正解

 投資してよいのは、【H社】だけです。

 H社は、上限800億円(発行済株式総数の5%)の自社株買いを実施すると発表しました。

 財務内容にゆとりがあるために、大規模の自社株買いを実施して、ROE(自己資本利益率)を高め、株価を上昇させようとしていると考えられます。

【A社】~【G社】は、財務に問題がある可能性があるので、投資は避けるべきです。

【A社】一般的に、信用格付けでBBBまでを「投資適格」、BBから下は「投機的」と判断します。BBでも投資して問題のない株もありますが、株価がPBR0.4倍まで売り込まれているBB銘柄は投資を避けるべきと思います。

【B社】メイン銀行から派遣されていた役員が辞任したということは、メイン銀行が支援をやめる可能性があります。これだけで断定することはできませんが、PBR0.4倍まで売り込まれた株でこういう話が出た時は、投資はやめるべきです。

【C社】2期連続で赤字を計上、無配に転落。これは説明不要かもしれません。

 赤字だけならば投資して問題ない場合もありますが、無配(配当金無し)に転落したということは、財務に問題がある可能性もあります。

【D社】流動資産500億円に対し流動負債が1,000億円。流動負債は原則1年以内に返済期限の来る負債です。一方、流動資産は原則1年以内に現金化できる資産です。流動負債が流動資産の2倍あるということは、目先1年、資金繰りが厳しくなる可能性があります。理想的には、流動資産が流動負債の2倍以上あると良いです。

【E社】売上高120億円に対し在庫は通常20億円くらいだが60億円に増加。

 在庫急増は、経営悪化のシグナルです。売上高120億円に対して在庫が20億円(売上高の2カ月分)くらいならば問題ありません。急に60億円(6カ月分)に増えたのが問題です。販売不振で「意図せざる在庫」が積みあがっている可能性があります。今後、資金繰りが苦しくなったり、不良在庫の減損が発生したりするおそれがあります。

【F社】売上高120億円に対し売掛金は通常10億円くらいだが40億円に増加。

 売掛金の急増も、問題です。売上高120億円に対して売掛金が10億円(売上高の1カ月分)くらいならば問題ありません。急に40億円(4カ月分)に増えたのが問題です。大口の取引先の資金繰りが悪化して、売掛金の回収ができなくなるリスクも想定されます。最悪、粉飾決算(架空売上の計上)の可能性もあります。

【G社】株価が1カ月で1,000円から400円まで急落。あまりに下落ピッチが速すぎます。財務上、深刻な問題が発生している可能性があります。

 以上の説明より、A社~G社は買うべきではありません。買うべきはH社です。

なぜ今、PBR1倍割れ銘柄が注目されるのか

 東京証券取引所の上場企業で、「PBR1倍割れ」銘柄が半数近くを占めています。財務内容が悪く、収益力に問題があってPBR1倍を割れている銘柄ばかりならばやむを得ませんが、そうではありません。財務内容が良好で、収益力もそこそこ安定しているのに、PBR1倍を割れている企業が日本にはたくさんあります。

 自社株買いを増やしてROEを高めるなど、株価を上げる努力が足りないことが原因と考えられます。

 これに対して東京証券取引所は、PBR1倍割れなど株式市場での評価が低い企業に「株主価値改善策の開示と実施」を要請しました。これを受けて、PBR1倍割れなどの割安株で、自社株買いを増やすなどの動きが出ています。

 そのような背景により、今、日本株市場では、PBR1倍割れ銘柄が注目されています。

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