却しました。この売却益の70%は直ぐに株主に還元されます。その内訳はベライゾン・コミュニケーションズ株式が600億ドル相当、加えて240億ドル相当のキャッシュになります。
また同社は2月24日付けで6:11の株式分割を実施しており、下の一株当りのデータは、それを反映した数字になっています。
(この株価は6:11の株式分割の結果を過去に遡り反映しています)