米国株は早期利下げ期待で上昇、日本株は円高で上値重い動きに

 直近1カ月(11月20日~12月18日)の東京株式市場の日経平均株価(225種)は終値ベースで1.9%の下落となりました。11月20日の取引時間中につけた高値3万3,853円を上回ることはできませんでした。

 期間中の安値は3万2,205円で、その後の反発場面では、25日移動平均線水準が上値の抵抗線となっています。なお、この期間(11月17日~12月15日)のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均の騰落率は6.7%の上昇でした。

 11月後半にかけては手掛かり材料が乏しい中、高値圏でのもみ合いが続きました。米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)でタカ派で知られるウォラー理事が利下げの可能性に言及し、買い材料視される場面は見られました。

 ただ、12月に入ると、FRBのパウエル議長発言などから早期利下げ期待が高まる形となって米国株が上昇する中、為替市場ではドル安円高の動きが強まり、日本株にとっては上値抑制要因となりました。

 日本銀行の植田和男総裁が7日、「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになると思っている」と発言、早期の政策修正観測につながり、8日は大きく下げ幅を広げる展開となりました。

 その後はやや持ち直す動きとなっていますが、12月12~13日には、米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)が開催されました。市場の予想通りに3会合連続での政策金利据え置きとなった一方、当局金融政策決定者の2024年の利下げ予測など、想定以上にハト派的な内容となりました。

 直後はいったんドル売りの動きが再度強まる状況ともなりました。結局、ドル相場は11月13日の151円台半ばから、12月15日には142円台前半にまで急低下する形になっています。

 この期間は為替市場での円高が進んだことで、三菱自動車(7211)などの自動車株、トヨタ紡織(3116)デンソー(6902)豊田合成(7282)ジェイテクト(6473)アイシン(7259)など自動車部品関連株の下げが目立ちました。とりわけ、持ち合い解消の動きなども意識されて、トヨタ系部品各社が多く下落率上位に顔を連ねています。

 ほか、公募増資を発表したAZ-COM丸和ホールディングス(9090)ジーエス・ユアサ コーポレーション(6674)ゼンショーホールディングス(7550)、CB発行を発表したサンリオ(8136)、売出を発表した楽天銀行(5838)なども目立つ下げとなりました。

 クミアイ化学工業(4996)ANYCOLOR(5032)は決算内容が嫌気されました。半面、大正製薬ホールディングス(4581)アウトソーシング(2427)はMBO(経営者による買収)を発表して急伸し、エムスリー(2413)第一生命ホールディングス(8750)がそろってTOB(株式公開買付)を発表したベネフィット・ワン(2412)も急騰しました。

 ベネフィット・ワンの大株主パソナグループ(2168)も買われました。米長期金利低下でSCREENホールディングス(7735)野村マイクロ・サイエンス(6254)などの半導体関連も買い優勢、ニトリホールディングス(9843)神戸物産(3038)は円高メリット銘柄として買われました。

2024年は世界的な金融緩和期待で株式市場は強気の見方が優勢

 2023年の日経平均は12月18日現在で25.5%の上昇となっており、このまま推移すれば、2013年の56.7%高以来の高い年間上昇率となります。4月から6月にかけて日経平均は大幅な水準訂正を果たしました。米国のインフレ指標の下振れが目立ち始め、利上げ打ち止め期待が高まり始めたことが主な要因となります。

 実際、6月のFOMCでは11会合ぶりの利上げ停止が決定しています。また、為替市場で円安が進行したことも日本株にとっての支援材料となりました。1月の1ドル=127円台から11月には151円台にまでドル高円安が進みました。

 そのほか、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に対する東京証券取引所の改善要請、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏の五大商社株買い増し宣言なども、日本株固有の買い材料となりました。

 現在のところ、2024年の株式市場も好望視する見方が多いようです。国内証券大手5社(野村証券、大和証券、SMBC日興証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、みずほ証券)のうち、4社が年末の日経平均を3万6,000円(現在から約10%上昇した水準)以上と予想しています。

