「CCC」でキャッシュ創造力の高い企業を見つけよう

前々回及び前回では初心者向けコラムとして、キャッシュ・フロー計算書を用いた優良企業の探し方や安全性の見方をご紹介しました。今回は応用編として、「CCC」という少し別の切り口から、キャッシュ創造力の高い企業を見つける方法をご紹介します。

「CCC」とは、「キャッシュ・コンバージョン・サイクル」の略で、日本語では「現金循環化日数」とも表現されるようです。簡単に説明すれば、企業が商品や製品を現金化するまでに要する日数のことです。

CCCは以下の式で計算することができます。

CCC = 売上債権回転期間 + 棚卸資産回転期間 - 仕入債務回転期間

また、売上債権回転期間、棚卸資産回転期間および仕入債務回転期間はそれぞれ以下の式で表わされます。

  • 売上債権回転期間(日) = 売上債権 ÷ 売上高 × 365
  • 棚卸資産回転期間(日) = 棚卸資産 ÷ 売上原価 × 365
  • 仕入債務回転期間(日) = 仕入債務 ÷ 売上原価 × 365

注: 回転期間の計算式には他にもいくつか考えられますが当コラムでは上式を用います。

単純なCCCの計算例

CCCを初めて知る方にはピンとこないかも知れませんので、単純な例でCCCを計算してみましょう。

もし、8月1日に商品を仕入れ、8月15日に販売し、仕入代金を8月20日に支払い、売上代金を8月31日に回収したとすると、売上債権を有する日数は16日、棚卸資産を有する日数は15日、仕入債務を有する日数は20日ですから、CCCは16日+15日-20日=11日となります。

つまり、8月21日から8月31日までの11日分の仕入代金が必要となることを意味します。

この間の仕入代金は自己資金で賄うか、もしくは借入れで賄う必要があります。この必要資金のことを一般に「運転資金」と呼びます。

CCCが長くなれば、それだけ必要な運転資金も増えますから、借入金も増える傾向にあります。逆にCCCが短くなれば運転資金の必要額も少なくなりますから、借入金に頼らなくても済むようになります。

驚異的な資金創出力で高成長を遂げたアップル

驚異的な成長を遂げたアメリカのアップル(Apple)社は、CCCも驚異的であることで有名です。今年1月17日の日本経済新聞によれば、2010年度のソニー(6758)やパナソニック(6752)のCCCが約40日であったのに対し、アップルはなんとマイナス20日だったというのです。つまり、仕入代金を支払う20日も前に販売代金の回収が終わってしまっていることを意味します。

マイナス20日ということは、約3週間の間、アップルは販売代金を自由に使うことができます。実際、アップルはマイナスのCCCにより生み出された豊富な資金を新商品の開発や販促につぎ込んで大成功を収めたのです。

こうなれば、わざわざ借金をして運転資金を調達する必要などありません。実際、アップルの手元資金残高は760億ドルもある(1月17日日本経済新聞)というのですから驚きです。

5月25日の日本経済新聞では、パナソニックが在庫削減を実施して棚卸資産回転期間がたった2日短縮されるだけで、資金負担を400億円も減らすことができると記されています。

CCCの短縮は、運転資金を軽減させ、新たなキャッシュを生み出すことにつながるのです。

CCCが長いと高成長でも借入金が重くのしかかることに

CCCは業種により異なる傾向があり、メーカーはどうしても長くなりがちです。逆にスーパーなど食品小売業は、食料品の在庫日数が非常に短いのと、消費者に対し現金販売するため、CCCも短い日数となります。

また、企業が成長(売上増加)を続けるときも、このCCCが大きく響いてきます。もし売上規模が10倍になり、CCCが変わらなければ、運転資金も10倍必要になってきます。したがって、例えば飲食業や小売業などで、店舗数拡大により成長を続けているような場合、CCCの長い企業であればどうしても資金不足の傾向に陥ってしまうため、売上の増加に伴い借入金も増加する傾向にあります。

でも、CCCが短い企業であれば、運転資金を借入に頼らずに自己資金で賄うことも可能です。

さらにCCCがマイナスであれば、売上増加により資金がどんどん企業内に流れ込むことになりますから、新店舗出店などの設備投資資金さえも自己資金で賄うことができます。

この差は意外と大きいもので、まず借入金の利子負担による業績への影響があります。そして仮に成長が鈍化したり売上が減少する事態に陥った場合、借入金が企業経営に重くのしかかります。

業績不振にあえぐルネサスエレクトロニクス(6723)やシャープ(6753)、そして資金繰りがつかず破たんしてしまったエルピーダメモリ(6665)のように、業績が悪化した時の多額の借入金の存在は企業の存亡を左右する大きな要因の1つです。

したがって、同じように高成長を見せている企業であっても、借入金も売上と同じように増加している企業より無借金やそれに近い状態で売上をどんどん伸ばしている企業の方がより魅力的といえます。

小売業・卸売業の中でも食品スーパーや食品卸のCCCは圧倒的に短い

CCCについては30年間プロのアナリストとして活躍され、現在は独立されている有賀泰夫さんの「卸売業を深く知るためのサイト」にてその活用法が詳しく説明されていますので、CCCをさらに研究したい方はそちらをご覧ください。

そこでの分析によると同じ小売・卸売業であっても、ヤマダ電機(9831)やコーナン商事(7516)より、大黒天物産(2791)などの食品スーパーや加藤産業(9869)などの食品卸の方が断然CCCが短いことが分かります。そして、そうした企業は借入金が少なく済んでいることも分かります。

また、ドラッグストア業界では、高成長が評価され最近株価が急上昇しているコスモス薬品(3349)のCCCはマイナス28.8日と驚異的で、その結果実質無借金にもかかわらず新規出店が次々と行える状況となっていて、これが高成長の原動力となっています。ちなみにマツモトキヨシホールディングス(3088)の業績が伸び悩んでいるのは、CCCがプラス14日(筆者の簡易的計算による)とコスモス薬品と比べてかなり長いことも影響しているのではないでしょうか。有賀さんの分析によれば、コスモス薬品とマツモトキヨシホールディングスのCCCの違いは食品の取り扱い比率の差(コスモス薬品の方が圧倒的に高い)が要因とのことです。

国内外の景気や経済が混沌として先の見えない現在、単に売上や利益を伸ばしているだけではなく、借入金を必要とせずにCCCの短縮により成長に必要な資金を生み出すことのできる企業こそ、真の成長企業といえるのではないでしょうか。