史上最高値を更新した23年

 今回は、2024年の金(ゴールド)相場を展望します。2024年を展望する上で、2023年が金(ゴールド)相場にとってどんな年だったかを確認する必要があります。2023年に生じた要素が持ち越され、2024年も価格を変動させる可能性があるためです。

図:ドル建て・円建て金(ゴールド)価格の推移(過去およそ半世紀)

出所:LBMAおよび国内大手地金商のデータをもとに筆者作成

 以前の本欄で書いた通り、2023年12月、国内外の金(ゴールド)相場は史上最高値を更新しました(海外ドル建て価格は1トロイオンスあたり2,100ドルに、国内円建て価格は1グラムあたり1万円に到達)。

 過去のどの価格よりも高い水準に達した背景には、「有事ムード」や「代替資産」といった、金(ゴールド)相場に短中期的な影響を及ぼし得るテーマ起因の上昇圧力がかかったことが挙げられます。

 同じ短中期視点のテーマである「代替通貨」起因の下落圧力を受けながら、史上最高値を更新しました。以下は2023年の値動きとこれらのテーマ起因の上昇・下落圧力のイメージです(12月15日時点)。

図:2023年のドル建て・円建て金(ゴールド)価格の推移

出所:LBMAおよびマーケットスピードIIのデータをもとに筆者作成

「代替通貨」起因の下落圧力が存在したことで2,000ドルを超えたあたりで上値を抑えられ、同時に「有事ムード」と「代替資産」起因の上昇圧力が存在したことで1,800ドル付近まで下落すると反発色を強めました。

 2023年の金(ゴールド)相場は、史上最高値水準で繰り広げられた上昇圧力と下落圧力の攻防によって形成されたと言えるでしょう(年平均でおよそ1,940ドル)

分析の前提条件は「多彩」になっている

 金(ゴールド)市場を取り巻く環境を確認します。先ほどの図「ドル建て・円建て金(ゴールド)価格の推移(過去およそ半世紀)」の右下に記載したとおり、近年は「材料複合化時代」にあります。このため「一つだけ」のテーマで値動きを説明することは困難を極めています。

 以下の図は、米国の主要な株価指数の一つである「S&P500種指数」と「ドル建て金(ゴールド)」の価格推移です(2005年1月を100として指数化)。長期視点では、ともに価格は四倍程度になりました。ともに同じくらい高い、言い換えれば「株高・金(ゴールド)高が同じ程度で起きた」と言えます。

図:S&P500指数とドル建て金(ゴールド)の価格推移(2005年1月を100として指数化)

出所:Investing.comのデータより筆者作成

 しばしば「金(ゴールド)と株の値動きは逆相関(二つの価格が反対に動く)の関係がある」と耳にしますが、少なくとも2005年から(特に2015年ごろから)足元まで、長期視点では順相関(二つの価格が同じ方向に動く)の傾向が強かったと言えるでしょう。株の動向だけで金(ゴールド)の値動きを説明することが難しくなっていることがわかります。

 こうした傾向が強まった背景に、取引参加者が増えたことが挙げられます。以下は、NY金(ゴールド)先物市場における取引参加者の数です。取引参加者(Traders)は、CFTC(米商品先物取引委員会)に建玉などを報告する義務がある投機筋や生産者などのことで、報道で見る「投機筋」もこれに含まれます。このおよそ40年間で3倍程度に増加しました。

 参加者が増加すると市場に漂う思惑が多彩になり、単一のテーマだけ(有事ムードだけ、ドルとの関係だけも、同様)で説明できない値動きが生じやすくなります。こうした変化を見て、しばしば金(ゴールド)市場は複雑化してしまった、という声を耳にしますが、個人的には複雑化よりも、「(変動要因が)多彩になった」という表現がしっくりくると感じています。

 ダイバーシティ(多様性)が叫ばれている時代にあり、市場が多彩な状況は今後さらに目立つと考えられます。(今後は今よりもなお、単一のテーマだけで分析しにくくなる)

図:NY金先物市場における取引参加者(投機筋・実需筋など)の数 単位:機関

出所:米商品先物取引委員会(CFTC)のデータより筆者作成