 米国の金融政策は年前半にも利下げに転じる可能性が高く、これが世界的な株高につながることで、日本株上昇の原動力となってくるでしょう。グローバル投資家にとっては、最大市場の米国株が上昇することで投資資金に余力が生まれ、日本株への資金流入にもつながります。

 また、日本固有の要因で言うと、東証の市場改革によって、企業の株主還元や再編の動きが一段と強まることが挙げられます。足元でも、会社の経営者自身が株式を買い取るMBO(マネジメント・バイアウト)などを含めたTOBの動きが増えてきている印象です。また、新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)がスタートすることで、新たな投資資金が市場に流入するという需給面での期待も持てるでしょう。

 日本株にとって最大のリスクとなるのは為替相場が円高に反転する動きでしょう。欧米各国の金融政策が緩和方向に向かう中、日銀ではマイナス金利の解除など金融緩和政策の修正を行うことが予想されています。利上げ自体のマイナス影響は限られそうですが、為替相場の円高につながることが懸念材料となります。

 市場の想定よりも早く、2024年の早い段階でこうした動きが表面化するリスクは大きいと考えます。自動車株など円高デメリット銘柄などは手掛けにくくなりそうです。また、建設業界や一部の運輸業界などでは、2024年問題とされる労働時間の制限が掛かってきます。こうした業界では供給量の減少、人件費コストの増加などが想定されてきます。

 ほか、11月には米大統領選挙が行われますが、トランプ前大統領の出馬なども見込まれており、米中貿易摩擦の拡大や地政学リスクの高まりなどもリスク要因とされてきそうです。ただ、全般的には、世界的な金利低下による株高の流れが日本株も押し上げると考えられ、とりわけ、内需系のグロース株などが有望な投資対象になるとみています。

円高への反転がセクターごとに明暗分ける公算も

 今回は、2024年の環境変化による悪影響が小さいセクターでの高配当利回り銘柄を選出しています。まずは、日銀の金融緩和策修正を織り込んで、円高によるマイナス影響、ならびに、国内金利上昇の影響が大きいセクターを除外します。さらに、トラック運転手の人手不足が懸念される2024年問題の影響が不透明な建設や運輸などのセクターも除外します。

 保険も銀行と比べて、米国金利低下の影響が大きいとみられるため除外します。残った業種(水産・農林、鉱業、食料品、石油・石炭製品、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、電力・ガス、情報・通信、卸売、小売、銀行、証券、サービス)において、時価総額2,000億円以上、配当利回り4%以上の銘柄をスクリーニングし、その中から注目される5銘柄を選定しています。

 中長期投資に安心感のある大型株、高配当利回り、目先の事業環境が良好で業績リスクが乏しいといった、NISAにおける有力な投資対象ともなり得る銘柄ともいえ、新NISAが2024年1月にスタートするにあたって、より注目度は高まっていきそうです。

(表)良好な事業環境が見込まれる高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り
(%)
12月18日
終値(円)
時価総額
(億円)
業種
5021 コスモエネルギーホールディングス 5.52 5,438.0 4,609 石油・石炭
5401 日本製鉄 4.63 3,239.0 30,780 鉄鋼
5901 東洋製缶グループホールディングス 4.12 2,184.0 4,430 金属製品
7337 ひろぎんホールディングス 4.02 895.7 2,797 銀行
8252 丸井グループ 4.35 2,324.0 4,849 小売

銘柄選定の要件

  1. 配当利回りが4.0%以上(12月18日現在)
  2. 時価総額が2,000億円以上
  3. 文中にある14業種
  4. 以上の銘柄の中から5銘柄を選定

厳選・高配当銘柄(5銘柄)

1 コスモエネルギーHD(5021・東証プライム)

 コスモ石油からの株式移転により、2015年10月に発足した持株会社です。燃料油の国内販売シェアは12%程度と推定されます。現有処理能力は1日当たり40万バレル程度で、千葉、堺、四日市の3製油所で展開しています。

