米株市場は割高感が強い

 しかし、仮に株価が上昇して行った場合、上昇の勢いが強くても、その賞味期限は短くなるかもしれません。その理由として考えられるのは、株価の割高感です。

 あらためて、足元の株価上昇の背景を整理すると、主因として真っ先に挙げられるのが、「米金利の低下」です。

<図5>米10年債利回り(日足)の動き(2023年11月24日時点)

出所:楽天証券WEBサイトを元に筆者作成

 上の図5は、米10年債利回りの推移になります。

 確かに、10月下旬からの10年債利回りは低下傾向にあり、チャートのトレンドも25日と50日の移動平均線を下抜けるなど、低下傾向が目立っています。

 金利上昇がピークアウトしたということで、11月の株式市場は大きく上昇してきたわけですが、それに伴って、株式市場の割高感がさらに強まってきています。

<図6>米S&P500とイールド・スプレッドの動き(2023年11月24日時点)

出所:Bloombergデータ等を元に筆者作成

 上の図6は、S&P500(週足)と、イールド・スプレッドの推移を示しています。

 イールド・スプレッドとは、「株式の益回り」と「10年債利回り」の差のことです。通常であれば、リスク資産である株式の益回りの方が、安全資産である債券の利回りよりも高くなるのが普通なのですが、ここ1年ぐらいは、株価の上昇傾向に伴ってイールド・スプレッドが低下傾向にあり、相対的に株式の割高感が生じている状況が続いています。

 さらに、直近ではこのイールド・スプレッドがマイナスに沈むなど、低下傾向がより強くなっていて、足元の株価上昇は、金利低下の大きさ以上に株が買われたことでもたらされたと考えることができます。株式の益回りの計算式は、「1株あたり利益÷株価×100」ですので、株価が上昇した分だけ益回りが低下した格好です。

 S&P500が最高値をつけた2022年1月の時のイールド・スプレッドの水準が3%ぐらいだったことを踏まえると、現在の株価はかなり割高になっていると言えます。

相場の新たな牽引役が登場できるか?

 また、株式の割高感と共に、相場の銘柄物色の拡大も、株価が上昇を継続していくためには欠かせない要素です。最近までの株価上昇については、グロース株がその牽引役を担ってきました。

<図7>米エヌビディア(NVDA)日足とMACD(2023年11月24日時点)

出所:MARKETSPEEDIIを元に筆者作成

 上の図7は、前回のレポートで「決算が注目材料になる」と指摘した、米半導体企業エヌビディアの日足チャートです。

 エヌビディアの決算の内容自体は良好だったものの、決算後の株式市場の反応は、前回(8月)の決算で超えられなかった500ドルの株価水準から上放れできず、今のところ売りに押される展開が目立っています。エヌビディア株は決算前に10連騰を演じるなど、大きく上昇していたため、ひとまず、材料出尽くしで売られている状況と思われます。

 そのため、直近までのグロース株中心から、バリュー株の見直しや中小型株、新興株などへと物色の対象が拡大できるかが注目されます。

日経平均が上振れた際の目安の株価は?

 これまで見てきたように、チャートの形状からは株価がさらに上昇する期待を残している反面、相場の環境面からは、上昇があまり長く続かなさそうな見方もできます。

 しかし、現在の株式市場には、割高感や不安がくすぶっているものの、まだ急いで売り込むほどの状況にはなっておらず、「下がらないから、とりあえず上を目指す」といった楽観ムードがあるほか、日本株については、日本企業の業績やガバナンス改革を再評価する海外投資家からの視線や、アジア域内での資産バランスの調整による「中国から日本」への資金シフトなどの支援材料もあります。

 そのため、目先の株式市場については、「短期的な上昇には割り切ってついて行く」、「怪しくなったらすぐに中長期的な買い場を探る姿勢に切り替える」姿勢で臨むのが良いのかもしれません。とりわけ、今週は来週末の12月8日が「メジャーSQ」となるため、需給的な思惑が絡んで動く可能性があります。

 日経平均については、下の図8が示すように、75日移動平均線乖離率のプラス5%超えで達成感が出てくるのかが、注目されることになりそうです。

<図8>日経平均(日足)と移動平均線乖離率(75日)(2023年11月24日時点)

出所:MARKETSPEEDIIを元に筆者作成

 以前のレポートでは、足元の株価や75日移動平均線乖離率の動きが、2020年後半からの動きと似ている点について指摘しました。

 具体的には、[1]「プラス10%超えで天井をつけて、マイナス5%まで調整」、[2]「その後は、マイナス5%と0%との範囲内でもみ合い」、[3]「再びプラス5%超えを目指す」という動きです。前回の時は、[1]の時の株価と[3]の時の株価がほぼ同じ水準でした。

 今回も、[3]の段階に入っていると思われますが、[1]の時につけた天井の株価が、先ほども述べた6月の高値にあたります。先週末時点の75日移動平均線乖離率はプラス4.38%、75日移動平均線の値が3万2,216円でしたので、プラス5%乖離は3万3,826円になります。

 さらに、前回の[3]のときは、プラス7.69%まで乖離が進んだため、この乖離率で計算すると、3万4,693円となります。

 したがって、足元の相場が上昇基調を強めた際には、3万3,800円から3万4,700円あたりが上値の範囲となりそうです。