株式投資の経験がある個人投資家なら、「PER」はよくご存じの方も多いかと思います。しかし、このPER、いざ実践で使ってみると、思いのほかうまくいかないのも事実です。そこで今回と次回の2回にわたり、PERを有効に活用する方法を考えていきたいと思います。

まずはPERの基本的な意味を確認

PERとは、「株価収益率」とも呼ばれ、株価が当期の予想1株当たり純利益の何倍の水準にあるかを表したものです。一般に適正水準は15~20倍前後とされ、PERが低ければ低いほど株価は割安、逆に高ければ高いほど株価は割高と判断します。

・PERの計算式 株価÷当期予想1株当たり純利益 (単位:倍)

なぜPERが低いほど株価が割安なのか、2つの銘柄を比較する形で説明してみましょう。

A株とB株は、いずれも予想1株当たり当期純利益が100円です。A株の株価は800円、B株の株価は3,000円です。PERを計算すると、A株は800円÷100円=8倍、B株は3,000円÷100円=30倍です。

ところで、当期純利益は株主のものです。当期純利益は株主への配当に使われ、残りは貸借対照表の純資産の部に組み入れられます。

当期純利益の水準が将来も一定であると仮定すれば、A株の場合は、投資資金800円を、8年間の利益で回収することができます。一方、B株は投資資金3,000円を回収するのに30年間の利益が必要となります。

投資資金回収に8年しかかからないA株の方が、30年かかるB株よりも株価が割安である、という判断が下せるのです。

PER30倍の銘柄がPER8倍の銘柄より割安?

上記がPERの基本的な意味ですが、実はこれだけしか知らないでPERを使うと、実践で大きな失敗をしてしまうことにもなりかねません。それはPERの表面的な数字のみで判断しようとしているからです。

上の例では単純にA株のPERの方がB株のPERより低いのでA株がB株より割安であると説明しましたが、実はPER30倍のB株の方がPER8倍のA株より割安、という可能性だってあるのです。

なぜPERの表面的な数字だけで投資判断することが失敗につながるのか、それはPERの計算式に原因があります。PERは、「当期予想1株当たり純利益」と同じ利益水準が将来も続くという仮定のもと、計算されているからです。

会社の業績が今年も来年もそれ以降もずっと同じ水準、というケースはあまりありません。業態によって、毎年の利益水準に大きなブレが生じてしまう会社もありますし、今後の利益成長が期待できる会社であれば、利益は毎年増加していきます。

ですから、例えば毎年の利益が安定している銘柄のPERが8倍、利益成長が著しい成長株のPERが30倍であった場合、単純に両者を比較してどちらが割安かを判断することはできないのです。

「低PER=割安」とは必ずしもいえない

個別銘柄のPERをみてみると、PERが8倍、9倍と非常に低い水準であるにもかかわらず株価はなぜか下落を続ける銘柄も珍しくありません。

また、低PERランキングが雑誌やネットの投資サイトなどでよく掲載されていますが、ただ単に低PERであることを理由に買っても、うまくいかないことが多いのです。

つまり、低PERであっても必ずしも割安というわけではないのです。

例えば、今期が業績のピークであると市場参加者の多くが予想しているために株価が伸び悩んだり、下落をはじめているのであれば、今期の予想利益をもとに計算されたPERは表面上低くなってしまいます。

したがって、低PERランキングの上位にある銘柄がこのようなケースに当てはまるのであれば、それらを手当たり次第買ったところで株価はちっとも上昇しないはずです。

「低PER=割安」と飛びついて買うのではなく、「なぜこの銘柄が低PERで放置されているのだろうか」、「今期が業績のピークで、来期以降業績が急速に悪化するのではないか」など、よく考えてみることが必要です。

本当に株価が割安に放置されていても株価が上昇するかどうかは別問題

そして、低PERである理由を色々考えた結果、本当にPERでみて株価が割安であることが判断できたとしても、必ずしも株価が上昇するとは限りません。特に、市場全体が軟調な局面では、どんなに割安な銘柄であっても何年もの間見向きもされないことも珍しくありません。

ただ、アベノミクス相場が始まった2012年11月中旬以降は、低PERに放置されている割安銘柄に見直し買いが入り、それまでPER5倍、6倍だったものが15倍程度にまで上昇したものも多く見受けられます。

したがって、業績が順調に伸びているにもかかわらず低PERに放置されている銘柄を見つけたら、まずはそれらをリストアップして定期的に株価をチェックしましょう。そして、株価のトレンドが上昇トレンドになったら新規買いすればよいでしょう。

くれぐれも低PERだからといって下降トレンドにある銘柄を飛びついて買うことのないようにしてください。

次回は、PERによる分析に向いている銘柄と向いていない銘柄について、実践での対応策も含めて解説していきます。