使い道の履歴管理は親子ともにメリットがある?

――先ほどの「親に子どものお金の使い方が見える」という部分ですが、親が履歴をチェックすることでマイクロマネジメントをしてしまい、かえって自立を妨げるのではないかという懸念を感じるのですが。

見原 履歴が残ることで、お子さんがおこづかいの使い方を振り返ることができます。親御さんは、履歴を見て感じたことをフィードバックしてあげることができる。

 例えばアイスはコンビニで買うよりスーパーで買ったほうが安いということに自分で気づいたり、親が教えてあげたりすることができる。そこで私たちがプロダクトに込めた思いは、お子さんの自主性を育てるために使ってもらいたいということです。

――子どもが開示を嫌がる理由の一つとして、親の無神経な指摘があると思ったりもします。例えば開示したらコンビニでチキンばかり買っていると、「なんで買い食いばかりするの」と叱る。その裏側には何か理由があるのかもしれません。

見原 これからの話には私の感想も入っているのですが、子どもが開示を嫌がらない家庭は、親御さんがおこづかいの使い方の監視ではなく、おこづかいを使うことを通じて自主性の確立をサポートしたいという思いが強いようなのです。

 コンビニでいつもチキンを買うからおこづかいがなくなるというのなら、なぜいつも買うのかという理由を話し合いの中で引き出す。おなかが減るからという理由であれば、家で一緒に唐揚げを作ってみようという提案をすることで、おこづかいを有効に使えるようになると思います。

――親が頭ごなしに駄目出しをするのではなく、駄目の理由を説明したり、買ったものリストを通じて子どもの気持ちを知る努力をしたりすることが大事なのかもしませんね。

たぱぞう 「駄目なものは駄目」ではなく、子どもに「駄目」な理由を説明するのは大事なことですね。

米国株投資を中心に資産をつくった、たぱぞうさん。お子さんの金融教育も独自の理念がある。

見原 もう一つ例を挙げると、インタビューを進める中で、小学校の娘さんが、「カフェに行った」とおこづかい帳につけていたケースがありました。それを見た親御さんは、カフェ自体に問題は無いけれど、小学生が行くところではないから駄目出ししようかと思ったのだけれど、思いとどまって、「カフェに行ったんだね」とだけ言いました。

 すると娘さんは、「中高生のお姉さんたちがカフェにいるのを見て興味を持って友達と行った」と答えたそうです。なるほど、娘はそういう体験をしたかったんだと親御さんは娘の成長を感じ、娘さんは商品が500円もしたので、おこづかいを使いすぎてしまった、今度は別のお店でいいかもな、という振り返りをしたそうです。

たぱぞう みなさん、子どもと向き合う丁寧な子育てをされていますね。すごいですよ。つい毎日が忙しいから、「駄目なものは駄目」と突き放しがちですが、インタビューされた親御さんの姿勢は素晴らしいと思います。

小学校低学年は現金によって「減る痛み」を体験

――それでも親に履歴を開示したくない子どももいますよね。

たぱぞう 自分だって見られたくない(笑)。

見原 このアプリを使ってくださっているご家庭は、開示することで親子の会話が生まれることをメリットと感じてくれている方が多いです。では、開示したくないお子さんにはどのような使い方の提案ができるのか。

 それは検討中の課題ではあるのですが、一つ考えられるのは、子どもにとってもお金が増えることはメリットなはずなので、お金を増やせる仕組み――働くことで報酬を得られるとか、アプリで貯金をすると(親払いの)利息が付く(親が利子を払うことで短期間で複利体感ができる)とかの機能をプラスできないかということです。

たぱぞう 貯金に対する批判は少ないでしょうが、子どもの成果報酬制には否定的な指摘もあります。労働が打算的になってフィーに応じた労働しかしなくなるとか。

 労働には本来、誰かに役に立つことの喜びがあるはずなのに、それが感じ取れなくなるのではないかとか。

 でも、シャトルペイで素晴らしいと感じることは、利用者に選択の余地を残しているところです。会社がおしつけるのではなく、利用者が使い方を選べることはとても大事なこと。

見原 子どもたちは、自分のお金の使い方と向き合う中で、自制心であるとか、長期的な考えに基づいて行動するとか、買い物を通じて自分の価値観に気づくことができます。そこでシャトルペイは、毎月のお金の流れを振り返ることで、大人的な表現をすればPDCAを回して、お金に向かい合うためのツールになることを目指しています。

――おこづかいにおける現金の位置付けですが、私たちの子ども時代は現金しかなかったから、現金の重みを自然に学びましたが、生まれた時からデジタルのお金が使える今の子どもたちに現金は必要ですか。

見原 キャッシュレスが普及してきた今も、現金しか使えない場面があります。今後も現金は残るし、現金で支払う場面はあるので、現金を使う方法を覚えることは基本です。それによって、5円玉と50円玉といった硬貨の違い、お金の価値を理解できます。

 もう一つの現金の効用は、「お金が減る痛みを感じやすい」こと。使うと物理的になくなるから、お金の価値を認識しやすく、必要なものから買う訓練になります。買い物の入り口として現金を活用するのは効果的かと思います。小学3年、4年くらいで訓練は終わるので、そこから先は、キャッシュレスが持つ恩恵を活用するといいのかなと思っています。

たぱぞう 大人でもデジタルのお金のやり取りをしていると、数字のゲームをしている感覚になります。デジタルのお金はとても便利ですが、子どもの原体験として現金を扱うことは大事だと思います。