最近は増資発表銘柄が相次ぐ

8月30日に、太平洋セメント(5233)が増資を発表しました。それを受けた翌日の株価は、前日終値158円から一時29円(約18%)安の129円まで下落しました。その後も9月8日には123円まで下がるなど、軟調に推移しています。

このように、最近は増資を発表した銘柄の株価が急落するケースが後を絶ちません。そこで今回は、以前に増資を発表した銘柄の発表後の値動きを追跡検証します。その結果を踏まえて、今後保有銘柄が増資を発表したとき、その銘柄を持ち続けてよいのか、それとも一旦処分した方がよいのか、そしていつ買い直せばよいか、といった点を考えていきたいと思います。

増資発表により直後から大きく売られる

まず、増資の発表があった銘柄の多くは、その直後から希薄化懸念により株価が大きく売られます。例えば今年7月11日(場中)に増資発表のあったエルピーダメモリ(6665)は、前営業日8日の終値908円に対し、11日終値は787円と1日で13.3%も急落しました。また、7月11日の引け後に増資発表があったフェローテック(6890)は、11日終値1,787円に対し、翌12日には一時11%安の1,590円まで売り込まれました。

「希薄化懸念」…増資による発行済み株式数の増加によって、1株当たり当期純利益や1株当たり純資産といった1株当たりの価値が低下する(=希薄化)ことに対する懸念。

発行価格決定までは弱含みの小康状態に

増資発表から1~2週間程度で新株の発行価格が決定します。発表直後に大きく下がった株価は、発行価格決定までは多少弱含むこともあるものの小康状態になります。これは、できるだけ安く新株を手に入れたい投資家からの売り圧力がかかる一方で、発行価格があまりにも低くなりすぎると、当初予定していた額よりも調達できる資金の額が少なくなってしまうことから、買い支えのようなものが入ることにより両者の力が「綱引き状態」になっているためと想定されます。

例えばエルピーダメモリは、発表日(7月11日)の終値787円、その後7月19日に718円まで売り込まれたものの、発行価格決定日(7月25日)の終値は770円と、発行価格決定まではまさに弱含みの小康状態で推移していました。

同様に太平洋セメントも、発表日翌日(8月31日)の終値が135円、発行価格決定日(9月7日)の終値は125円、その間の安値が124円という値動きでした。

発行価格決定後、さらに売り込まれることも

過去の増資のパターンは、増資発表直後に希薄化懸念から大きく売られるものの、その後発行価格決定までは小康状態となり、発行価格が決定すればその後は反発する、という動きが多かったように思います。

優良企業の増資であれば新株を欲しい投資家も多く、彼らは発行価格をできるだけ安くしようと仕掛けてくることもありますが、発行価格が決まれば株価を下げる理由がなくなります。逆に彼らが新株を取得した後は株価が上昇した方が彼らにとってもよいため、株価は反発する傾向にありました。

例えば今年初めに増資発表のあった五洋建設(1893)は、増資発表前の1月6日終値は145円、発行価格(124円)決定日の1月17日には126円まで下がったものの、その後はこの126円を下回ることなく上昇しています。

ところが、最近は、発行価格が決定しても反発せず、さらに株価が大きく下がるケースも目立ってきています。

エルピーダメモリは、7月25日に発行価格が746円と決定しましたが、その後も一向に下げ止まらず、8月23日には440円まで下落しています。わずか1カ月で発行価格から40%以上も下落してしまったのです。増資発表前日の908円から比べると半値以下の水準です。フェローテックも、7月20日に発行価格が1,591円と決定したものの、株価はその後も下げ続け、8月24日には1,290円まで下落しました。エルピーダメモリ、フェローテックの両銘柄とも、本コラム執筆時点(9月11日)では軟調な値動きが続いています。

検証結果から見えてくる結論

上記の事例からも分かるように、最近は増資発表により株価が売り込まれ、さらに発行価格決定後も株価が下がり続けるというケースが目立っています。こうした株価の動きから考えると、保有株に増資の発表があったら、一旦すぐに売却した方がよさそうです。そして、株価が上昇トレンドに復帰した時点(例えば株価が25日移動平均線の上にあり、25日移動平均線自身も上昇している状態)で買い直すのが安全だと思われます。

また、発行価格では大量の新株が発行されているため、株価が発行価格を下回っている場合には発行価格が強力な上値抵抗になります。新株を取得した投資家の中には、損をしてまで売るつもりはないが、株価が発行価格の水準まで戻れば売りたいと考えている人も多いからです。例えば2010年に増資を実施した相鉄ホールディングスは、発行価格252円ですが、これが上値抵抗となっているようで、ここ数カ月は発行価格を少し下回った水準で小さい値動きを続けているだけの状態です。

したがって、株価が発行価格を恒常的に上回るようになったことを確認してから買った方が資金効率の面からは良いでしょう。

増資による株価下落リスクには自己防衛で応じるしかない

増資発表があることは事前には分かりませんし、株価チャートを見ていてもその兆候を感じることは困難です。今回の太平洋セメントの増資発表のタイミングも、株価チャート上では直近高値を超えて上昇し、ついに本格的な上昇トレンド入りか、と大いに期待をもった途端のことで、完全に出鼻をくじかれた形になりました。

したがって、保有する銘柄が突然増資を発表することはリスクとしてある程度覚悟しておく必要がありそうです。リスクを軽減するためには1つの銘柄に資金を集中させないことが重要です。保有銘柄が増資発表をして株価が20%下がったとき、その銘柄に全資金を投入していれば資産が20%目減りしてしまいますが、その銘柄に投入した資金が全体の10%なら、影響は20%×10%=2%で済みます。その上で増資発表があればすぐに一旦売却し、株価の下げ止まりを確認後に買い直すのが安全です。

また、どちらかといえば、サービス業よりも、多額の設備投資を必要とする製造業の方が増資ニーズは高いと思われますので、銘柄選択時にあまり製造業に偏り過ぎないようにする、という対応も考えられます。

いずれにしろ、「増資による株価下落」というリスクには自己防衛で対応するしかなさそうです。