「クイズでわかる!資産形成」(毎週土曜日に掲載)の第50回をお届けします。資産形成をきちんと学びたい方に、ぜひお読みいただきたい内容です。
今日のクイズ:株価がPBR0.4倍の銘柄の中で投資してもよいものは?
株式投資で、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れている銘柄は「割安」と言われることがあります。PBR1倍は、解散価値と言われることもあり、通常、株価はPBR1倍を超えていることが多いからです。
PBR0.8倍の銘柄に投資し、将来PBR1倍まで回復するのを待つ投資戦略を「割安株投資」と言い、最高益を更新していく株を探して投資する「成長株投資」と対極にあります。
今日は、「PBR0.4倍」のように、「割安」を通り越して「激安」とも言えるような株に投資する際に、必ず見なければならないことをお伝えします。それは「財務内容」です。
財務になんの問題もないのに不人気でPBR0.4倍になっているような「激安株」に長期投資して、いつか投資価値が見直されるのを待つのは悪くないと思います。ただし、財務に問題があり、倒産リスクが懸念されて株価がPBR0.4倍まで売り込まれている銘柄に投資するのは、絶対ダメです。
それでは、今日のクイズです。
PBR0.4倍の銘柄に投資しようと思っていますが、財務に問題がある可能性のある銘柄には、投資しません。
以下【A社】~【H社】の株価は全てPBR0.4倍です。この中で、財務内容に問題がなく、投資してもよいと推定される銘柄はどれでしょう? 各社の説明を読んだ上で、一つだけ選んでください。
【A社】米系の大手格付け会社(S&P Global Ratingsなど)が信用格付けをBBB(トリプルビー)からBB(ダブルビー)に引き下げ
【B社】メイン銀行から派遣されていた役員が辞任、銀行から代わりの役員は任命されない
【C社】2期連続で赤字を計上、無配に転落
【D社】バランスシートを見ると、流動資産500億円に対し流動負債が1,000億円ある
【E社】年間の売上高120億円に対しバランスシート上の棚卸資産(在庫)は通常20億円くらいだが、今年60億円に増加
【F社】売上高120億円に対しバランスシート上の売掛金は通常10億円くらいだが、今年40億円に増加
【G社】1カ月前まで株価は1,000円(PBR1倍)だったが1カ月で株価が400円(PBR0.4倍)まで急落
【H社】上限800億円(発行済株式総数の5%)の自社株買いを実施すると発表
バランスシートとは
会計の専門用語がいきなりたくさん出てきて、分からなくなってしまった方もいると思います。ここから少し、このクイズを解くのに必要な会計の基礎知識を解説します。
まず、以下の図がバランスシート(貸借対照表)です。
この図の意味から、簡単に説明します。
バランスシート(貸借対照表)=資産、負債、資本の目録
バランスシートを見ると、事業に使う資産を得るための資金をどう調達したか分かります。上の例では、資産100億円を、負債(借金など)60億円+資本(株主の出資金など)40億円で調達したことがわかります。
この会社は、自己資本比率(資本÷総資産)が40%です。
PBR1倍とは
PBRとは、自己資本と比較して、どの程度株価が割安であるのかを測る指標です。
まず、PBRを説明する以下の図をご覧ください。出資してもらった1億円に加えて、もう1億円を借金し、合わせて2億円の資産を持って、ビジネスを始める企業のバランスシートのイメージ図です。
設立直後ですが、いきなり株式市場に上場できるとします。さて、株式時価総額はいくらになるでしょうか。普通に考えると、1億円になります。まだ何もしていない企業ですから、株式時価総額は、純資産価値と同額の1億円となると考えられます。
この状態をPBR1倍といい、株式時価総額÷純資産=1で計算します。次に、PBR3倍、PBR0.7倍の意味を説明します。
純資産1億円でも、将来、利益をどんどん稼ぐ期待が高ければ、株式時価総額は3億円になることもあります。この状態が、PBR3倍です。一方、将来、赤字が続くと考えられる株は、株式時価総額は1億円を割り込み、7,000万円となることも、あり得ます。その状態が、PBR0.7倍です。
