追加利上げの理由は「2%」実現の確度(確率)が高まること

 それでは、上述した「マイナス金利の解除後も物価目標の達成が可能と判断すれば」というくだりが、今回のインタビューでどのように説明されたのかから見ていきましょう。植田総裁は記者から「賃金と物価の好循環が実現していけば、年内の追加利上げもあり得ますか」と聞かれ、以下のように回答しています。

データ次第です。今後は、短期金利を操作する普通の金融政策に戻ります。目標が2%の持続的・安定的な達成ということですので、そこからの距離に応じ金利を調整していきます。

今回、インフレ率から輸入価格上昇などの一時的な要素を取り除いた『基調的な上昇率』が2%に近づいていく見通しを持てたので、大規模緩和を解除したわけです。

さらにこれから、自信の度合い、確度が上がっていけば、金利を動かす理由の一つとなります。例えば70%の確度を解除の基準だとして、75%になったので解除したとします。これが80、85%になれば金利を動かす理由になります。

(出所)朝日新聞、楽天証券経済研究所作成

 この回答の重要なポイントは、年に4回(1月、4月、7月、10月)公表される「経済・物価情勢の展望」の物価見通しが変わらなくても、「物価安定の目標」2%が実現する確度(確率)が高まったと日銀が判断すれば、追加利上げがあり得るという点です。

 すなわち、追加利上げと「経済・物価情勢の展望」公表のタイミングは必ずしも一致しません。ならばいつなのか。それに対する重要なヒントが、冒頭の「データ次第です」という言葉に込められています。

「2%」実現の確度(確率)を高めるのは夏から秋にかけての経済・物価動向

 この「データ次第です」のデータとは、言うまでもなく経済・物価指標のことですが、今回のインタビューでは、記者から「個人消費に弱さがあり、1-3月期のGDP(国内総生産)もマイナス成長に陥るとの見方がある」と指摘され、以下のように述べています。

その可能性はありますが、一時的な落ち込みで、緩やかな回復基調にあるとの判断は変える必要はないです。賃金が強くなり、インフレ(物価上昇)率は低下していく中で、政府がこの夏に実施する(所得税や住民税の)減税の影響もあって、実質所得が強めに推移すると期待されます。ある程度、消費は上向いていくとみています。

春闘の結果が夏にかけて賃金に反映されていき、夏から秋にかけて物価にも反映され、その力が少しずつインフレ率を押し上げていきます。物価上昇率2%目標の持続的・安定的な達成が見通せており、その可能性がどんどん高まるとみています。

(出所)朝日新聞、楽天証券経済研究所作成

 上の発言を素直に受け取れば、日銀は5月16日に発表される1-3月期のGDP統計(筆者の見通しは実質GDP前期比年率0.4%、市場コンセンサスであるESPフォーキャスト同マイナス0.36%)が弱いとみており、追加利上げの判断は4-6月期以降の回復にかかっている、ということになります。

 その回復度合いや、もちろん上で指摘された実質賃金や消費の動向もにらみながら、動ける環境になってきたと日銀が判断すれば、講演や記者会見の機を捉え、次なるヒントが植田総裁や他の政策委員によって出されるのではないかとみています。つまり、急激な円安でもない限り、夏までに追加利上げが行われる可能性は極めて低いと考えられます。