投資をあおる宣伝が急増する昨今…
国家が国民に投資をするようにあおっている。こういうときは注意が必要だ。富の保全に関して最も重要なことは、資産を圧迫されるような状況に身を置かないことである。資産の縮小は通常、負債と過剰レバレッジの結果である。
流動性が枯渇した不安定な市場では特にそうだ。価値を保つ資産を持つことは重要だ。また、全ての卵を一つのカゴに入れないことも忘れてはならないことだ。
『機会損失2000兆円、運用立国に挑む 「ふやす文化」推進』
資産運用立国に挑む(1)・資産運用立国への改革が本格始動したのは2022年9月
・投資先が預貯金に偏重すると「機会損失」が大きく
・米国では家計金融資産に占める株・投信が約5割に日本の個人、政府、金融業界がいっせいに資産運用に力を入れている。お金を「ふやす文化」を日本経済の推進力にする運用立国への挑戦が始まった。
(出所:『機会損失2000兆円、運用立国に挑む 「ふやす文化」推進』 8月21日 日本経済新聞)
前田昌孝(マーケットエッセンシャル主筆)は、「日経が8月21日から1面で始めた『資産運用立国に挑む』という連載。何か根本的に違うような気がします。家計が株式や投信を買えば経済が成長するという理屈は正しいのか。投資をあおる宣伝が急増する昨今、新聞の役割は読者に冷静さを呼び掛けることでは」とXに投稿した。
また、日経新聞には、『植田日銀は「禁断の為替」をかじったのか 金利安定に試練』という見出しが躍っている。
日銀は「円安抑止」を政策目的に据えた――。7月の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正を機に市場でこんな思惑が広がり、植田日銀を苦しい立場に追い込んでいる。円安が進むなか、金利上昇の容認や利上げに動かざるを得ないとの見方が広がり、日銀に「金利安定か円安抑止か」という選択を迫りかねない構図にある。
出所:『植田日銀は「禁断の為替」をかじったのか 金利安定に試練』 8月21日 日本経済新聞)
ドル/円(週足)
日本10年国債金利(週足)
世界の中央銀行の政策金利とCPI
これらの記事が参考にならないわけではないが、国家を上げての投資啓蒙運動も、日本銀行の奇異にみえるマイナス金利政策も、本質は来年に大統領選挙を控えた米国からの要請なのである。世界の過剰流動性とエブリシングバブルは日本が支えているのだ。そうした政治的要因に触れずに分析をしていても、的外れのような気がするのは筆者だけであろうか?
Gold Telegraphは、「日銀は今年、記録的なペースで国債を買い入れている。ブルームバーグは、購入額が2022年から12%増加すると予測している。あなたはリアルタイムの経済サーカスを見つめています」と、Xに投稿したが、日銀の金融政策は米大統領選挙までの素人の綱渡りとなりつつある。
巨額の借金を持つ国において、インフレは政府の実質債務を減らすことができるが、金利上昇は利払い負担になるので望ましくない。しかし、金融市場で<国債を買い支える仕組み>をつくれば、インフレ下においても長期金利を低く抑えることが可能となる。政府にとっては実質借金額と利払い負担の両方を減らすことができるのである。
この金融市場で<国債を買い支える仕組み>が日銀のYCCである。これが日銀の金融政策の基本形だ。
加えて、日本のマイナス金利と大規模金融緩和は、米国株と米国債の買い支え(補完装置)として利用されている。そういう政治的理由からも、日銀は金利を上げられない。日本が金融緩和をやめたら、米国株が暴落するし米金利も上がり債務返済ができなくなる。
政治的に米国の影響下にある日本は、(少なくとも来年の米大統領選挙までは)基本的にゼロ金利の解除をしにくいのである。
日本の20年物国債が1987年以来最も長い利回りの尾を引き、驚くほど低調な価格となったことから、債券市場は苦境に陥った。利回りがすでに15年ぶりの高水準にある今、世界の国債市場に重大な警告を発している。日本国債の利回りが高騰すれば、世界の国債利回りにさらなる上昇圧力がかかる。
日本が大幅な利上げをしなければならないような事態に追い込まれたとき、世界中のエブリシングバブルは崩壊する。