資産形成について、よく受ける質問

 資産形成について、しょっちゅういただく質問があります。資産形成をしなくてはいけないと思っているが、「何をしたら良いか分かりません」「何を買ったら良いですか」という質問です。

 こういう質問をする方に多いのが、ご自身で保有している総資産(および負債)がいくらか、年間収支(収入引く支出)がいくらか、よく分かっていない方です。

 ダイエットをするならば、まず体重を測り、その変化を定期的に把握していくことから始めます。体重の計測の仕方を知らないままで、ダイエットに取り組もうとしても、うまくいきません。

 資産形成をするならば、まず、ご自身の資産内容を時価ベースで正確に把握し、それがどう変化していくか、年に1度は経過を観測していく習慣を付けることから、始めましょう。

投資を始める前に、まず、家計のバランスシートを作ろう

 投資を学ぶというと、「いかにしてお金を増やすか学ぶ」と思う人が多いでしょう。確かに、最終的な目的はお金を増やすことにあります。ただ、投資でお金はいつでも増えるわけではありません。投資対象や投資した時期によっては、投資した資産が値下がりしてお金が減ることもあります。値上がりや値下がりを繰り返しながら、長期的にお金を増やしていくのが投資です。

 そこで大切なのは、リスク管理です。投資してすぐにリーマン・ショックのようなリスク資産の暴落があっても、それで「ゲームオーバー」にならないように、どんなことがあっても生き残っていけるようなリスク管理が必要です。保有している資産総額と比較して、投資金額は多過ぎず少な過ぎず、リスク分散しつつ、適切なリスクを負っていくことが必要です。

 そこで、投資を考える前にするべきことがあります。まず自分の保有する金融資産の総額をきちんと把握することです。そのために、家計のバランスシートを作成しましょう。

 バランスシートとは、企業の「資産・負債・純資産(資本)」の内訳を書き出したものです。一目で、企業の財務内容が分かります。それと同じものを、ご自身の金融資産・負債について、作成してください。

 ご参考までに、日本全体ではどうなっているか見てみましょう。家計の金融資産は、2023年3月末時点で2,043兆円ありますが、その内訳は、以下の通りです。

日本の家計の金融資産2,043兆円の内訳:2023年3月末時点

出所:日本銀行、資金循環統計

 日本では、家計の金融資産2,043兆円の過半(54.2%)が、ほとんど金利が付かない現金・預金に眠っています。積極的にリスクを取った投資(株式等・投信)は合わせて15.4%しかありません。リスクを取る投資が少な過ぎて、資産を増やしていく機会を逃していると思います。

 上記は、あくまでも日本全体の平均です。これを参考に、ご自身が保有する金融資産の現在価値を書き出してください。次に、その時価を入れていってください。きちんと調べるのは、けっこう骨の折れる作業です。

 将来、年金や保険金などを受け取る権利を保有している場合、それが、現在価値でいくらか、分かりますか。投資信託や株などの金融資産も、時価で計上してください。負債サイドでは、住宅ローンやクレジットカードの借入残高を、きちんと時価で把握してください。

 最初から完璧なものができなくてもOKです。分からない部分は空欄にしておいて、時間をかけて調べてください。年金や保険の現在価値が不明な場合は、空欄にしておいても良いです。手元で分かる金融商品・負債(借金)だけはきちんと計算してください。

 年1度、きちんと時価ベースのバランスシートを作る方法をマスターすれば、2回目・3回目は、楽に作れるようになります。

 少なくとも年1回(できれば年2回)、家計のバランスシートを作るようにしましょう。それは、企業でいえば、中間決算・本決算をまとめるようなものです。家計のバランスシートを1年に1回作る習慣ができれば、きちんと家計簿を付けていなくても、年間の収支と、運用のトータルリターンを把握できます。

 1年間でいくらお金が増えたか減ったか、資産形成の基本原理は極めてシンプルです。

【1年間の資産の増減】=【年間の収入―支出】+【投資の成果―運用コスト】

 投資をほとんどしていなくて、金融資産はほぼ全て銀行預金に置いている人はもっとシンプルです。

【1年間の資産の増減】=【年間の収入―支出】

 要するに、稼いだお金(収入)が使ったお金(支出)より大きければ資産が増えて、支出の方が大きければ資産が減る、それだけです。

 このようにして、1年間に一度、家計のバランスシートを作ることで、1年間の収支と、金融資産残高の変化をザックリ把握することから始めましょう。

 共働きの家計では、夫婦合算のバランスシートを作る必要があります。理想的には、情報を完全に共有できると良いのですが、それができない場合は、概算だけでも伝え合うのが望ましいと言えます。

 預貯金・国債など元本保証の運用では、ほとんどリターンが得られない時代になった今日、投資で資産を増やしていこうと思ったら、株式投資などでリスクを負う必要があります。上昇・下落を繰り返しながら、長期的に魅力的なリターンが得られる資産に投資するには、適切なリスク管理が必須です。

 孫子の兵法に「敵を知り己(おのれ)を知れば、百戦危うからず」という教えがあります。相場と戦う前に、まず、己の資産状況をきちんと把握しておくことが大切です。