ESG推進下でプラチナ需要はむしろ増加

 以下はフォルクスワーゲン問題が発覚した際に、非難の的となった自動車排ガス浄化装置向け需要の推移です。確かに同問題発覚後、西欧での同需要は減少しましたが、急減はしませんでした。

図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移 単位:千オンス

出所:World Platinum Investment Councilのデータを基に筆者作成

 問題発覚とは別の要因(コロナショック)により一時的に減少幅が拡大した時期がありましたが、現在は北米、中国、インドなどでの増加が目立ち、2024年は問題が発覚した2015年を上回る見通しが出ています。プラチナはほとんど、フォルクスワーゲン問題の呪いから解き放たれた状態にあるといえます。

 増加の背景については、電気自動車の影響が及びにくい大型車(トラックやバス)の排ガス浄化装置向け需要が増えていること、北米や欧州の一部でハイブリッド車への回帰が起きていること、世界各国で排ガス規制が年々強化され、自動車一台当たりに使われる排ガス浄化装置向けの需要が増えたこと(浄化装置の機能向上を背景とした需要増加)などが考えられます。

図:内燃機関を有する自動車1台当たりの排ガス浄化装置向け貴金属需要(筆者推計 世界合計) 単位:グラム/台

出所:Johnson Matthey、OICA、IEAのデータを基に筆者推計

 また、長期視点で見れば、日本と欧州各国が連携してルール作りを行っている水素社会にプラチナが大きく貢献する可能性があります。水の電気分解原理を利用した水素の生成装置では、使用する電気が再生可能エネルギー由来であれば、そこで生成される水素は「グリーン水素」と呼ばれます。グリーン水素は環境に最も優しい水素です。

 水素は生成過程を明確にする目的で色分けされています(水素自体は無色)。グリーン水素のほか、化石燃料を原料として生成した際に発生する二酸化炭素を回収した水素はブルー水素、回収せずに大気中に放出した水素はグレー水素と呼ばれます。

 グリーン水素のうち、使用する電力が太陽光発電によって得られたものであればイエロー水素、原子力発電によって得られたものであればピンク水素と呼ばれます。また、グレー水素のうち石炭由来であればブラック水素などと呼ばれることもあります。

 プラチナ需要は、短期的に自動車排ガス浄化装置向けが増加傾向にあり、かつ長期的には新しい分野で増加する可能性があります。この10年弱の間、プラチナ相場は長期低迷を強いられてきましたが、こうした需要回復ムードを機に、まさに今、長期視点の反発に向かおうとしているように見えます。

図:期待されるプラチナの新しい需要(水素関連)

出所:各種資料を基に筆者作成