「怖がらせる営業」は実は今でも存在する

 ウクライナ戦争が勃発直後の2022年3月、筆者は「有事(戦争勃発)が与える金(ゴールド)・原油への影響」というレポートを書きました。この中でイラン・イラク戦争勃発(1980年9月)と、湾岸戦争勃発(1991年1月)直後に、金(ゴールド)価格が下落したことについて触れました。

 このレポートがとある関係者の目に留まり、戦争勃発直後に金(ゴールド)価格が下がるというアナリストは「常識がない」と、筆者は批判を受けました。確かに、同戦争の勃発直後、筆者が知る金融機関の人々は「戦争が起きたから金(ゴールド)価格は上がるしかない」との考えで一致していました。

 彼らの共通点は、「金融商品を売る側」でした。戦争勃発が金(ゴールド)を売る絶好のタイミングだと思ったのでしょう。そして、それを否定的に述べた筆者のことを、苦々しく思ったのだと思います。(2022年の金(ゴールド)の国際相場は「下落」だった)

 彼らには、戦争が勃発したから人々の恐怖をあおってよい→(戦争勃発で)株式市場が混乱しているので、余計に恐怖をあおりやすい→そして1970年代後半の「有事の金(ゴールド)買い」だった分かりやすい例を示す→多くの投資家が金(ゴールド)を買うだろう、これを否定するアナリストには常識があるはずがない、という思考があったのだと思います。

 こうした彼らにとっての常識は、果たして「顧客本位の業務運営」の考えにのっとっているのでしょうか。数十年先の顧客の未来ではなく、今月の自分の業績や会社の中の自分の立場を見ている姿勢は、あの商品先物の営業マンと本質的に何も違いません。

 お客さまの資産形成の伴走者は、投資の考え方の方向性を微調整することはあっても、人の持つ特性を逆手に取ることはしないでしょう。