 石油精製・販売のほかに、エチレンやパラキシレンなどの石油化学、アブダビ首長国での石油開発事業などを行っています。また、再生エネルギー事業なども手掛け、陸上風力発電の国内シェアは第3位です。筆頭株主だったアブダビ政府系会社とは2022年に資本提携を解消しています。

 2024年3月期上半期経常利益は831億円で前年同期比52.2%減となっています。在庫影響を除いたベースでは779億円で同5.0%減でした。石油事業はマージンの改善で実質増益となっていますが、石油化学事業は市況の軟化で、石油開発事業は工事の影響に伴う一時的な数量減でそれぞれ減益となりました。

 2024年3月期通期経常利益は1,550億円で前期比5.8%減の見通しです。従来予想の1,250億円から上方修正しています。在庫の影響に加えて、石油市場のマージン改善が主な上振れ要因となるようです。なお、年間配当金は前期比150円増の300円を計画しています。

 2026年3月期までの中期経営計画では、3カ年累計の総還元性向を60%以上としているほか、下限配当は250円以上と設定しています。石油業界の中ではトップクラスの還元姿勢といえるでしょう。

 直近では、旧村上系ファンドとされるシティインデックスイレブンスが保有株の大半を岩谷産業に売却しました。株主還元策は十分に拡充されているためネガティブに捉えるべきではなく、むしろ、岩谷産業の推進する水素事業の展開において、重要な役割を担っていくとの期待が今後高まっていく可能性があるでしょう。

2 日本製鉄(5401・東証プライム)

 2012年に住友金属と合併して誕生した鉄鋼大手企業です。粗鋼生産は国内で4割強のシェアを占めるほか、世界でも第4位の位置づけとなっています。自動車用鋼板、高級シームレス鋼管、電磁鋼板など高級鋼板に強みを持っています。

 国内に6製鉄所を構えるほか、海外でも15カ国、52社の製造拠点があります。エネルギーロスを低減させる電磁鋼板や自動車の軽量化につながる超ハイテン鋼板など、カーボンニュートラル貢献製品に注力しています。

 2024年3月期上半期事業利益は4,942億円で前年同期比8.8%減となっています。在庫評価差の影響が2,990億円程度マイナスとして響いた格好ですが、実力ベースでは逆に1,990億円の増益となり、過去最高水準となっています。マージンの改善が大幅増益の主因です。

 一方、2024年3月期事業利益は7,400億円で同19.3%減の見通しとしています。在庫評価損益の悪化が主な減益要因となるほか、上半期と比較すると海外を中心としたマージンの大幅な悪化を想定しているようです。年間配当金も前期比30円減の150円を計画しています。

 2024年3月期の配当金は150円以上としていることで、一段の減配の公算は低いと言えます。高い配当利回りの水準は今後も株価の下支えとなることが想定されるでしょう。2024年にかけては、足踏みが続いている中国景気の回復も期待でき、株価の押し上げ材料となっていきそうです。

 足元では、米USスチールの買収を発表しています。買収金額の負担は大きく、短期的な株主還元余地などは縮小しそうですが、業容拡大に向けた積極施策と中長期観点からは評価でき、押し目買い妙味が今後は強まってくる見通しです。

3 東洋製缶グループHD(5901・東証プライム)

 アルミ・スチール飲料缶やPETボトルなどを製造しています。また、飲料の充てん受託も手掛けるほか、電池材料、磁気ディスク用アルミ基板、光学機能フィルムなども手掛けています。

 脱プラスチックの課題解決に寄与する新たな紙容器製品の開発や軽量化、バイオマス原料化などに注力しています。2025年度までの中期計画では売上高8,500億円、営業利益500億円を目標として掲げ、中計期間中は総還元性向80%を目安に株主還元を行うとしています。

 2024年3月期上半期営業利益は149億円で前年同期比2.1倍となり、従来予想の125億円を上回る着地になっています。主に国内包装容器事業における売価転嫁の推進が奏功したようです。車載用二次電池材の増収効果も寄与しました。

 2024年3月期通期では230億円で同3.1倍の見通しとしていますが、機能材料事業が伸び悩むとして従来予想を変更していません。上半期上振れの分、増額余地は大きいと考えられます。年間配当金は前期比1円増の90円を計画、配当性向50%を目安としていますが、段階的に引き上げていく方針も示しています。

