為替DI:9月のドル/円、個人投資家の予想は?

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示します。

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 DIは「強さ」ではなく、「多さ」を測ります。DIは、円安や円高の「強さ」がどの程度なのかを示しているわけではありませんが、個人投資家の相場観が正確に反映されていると考えるならば、DIの「多さ」は同時に「強さ」を示すことになります。

「9月のドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」

 楽天証券がドル/円相場の先行きについてアンケート調査を実施したところ、個人投資家の「円
安/ドル高」見通しは全体の78%を占めた。円安見通しから円高見通しを引いたDIは+56。

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成
出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

パウエルFRB議長はかく語りき

 先月末にジャクソンホール会議で行われたパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の講演に対してマーケットが持った第一印象は、「ハト派」的でした。

 FRBは利上げを当面休止して、これまでの累積効果が米経済にどのように反映されるかを見極める段階に入ったようです。ここ数カ月のインフレ率が下落していることもあって、今後の利上げについてはより慎重に進めようと強く意識しています。

 パウエル議長はデータ重視の姿勢を強調しましたが、9月か11月に利上げがあるかどうかは明示しませんでした。9月は見送り、11月に最後の利上げというのがマーケットの予想ですが、このまま利上げを終了してしまう可能性も残ります。

 とはいえ、全体的なメッセージは依然として「タカ派」的でした。パウエル議長の演説から読み取れることは、インフレ率が(2%ではなく)3%を下回れば十分だという市場の考えに対する強い反発です。

 最近のインフレ低下を示す経済データはまだ始まりにすぎず、インフレ率が持続的に「2%に戻る」ことを確実にするために、必要な限り金融引き締めを維持します。そもそもインフレ率はまだ「高過ぎる」のであり、必要と判断すれば追加利上げに動く用意があると、パウエル議長は強調しました。

 インフレ目標の安易な修正は中央銀行の信頼を失うリスクがあり、またマーケットの利下げ期待をけん制するために強気な発言を続けなくてはいけませんが、それらの事情を差し引いても、利上げが終了したと決めるのはまだ早いようです。

 米国のコアインフレ率はいまだ高い水準に居座っています。問題はコアPCE指数の半分を占めるヘルスケア、食品サービス、運輸、宿泊施設などのいわゆる「非住宅サービス部門」で、この部門のインフレ率はFRBの大幅利上げにもかかわらず、ほとんど下がっていません。

 この部門の金利感応度が低いせいもありますが、大きな理由は、賃金コスト上昇の影響を強く受けているためです。

 パウエル議長は、家計が支出を抑制する水準まで債務返済コスト(金利)を引き上げることを通じて「総需要と総供給を均衡させる必要がある」と述べました。ところが、非住宅サービス部門のインフレが下がらない中で、住宅サービス部門のインフレ率が再び上昇し始めました。インフレ再燃はFRBが絶対に防がなくてはならないことで、追加利上げの強い動機となります。

 米経済は減速せず、個人消費は増加し、雇用市場は依然として過熱状態にあります。FRBは金利を引き締め状態まで引き上げたと思っていましたが、実際は、単に緩和状態をなくしただけなのかもしれません。

 つまり中立金利(デフレにもインフレにもならない金利)は、より高い水準にあるということであり、FRBが中立金利がどこなのかよく分かっていないことを認めたことになります。

 FRBが「インフレ圧力が続く限り、引き締めペースを維持する」姿勢を堅持することに変わりはありません。しかし、インフレ率が目標の2%に近づくかどうかは不確実であり、金利水準も中立金利の推計に依存するため、今後の経済指標や当局者の発言に注目する必要があるでしょう。

ユーロ/円

 楽天証券が9月のユーロ/円相場の先行きについてアンケート調査を実施したところ、個人投資家の「円安/ユーロ高」の予想が大きく増え、全体の76%を占めました。前月は59%でした。

 円安見通しから円高見通しを引いたDIは、前月から34ポイント増えて+52になりました。

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成
出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

豪ドル/円

 楽天証券が9月の豪ドル/円相場の先行きについてアンケート調査を実施したところ、個人投資家の「円安/豪ドル高」の予想が大きく増え、全体の73%を占めました。前月は56%でした。

 円安見通しから円高見通しを引いたDIは、前月から34ポイント増えて+46になりました。

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成
出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

今後、投資してみたい金融商品・国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

 今回は、毎月実施している質問「今後投資してみたい国(地域)」で「ブラジル」「ロシア」「インド」「中国」を選択した人の割合に注目します。各質問の選択肢は、ページ下部の表のとおり、13個です(複数選択可)。

図:「ブラジル」「ロシア」「インド」「中国」を選択した人の割合の推移

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 2023年8月の調査で、「ブラジル」を選択した人は4.27%、「ロシア」は1.02%、「インド」34.85%、「中国」3.49%でした。これら四カ国は、「BRICS」とよばれる比較的大きな新興国のグループを構成する主要メンバーです。

 振り返れば2010年前後(グラフ左のとおり)、中国、インド、ブラジルを選択する人の割合は、40%を超えていました。瞬間的には中国が60%を超えたこともありました(2009年4月)。

 2008年9月に発生したリーマンショック後、欧米やその他の先進国が政治・経済の混乱にあえぐ中、中国、インド、ブラジルが、日本の投資家の皆さまの間で「受け皿」と目されたことがうかがえます。2010年1月に、米国は14%、ユーロ圏は6%まで低下しましたが、同月、中国は53%、ブラジルは47%、インドは53%と、比較的多くの方に選択されました。

 しかしその後、極端に専制的なリーダーが現れたことがきっかけとなり、中国とブラジルを選択する人の割合は急低下しました。一時、中国はコロナショック(2020年3月発生)から回復が先行するとの思惑(期待)が浮上し、20%を回復する場面がありましたが、厳しいロックダウンによって景気低迷懸念が浮上したことを背景に、再び低下しました。

 以前の本欄で、近年、米国や日本の経済が停滞しそうになった時に、「インド」が受け皿になる傾向があると、述べました。極端に専制的なムードが出にくい国であることが、一因に挙げられます。この点は、現在、中国、ブラジル、ロシアを選択する人の割合が低迷、インドのみ比較的高水準、という状態を作っている一因であると、考えられます。

 先月下旬、BRICSが首脳会議を開き、六つの新興国(アルゼンチン、サウジアラビア、UAE、イラン、エジプト、エチオピア)をBRICSに引き入れることを決定しました。これは、ウクライナ危機勃発以降、さらに際立っている西側と非西側の対立激化の延長線上の出来事であると筆者は考えています。

 こうした動きは、「インド」が日本の投資家の皆さまにとって、心理的に近いのか、遠いのか、という議論を加速させるきっかけになり得ると、筆者は考えています。状況によっては将来的に、インドを選択する人の割合が、ブラジルと中国のように急低下するかもしれません。引き続き、「インド」の動向に、注目していきます。

表:今後、投資してみたい金融商品 2023年8月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

表:今後、投資してみたい国(地域) 2023年8月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成