円高への反転がセクターごとに明暗分ける公算も
今回は、2024年の環境変化による悪影響が小さいセクターでの高配当利回り銘柄を選出しています。まずは、日銀の金融緩和策修正を織り込んで、円高によるマイナス影響、ならびに、国内金利上昇の影響が大きいセクターを除外します。さらに、トラック運転手の人手不足が懸念される2024年問題の影響が不透明な建設や運輸などのセクターも除外します。
保険も銀行と比べて、米国金利低下の影響が大きいとみられるため除外します。残った業種(水産・農林、鉱業、食料品、石油・石炭製品、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、電力・ガス、情報・通信、卸売、小売、銀行、証券、サービス)において、時価総額2,000億円以上、配当利回り4%以上の銘柄をスクリーニングし、その中から注目される5銘柄を選定しています。
中長期投資に安心感のある大型株、高配当利回り、目先の事業環境が良好で業績リスクが乏しいといった、NISAにおける有力な投資対象ともなり得る銘柄ともいえ、新NISAが2024年1月にスタートするにあたって、より注目度は高まっていきそうです。
(表)良好な事業環境が見込まれる高配当利回り銘柄
コード | 銘柄名 | 配当利回り (%) |
12月18日 終値(円) |
時価総額 (億円) |
業種 |
---|---|---|---|---|---|
5021 | コスモエネルギーホールディングス | 5.52 | 5,438.0 | 4,609 | 石油・石炭 |
5401 | 日本製鉄 | 4.63 | 3,239.0 | 30,780 | 鉄鋼 |
5901 | 東洋製缶グループホールディングス | 4.12 | 2,184.0 | 4,430 | 金属製品 |
7337 | ひろぎんホールディングス | 4.02 | 895.7 | 2,797 | 銀行 |
8252 | 丸井グループ | 4.35 | 2,324.0 | 4,849 | 小売 |
銘柄選定の要件
- 配当利回りが4.0%以上(12月18日現在)
- 時価総額が2,000億円以上
- 文中にある14業種
- 以上の銘柄の中から5銘柄を選定
厳選・高配当銘柄(5銘柄)
1 コスモエネルギーHD(5021・東証プライム)
コスモ石油からの株式移転により、2015年10月に発足した持株会社です。燃料油の国内販売シェアは12%程度と推定されます。現有処理能力は1日当たり40万バレル程度で、千葉、堺、四日市の3製油所で展開しています。
石油精製・販売のほかに、エチレンやパラキシレンなどの石油化学、アブダビ首長国での石油開発事業などを行っています。また、再生エネルギー事業なども手掛け、陸上風力発電の国内シェアは第3位です。筆頭株主だったアブダビ政府系会社とは2022年に資本提携を解消しています。
2024年3月期上半期経常利益は831億円で前年同期比52.2%減となっています。在庫影響を除いたベースでは779億円で同5.0%減でした。石油事業はマージンの改善で実質増益となっていますが、石油化学事業は市況の軟化で、石油開発事業は工事の影響に伴う一時的な数量減でそれぞれ減益となりました。
2024年3月期通期経常利益は1,550億円で前期比5.8%減の見通しです。従来予想の1,250億円から上方修正しています。在庫の影響に加えて、石油市場のマージン改善が主な上振れ要因となるようです。なお、年間配当金は前期比150円増の300円を計画しています。
2026年3月期までの中期経営計画では、3カ年累計の総還元性向を60%以上としているほか、下限配当は250円以上と設定しています。石油業界の中ではトップクラスの還元姿勢といえるでしょう。
直近では、旧村上系ファンドとされるシティインデックスイレブンスが保有株の大半を岩谷産業に売却しました。株主還元策は十分に拡充されているためネガティブに捉えるべきではなく、むしろ、岩谷産業の推進する水素事業の展開において、重要な役割を担っていくとの期待が今後高まっていく可能性があるでしょう。
2 日本製鉄(5401・東証プライム)
2012年に住友金属と合併して誕生した鉄鋼大手企業です。粗鋼生産は国内で4割強のシェアを占めるほか、世界でも第4位の位置づけとなっています。自動車用鋼板、高級シームレス鋼管、電磁鋼板など高級鋼板に強みを持っています。
国内に6製鉄所を構えるほか、海外でも15カ国、52社の製造拠点があります。エネルギーロスを低減させる電磁鋼板や自動車の軽量化につながる超ハイテン鋼板など、カーボンニュートラル貢献製品に注力しています。
2024年3月期上半期事業利益は4,942億円で前年同期比8.8%減となっています。在庫評価差の影響が2,990億円程度マイナスとして響いた格好ですが、実力ベースでは逆に1,990億円の増益となり、過去最高水準となっています。マージンの改善が大幅増益の主因です。
一方、2024年3月期事業利益は7,400億円で同19.3%減の見通しとしています。在庫評価損益の悪化が主な減益要因となるほか、上半期と比較すると海外を中心としたマージンの大幅な悪化を想定しているようです。年間配当金も前期比30円減の150円を計画しています。
2024年3月期の配当金は150円以上としていることで、一段の減配の公算は低いと言えます。高い配当利回りの水準は今後も株価の下支えとなることが想定されるでしょう。2024年にかけては、足踏みが続いている中国景気の回復も期待でき、株価の押し上げ材料となっていきそうです。
足元では、米USスチールの買収を発表しています。買収金額の負担は大きく、短期的な株主還元余地などは縮小しそうですが、業容拡大に向けた積極施策と中長期観点からは評価でき、押し目買い妙味が今後は強まってくる見通しです。