むしろ、予想以上の上振れリスクに警戒が必要
このように、同じエネルギー価格急騰がきっかけでインフレとなった2008年とは大きく違う様相を呈しており、インフレが長期化する可能性が高まっているようにみえます。むしろ、このところ気になっているのは、サービス価格が予想以上に上振れてしまうリスクです。
消費者物価指数は、総合指数は582、生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数は512の品目から構成されますが、後者(月次データ)の前年同月比を横軸にとり、縦軸に同じ前年同月比となった品目数の割合をとったグラフ(ヒストグラム)を作ってみました(図表5)。
図では、2008年10月と、新型コロナ禍以降(2021年4月、2022年4月、2023年4月、直近2023年11月)の形状を比較しています。
見方はこうです。例えば、特定の品目が特殊要因により大きく上昇し、それが全体を押し上げている場合、プラス領域である右側のどこかで小さな山ができますが、大半の品目は伸びていないため、ゼロ%近辺の山が高くなります。まさに2008年10月(赤色点線)がそんな形状になっているのですが、実は2021年4月も2022年4月も同様の形状であることが分かります。
<図表5 消費者物価(サービス)品目前年比のヒストグラム>
ところが、2023年度になって大きな変化がうかがわれます。ゼロ~1%の山が低くなり、代わりに右側の領域が膨らむ傾向が強まっています(例えば、6%や4%に山ができています)。
実は、こうした右側が膨らんだ形状は1970年代や1980年代でもよく見られており、1990年代後半以降企業に染み付いた「価格据え置きが当然」「値上げなんか無理」といった固定観念(これを日銀は「ノルム」と呼んでいます)が、ここにきて崩れている可能性を示唆しています。
ウエートの高いサービス価格が予想以上に上振れ、高インフレが長期化すると、「2%」の持続的・安定的な実現を待つという日銀の姿勢に、疑問符が投げかけられることにもなりかねません。
果たしてサービス価格の伸びがこの先どこに落ち着くのか。そのカギを握るのは賃金上昇率です。植田和男総裁は春闘やサービス価格を注視していると述べていますが、「2%」を下回ってしまわないかという観点からではなく、上回り続けてしまわないかという観点から、注視せざるを得なくなるかもしれませんね。