正解
投資してよいのは、【H社】だけです。
H社は、上限800億円(発行済株式総数の5%)の自社株買いを実施すると発表しました。
財務内容にゆとりがあるために、大規模の自社株買いを実施して、ROE(自己資本利益率)を高め、株価を上昇させようとしていると考えられます。
【A社】~【G社】は、財務に問題がある可能性があるので、投資は避けるべきです。
【A社】一般的に、信用格付けでBBBまでを「投資適格」、BBから下は「投機的」と判断します。BBでも投資して問題のない株もありますが、株価がPBR0.4倍まで売り込まれているBB銘柄は投資を避けるべきと思います。
【B社】メイン銀行から派遣されていた役員が辞任したということは、メイン銀行が支援をやめる可能性があります。これだけで断定することはできませんが、PBR0.4倍まで売り込まれた株でこういう話が出た時は、投資はやめるべきです。
【C社】2期連続で赤字を計上、無配に転落。これは説明不要かもしれません。
赤字だけならば投資して問題ない場合もありますが、無配(配当金無し)に転落したということは、財務に問題がある可能性もあります。
【D社】流動資産500億円に対し流動負債が1,000億円。流動負債は原則1年以内に返済期限の来る負債です。一方、流動資産は原則1年以内に現金化できる資産です。流動負債が流動資産の2倍あるということは、目先1年、資金繰りが厳しくなる可能性があります。理想的には、流動資産が流動負債の2倍以上あると良いです。
【E社】売上高120億円に対し在庫は通常20億円くらいだが60億円に増加。
在庫急増は、経営悪化のシグナルです。売上高120億円に対して在庫が20億円(売上高の2カ月分)くらいならば問題ありません。急に60億円(6カ月分)に増えたのが問題です。販売不振で「意図せざる在庫」が積みあがっている可能性があります。今後、資金繰りが苦しくなったり、不良在庫の減損が発生したりするおそれがあります。
【F社】売上高120億円に対し売掛金は通常10億円くらいだが40億円に増加。
売掛金の急増も、問題です。売上高120億円に対して売掛金が10億円(売上高の1カ月分)くらいならば問題ありません。急に40億円(4カ月分)に増えたのが問題です。大口の取引先の資金繰りが悪化して、売掛金の回収ができなくなるリスクも想定されます。最悪、粉飾決算(架空売上の計上)の可能性もあります。
【G社】株価が1カ月で1,000円から400円まで急落。あまりに下落ピッチが速すぎます。財務上、深刻な問題が発生している可能性があります。
以上の説明より、A社~G社は買うべきではありません。買うべきはH社です。
なぜ今、PBR1倍割れ銘柄が注目されるのか
東京証券取引所の上場企業で、「PBR1倍割れ」銘柄が半数近くを占めています。財務内容が悪く、収益力に問題があってPBR1倍を割れている銘柄ばかりならばやむを得ませんが、そうではありません。財務内容が良好で、収益力もそこそこ安定しているのに、PBR1倍を割れている企業が日本にはたくさんあります。
自社株買いを増やしてROEを高めるなど、株価を上げる努力が足りないことが原因と考えられます。
これに対して東京証券取引所は、PBR1倍割れなど株式市場での評価が低い企業に「株主価値改善策の開示と実施」を要請しました。これを受けて、PBR1倍割れなどの割安株で、自社株買いを増やすなどの動きが出ています。
そのような背景により、今、日本株市場では、PBR1倍割れ銘柄が注目されています。
テクニカル・ファンダメンタルズ分析を詳しく学びたい方へ
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「2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ ファンダメンタルズ編」
一問一答形式で、株式投資のファンダメンタルズ分析を学ぶ内容です。
2021年12月出版の前作「2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ」の続編です。
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