賃貸VS持ち家、「資産形成できるのは持ち家」

――賃貸か持ち家、どちらが得かという議論がありますが、塩澤さんはインフレが続く中では持ち家の方が有利だと指摘していますね。

 住宅ローンは積み立て投資、賃貸は掛け捨てだと思っています。家は住宅ローンを返済した後は資産になりますが、賃貸は家賃をずっと払い続けても何も残りません。資産形成をできるのが不動産投資、家を買うことです。

 賃貸は働いている間はいいですが、退職後、60歳や70歳の高齢になった時に部屋を借り続けられるのか、引っ越してもいい家に住めるのかというと疑問です。

 賃貸物件の大家さんの中には、65歳を超えた人には認知症になって徘徊(はいかい)するリスクや孤独死の恐れがあるので、なるべく貸したくないと考える人もいます。終の棲家(ついのすみか)の確保や資産形成の観点から持ち家の方がいいと思います。

 最近すごく家が高くなっているので、取得のハードルが高いのですが、立地は重視した方が今後の資産価値は保たれやすいです。

家を買うなら再開発計画があるエリア

――サラリーマンの手が届くエリアだったら、どこら辺が狙い目でしょうか?

 私は都内では池袋(豊島区)、赤羽(北区)と、田端(同)の3カ所を結んだエリアを「城北デルタ」と呼んでいますが、価格も手ごろで手が届きやすいエリアだと思っています。都心部の大手町や東京駅へのアクセスが非常に良く、台地の上で荒川が氾濫した時の浸水想定区域にかかっていません。物価も安いです。エリア内の王子(北区)では再開発も予定されています。

 こうした地域は一例ですが、身の丈に合った価格の範囲内で、将来資産として持てるような家を探していくのがいいと思います。

 中古マンションでも再開発計画があるところだったら、新築マンションも後から建ってくるので地価も上がっていきます。そうした資産価値が落ちにくい物件を買うのも一つの手です。

 資産価値は立地次第です。その物件にどれだけ希少性があるかということです。駅から徒歩1分で行ける範囲の面積を1とした場合、徒歩10分圏内は100あります。徒歩10分圏内にはライバル物件が徒歩1分圏内の100倍あるわけです。

 逆に言うと、徒歩1分の物件は徒歩10分のものの100倍希少性が高い。中古でも希少性の観点から選べば多少古くなっても資産価値の下落はある程度免れることができます。

――少子高齢化で家の価値が下がることはありませんか?

 都心部はまだ人が流入していますが、郊外は少子高齢化で厳しくなってきます。人口が減ると利便性の高いところに人が集中するので、人の流れは都心に向かいます。

 今までの人口が増えていた時代は、都心は混雑していたので郊外がいいということで宅地が開発されロードサイドのお店もできました。しかし、人口が減ると今までと逆のことが起きます。

 それを踏まえた上で、再開発が計画されているところを狙っていくと大きく外すことはない。不動産は株と違って、「インサイダー取引」の規制がありません。再開発の話は不動産業の友人がいれば情報が入ってきます。区役所や市役所に行けば、再開発の告知がされていることもあります。そういう情報収集をしていくといいと思います。

 ただ不動産価格は株と違って、バーンと跳ね上がりはしません。再開発が10年後だったら、10年かけてじわじわと上がる。焦らず気長に待つスタンスがいいでしょう。

――地方都市はどうですか?

 大阪や名古屋といった政令指定都市であれば大きく値崩れすることはないと思います。ただ政令市でも大きな駅の近くほどいいです。東京でも、電車の駅からバスで行き来する場所だと値段が下がっています。利便性は気を付けた方がいいと思います。

住宅ローンは年収の5倍が安全、ペアローンは事前に話し合いを

――住宅ローンは借りるなら年収の何倍くらいがいいですか?

 年収の5倍ぐらいが安全です。それ以上借りると生活の余裕が圧迫される場合があります。変動金利で借りた場合は、金利が上がった際に金利負担が大きくなるリスクもあります。

 一方で、物件価格が高騰しているため、5倍じゃ買えないケースもあると思います。その場合は、最大でも7倍と考えています。投資も手に汗握るところまで突っ込んでしまうと、急落時に大変です。

 多額の資金で短期間の投資をするよりも長く続けることが大事です。投資余力をしっかり残しつつ、無理のない範囲ですることが長く続ける秘訣(ひけつ)です。この考え方は住宅ローンの借り入れも全く同じです。

――夫婦二人とも高年収のパワーカップルが増えていますが、夫婦が同じ金融機関でローンを組むペアローンも人気です。離婚のリスクも常にあると思うのですが。

 戦略としていい考えだと思います。返済期間の35年間、二人とも働き続けられる、離婚しない自信があるなら、ペアローンを組めばいいと思います。もし懸念があるなら、返済を続けられない可能性があるので、1馬力で組んだ方がいいでしょう。夫婦の話し合いが必要です。

 ペアローンを組んで離婚した場合、ローンを二人のどちらかに寄せることは簡単にはできません。銀行からすると、二人に貸したわけで、離婚という個人的な事情で一人に住宅ローンの返済義務を全額寄せることは認めるわけにはいかないわけです。

 離婚後にどちらかが家を売りたい、どちらかが住み続けたいとなると、交渉がまとまらないこともあります。売却する場合も利益が出るならいいですが、損が出るとどちらがいくら負担をするんだという話になって、冷え切った関係で話し合うのは大変です。

 ペアローンは二人で不動産事業をするのと一緒です。二人でビジネスを始めるという観点で、リスクシナリオもあらかじめ考えておくといいでしょう。(取材・本文:トウシル&メディア編集部 田嶋啓人)

塩澤崇(しおざわ・たかし)氏 MFS取締役COO(最高執行責任者)。東大院修了。2006年モルガン・スタンレー証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)で住宅ローン証券化ビジネスを担い、2009年ボストン・コンサルティング・グループ、金融機関向けの戦略コンサルティング業務に従事。2015年9月、MFS取締役COOとして、住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」の金融機関提携・マーケティング・事業提携・広報を管掌。YouTubeチャンネル「住宅ローンアナリスト塩澤」で住宅ローン情報を発信。「モゲ澤」の愛称で知られる。著書に『金利が上がっても、 住宅ローンは「変動」で借りなさい 1時間でわかる「新時代のお金の常識」