 同社では2023年3月期の決算と同時に「資本収益性向上に向けた取り組み2027」を発表しています。2028年3月期にROE(自己資本利益率)8%以上の目標などを掲げており、包装容器事業など不採算事業領域の構造改革を2025年3月期、2026年3月期にかけて行う計画としています。

 加えて、年間200億円の自社株買いや積極的な配当などの株主還元を実施して自己資本の圧縮を図るともしています。2024年は構造改革への期待が株価に反映されるとみられます。 

4 ひろぎんHD(7337・東証プライム)

 2020年10月に地方銀行上位の広島銀行を中核とする持株会社として発足。ひろぎん証券やひろぎんリースなどもグループに抱えています。広島銀行は広島県を中心に、岡山県、山口県、愛媛県で主に事業展開、2024年3月期上半期の預金等残高(平残)は9兆3,066億円で前年同期比2.3%増、貸出金残高(平残)は7兆3,993億円で同4.5%増となっています。

 預金等残高、貸出金残高は中四国地方に本店を置く地域金融機関の中でトップ、全国の地域金融機関の中でもベスト10に入る水準です。広島銀行単体の自己資本比率は、2023年9月時点で10.58%となっています。

 2024年3月期上半期純利益は166億円で前年同期比65.0%増となっています。政策保有株式などの売却益の計上に加え、前年に計上した保有株式の評価損が消失など、株式等関係損益が改善しました。

 一方、2024年3月期純利益は275億円で前期比2.2倍の見通しです。前年度に発生した外国債券の売却損などが一巡することで、大幅増益となる予想です。主力の資金利益なども堅調な推移を想定しています。年間配当金は前期比9円増の36円を計画、配当性向目標の40%に沿ったものとしています。

 2024年は早い段階で日銀の金融緩和政策が修正されてくるとみられます。国内金利の上昇は銀行株、とりわけ、地銀株にとってプラス材料となるため、株式市場における地銀株の注目度は高まる公算が大きいとみられます。そして、時価総額2,000億円以上の地銀株では最も配当利回り水準が高いのが同社となります。

 ほか、インバウンド需要拡大に伴う地域経済の活性化が見込める点で注目されます。広島県は厳島神社や平和記念公園など海外からの関心も高い観光資源が豊富で、インバウンド需要の一段の拡大の恩恵も期待できるでしょう。

5 丸井グループ(8252・東証プライム)

 首都圏を地盤とする大手小売り企業ですが、小売事業は従来の百貨店業態から転換が進み、現在ではテナントからの賃料収入が中心となってきています。テナントも物販型から体験型へシフトさせています。

 また、D2C(自社で企画・製造した商品をECサイトで直接販売)のテナントに関しては、売り場の運営も受託しています。利益面では、エポスカードを中心としたフィンテック事業が主力となっています。カード会員数は2023年9月末段階で743万人となっています。

 2024年3月期上半期営業利益は186億円で前年同期比16.6%減となっています。小売事業は順調に回復していますが、フィンテック事業における費用の増加などが減益の主因となったようです。通期予想は従来の455億円から420億円、前期比8.3%増に下方修正しています。

 加盟店手数料率の低下、ポイント費用や人件費などの費用増加、カードクレジット取扱高の前提引き下げなどで、フィンテック事業を下方修正しています。年間配当金は前期比42円増の101円計画を据え置いています。

 1株当たり配当額は、DOE(株主資本配当率)8%程度をめどに長期安定増配を志向しています。相対的に減配のリスクは小さいと考えられます。同社を小売業として捉えれば、配当利回りの水準は、時価総額1,000億円以上の小売株の中で最高水準となっており、利回り妙味は非常に高いといえるでしょう。

 また、2,200万株、400億円を上限とした自己株式の取得期間中でもあるため、株価の大幅な下落時には自社株買いが大きな支えとなることが見込まれます。フィンテック事業底打ちが意識されれば、買い安心感は強まると考えられます。