倒産の危険性が低いのはどんな企業か

企業が倒産すると、その企業の株式の価値はゼロになってしまいます。そのため、倒産の危険性が低い企業の株式に投資するよう銘柄選びの際に注意を払うのは投資家にとってなかば常識です。

では、倒産の危険性が低い企業とはどのような企業でしょうか。真っ先に思い浮かぶのは、業績がよい企業です。何年も増収増益を続けていたら申し分なし、そこまではいかなくとも安定的に利益を確保していれば合格点です。

また、企業の有するキャッシュに注目するのも重要です。企業は赤字続きでもキャッシュがあれば倒産しませんが、黒字でもキャッシュがなければ倒産してしまうからです。その点からいえば、無借金経営やそれに近い状態の企業なら、倒産の危険性が低いと判断することができます。

でも、こうした企業以外でも、「つぶれにくい」企業は存在します。それは、「所有する不動産の含み益が大きい企業」です。

不動産の含み益が大きい企業は

2011年10月16日号の日経ヴェリタスに、上場企業の賃貸用不動産の含み益のランキングが掲載されています。その中の大同特殊鋼(5471)は、賃貸用不動産の帳簿価額5,349百万円に対して時価が25,689百万円となっており、20,340百万円の含み益を有していることが分かります。

賃貸用不動産の含み損益については、「賃貸用不動産の時価等の開示に関する会計基準」にのっとり有価証券報告書に注記されていますので、気になる企業があれば、実際に見て確認してみてください。

企業が有する不動産は、本社として使っているもの、工場として使っているもの、賃貸物件としているものなど様々ですが、最も換金しやすいのは賃貸物件としているものや未使用の物件です。特に、都心部の一等地など立地条件の良い物件であれば、買い手も容易に見つかるでしょうから、時価に見合った価値があると考えてよいでしょう。

本社や工場は、事業をそこで行っている場所なので、賃貸物件や未使用物件に比べると売却に手間や時間がかかります。そして、実際に売却できるかどうかは立地する場所次第で大きく異なります。

都心部やその近辺に位置するのであれば、比較的容易に売却が可能です。例えば葛飾区では、上場企業の工場跡地にマンションが建設される光景をよく見かけるものです。一方、郊外や地方にある工場など、工場以外の用途への転用が難しいような物件は、時価はあってないようなもので、売却・換金は困難といえます。

したがって、ただ含み益のある不動産を所有しているだけでなく、「いざというとき売却が容易」で「高く売れる」不動産を持っているのがつぶれにくい企業です。

いわゆる「老舗企業」は、何十年も前から保有を続けて多額の含み益を抱える不動産を持つことが多いため、倒産に対する抵抗力が備わっていることが多いといえます。

これ以外にも、有価証券をはじめとして「売れるものを持っている企業」は、例え業績が良くないとしても、換金してキャッシュにすることができますから、倒産リスクは小さくなります。

含み損を抱える不動産を持つ企業はどうか

では逆に、保有する不動産が含み損を抱えているケースはどうでしょうか。結論から申し上げると、含み損を抱えている不動産を保有していても、売却してキャッシュにできるならばその分だけ倒産リスクの低減につながります。重要なのは含み益か含み損かではなく、「いざというとき売却してキャッシュに換えることができるかどうか」です。

簿価500億円、時価400億円の不動産を所有しているケースを考えてみましょう。今は「減損会計」の適用により、含み損は減損損失として計上されることになるため、差し引き100億円の減損損失が損益計算書に計上されます(注:減損会計はもっとややこしいものですが、ここでは説明の便宜上非常に単純化しています)。

しかし、損益計算書に100億円の損失が計上されようが、キャッシュには何の影響も与えません。いくら赤字を出してもキャッシュがあれば倒産しませんから、特に問題ありません。それよりも、この不動産をいざという時に売れば400億円のキャッシュに換えることができる、という事実の方がより重要です。

今は叩き売られた「つぶれにくい企業」の株に投資するチャンス

今のように日本株全体が低迷している時は、将来の株価上昇が大いに期待できる企業がバーゲン価格で手に入る絶好のチャンスです。

もちろん下降トレンド真っ只中で買うことはお勧めしませんが、上で取り上げた大同特殊鋼も、2002年11月に109円まで下落したものの、その約3年後の2006年2月には1,280円と約12倍に上昇しました。多額の価値を有する不動産を持っていて倒産リスクが低いにもかかわらず極限まで叩き売られている企業の株を少量でも買っておけば、数年後には5倍、10倍になっているかもしれません。