「上手な個人投資家」の投資成績がアベノミクス相場では振るわない

先日、ある雑誌の記者からこんなことを聞きました。
「昨年まで利益を上げていた上手な個人投資家は、今年はうまくいっていないらしい」

これを聞いて、筆者は一瞬「えっ!」と耳を疑いました。筆者としてはこれほどまでに利益を上げやすい相場などないのに、なぜうまくいっていないのかと思ったからです。しかし、冷静に考えてみると、「確かにそうかも知れない」と納得することができました。

おそらく、昨年11月中旬以降の上昇相場で、日本株投資で良い投資成果を挙げられた個人投資家は、次のような人たちだと思います。

  1. 筆者が提唱している「トレンドに従った売買」を実践している
  2. 塩漬け株を仕方なく保有している
  3. 初心者で、とりあえず買ってみた株をそのまま持ち続けている
  4. 「バイ・アンド・ホールド」の長期投資を実践している

株価が短期間に大きく上昇して明らかに過熱状態にあるにもかかわらず、買った株をそのまま持ち続けている個人投資家が、軒並み満足のいく投資成果を挙げているのです。筆者は②③④の投資スタイルには賛成しかねますが、結果的には今の相場にマッチしています。

昨年通用した投資手法がアベノミクス相場では通用しない?

逆に、昨年まで利益を上げていた上手な個人投資家というのは、下降トレンドの中を上手に泳いで利益を積み重ねてきた人たちです。彼らは下降トレンドの中、買った株をそのまま持ち続けるのではなく多少株価が上昇したところでしっかり利益確定売りをする、という方法で生き残ってきました。

ところが、昨年11月中旬以降の上昇相場では、テクニカルの過熱シグナルなどを頼りに、それまでと同様少しの上昇で利益確定売りをしたはいいものの、その後も株価が上昇する一方で、安く買い直すことができないまま手が出せずにいます。中には、明らかに買われすぎで株価が割高だ、として空売りを実行した結果、その後の株価上昇による含み損拡大で破産寸前に追い込まれている個人投資家もいるようです。

彼らは、各種テクニカル指標で株価が過熱状態を示したらすぐに売却していました。昨年11月中旬まではテクニカル指標が過熱状態を示すと、その後株価が下がっていたからです。しかし、それ以降はいくらテクニカル指標が過熱しようがお構いなしに、株価が上がり続けています。これまでうまくいった投資手法が通用しないのです。逆に、テクニカル指標の過熱状態など気にしない、もしくは知らないまま買い進め、保有を続けた個人投資家が成功しています。

今の日本株は、それまでの下げ相場をうまく生き残った上手な個人投資家が苦しむ一方、下げ相場にうまく対応できなかった個人投資家や初心者には優しいという、何とも皮肉な現象が起こっているといえます。

アベノミクス相場にぴたりとはまった「トレンドに従った売買」

手前味噌になりますが、筆者が本コラムや拙著などで以前から提唱している「トレンドに従った売買」という投資手法は、昨年11月中旬以降の相場環境に非常にマッチしたものになっています。なぜなら、確かに過熱感は非常に高いものの、「11月中旬以降、日本株は上昇トレンドが続いている」からです。

今はほとんどの銘柄が中長期の上昇トレンドに入り、そのまま上昇トレンドを維持しています。そのため「トレンドに従った売買」を行っていれば、必然的に買った株を持ち続けることになり、株価上昇の恩恵をフルに享受できています。特に、上昇トレンドの初期段階で買うことができていれば、銘柄によってはすでに株価が買値の3倍、5倍にまで上昇しているものも珍しくないはずです。

持ち合い相場では「トレンドに従った売買」は難しい

ところが、この「トレンドに従った売買」は、昨年11月中旬まではうまく行きませんでした。個別銘柄の株価に明確なトレンドが生じていなかったためです。

筆者は、個別銘柄の株価を観察して、「上昇トレンドに入ったかな?」という段階(具体的には25日移動平均線を株価が上抜けた直後)で買いに入ることが多いのですが、買った後上値が伸びずに再び株価が下げ出し、25日移動平均線を割り込み損切り、ということが繰り返し起こりました。

もちろんこの方法を実践する限り、大きな損失を出すことはありませんが、損切りを繰り返すことにより、どうしても小さな損失が積み重なっていきますから、非常にストレスのたまる相場環境でした。

そもそも、「トレンドに従った売買」というのは、「逆張り」ではなく「順張り」の方法です。順張りをするからには、トレンドがある程度の期間継続する必要があります。

しかし、昨年11月中旬までの持ち合い相場では、上昇トレンドに転じたかな? と思ったら株価が下落し、やはり下降トレンドだったか、と思うと株価が反転上昇、というように短期間でトレンドがころころ変わりました。そのような相場では、「トレンドに従った売買」は通用しにくいのです。

取れるときに大きく取るのが「トレンドに従った売買」

この「トレンドに従った売買」は、買値の10%、20%といった小さな利益を小掬いで取りに行くものではありません。上昇トレンドの起点近くから終点近くまでの大きな値幅をしっかりと取りに行く手法です。

したがって、トレンドが明確に表れない持ち合い相場にはめっぽう弱いのですが、ひとたび明確な上昇トレンドが生じれば、持ち合い相場で損切りを繰り返して溜まったストレスなど一気に吹き飛ぶほどの大きな利益を得ることができます。トレンドの長さにもよりますが、投資資金を2倍、3倍、5倍と増やすことも十分に可能です。

筆者は、小掬いで小さな利益を積み重ねていくよりも、取れるときにできるだけ大きく取りに行くこのスタイルの方が、トータルとして得られる利益は大きく出来ると思っています。

もちろん、この「トレンドに従った売買」は数ある投資手法のうちの1つに過ぎません。個人投資家それぞれ性格も考え方もリスク許容度も異なるため、1人ひとりが、「自分自身の投資スタイル」を自分自身で決めて、それをしっかりと身につけることが重要です。

筆者は、確かに持ち合い相場には弱いものの、上昇トレンドではしっかり利益が取れ、下降トレンドでは損失が最小限に抑えられるこの方法こそが、「自分自身の投資スタイル」です。

成長株の投資であればどんな相場でも対応可能?

上昇トレンドで効果を発揮する方法と、下降トレンドや持ち合いトレンドで効果を発揮する方法は異なるのが現実です。しかし一方で、相場環境に応じて投資スタイルを変えていくのは結構難しいものです。筆者も、投資スタイルを無理に変えることはせずに、下降トレンドや持合トレンドのときは利益を上げることよりも損失をできる限り小さくすることを心掛けています。

そんな中、昨年11月中旬以前も以後も株価の力強い上昇が続いている銘柄があります。それは売上・利益とも年々順調な伸びを続けている「成長株」です。

例えば、以前本コラムにて取り上げたジェイアイエヌ(3046)や、MonotaRO(3064)の株価チャートをみると、2年近くに渡って大きな押しもなく上昇を続け、株価も10倍以上になっています。

日本株が下降トレンドでも上昇トレンドでも、投資スタイルを変えることなく、かつ高いパフォーマンスを目指したいという個人投資家の方は、株価が大きく上昇する前の成長株を見つけて投資する、というのも1つの戦略だと思います。