どこでも、いつでも、スマホで買い物ができてしまう時代。いくらおこづかいをあげるか、どこまで管理するかが難しい。友達付き合いはさせてあげたい。でも、無駄遣いはさせたくない。何にいくら使うかまで管理するのがいいことか。「知れてしまうから」難しい今、子どもとお金を介した距離感を考えてみたいと思います。

 教えてくれたのは、子供向けのプリペイドカード「シャトルペイ」を立ち上げた見原思郎さん、そして米国株投資家で投資インフルエンサーのたぱぞうさんです。

キャッシュレスになるとおこづかいの使い道が監視される?

――最初のテーマは、子どものおこづかいについてです。近年キャッシュレスが急速に普及し、 子どものおこづかいにも及んでいますよね。

 年齢にもよりますが、子どものスマホにおこづかいをチャージしたり、電子マネーカードを渡す親も増えてきました。そうなると、親が使用履歴を管理できるようになり、子どもはおこづかいの使い道を監視されているように感じるかもしれません。

 子ども向けプリペイドカード「シャトルペイ」を作ったシャトル代表の見原思郎さんは、なぜ子ども向けプリペイドカードを作ろうと考えたのですか。「シャトルペイ」には決済機能だけでなく、子どもの買い物をリアルタイムに親に通知したり、自動でおこづかい帳をつけたりする機能がついていますよね。

シャトルペイでは、子ども専用のカードと連動するアプリで、おこづかいの管理ができる。

見原 まず、シャトルのミッションとして掲げたのが「未来を担う若い世代の可能性を最大化する」ということ。具体的には、子どもたちが買い物を通じて自分の興味の対象に気づいたり、わくわくする体験を増やしてあげたい。

 シャトルペイを親子で使うことでコミュニケーションが増え、子どもの買い物に親御さんが共感したり、応援したくなるきっかけを増やしていければいいなという思いで作りました。

――おこづかいがキャッシュレスになったことで、親と子それぞれ何が変わったと感じていますか。

見原 親の立場では、現金のおこづかいでは見えなかったものが、キャッシュレスつまりデジタルのお金になったことで見えるようになりました。子どもが何を買ったのかがリアルタイムで分かるので、安心してお金の管理を子どもに任せることができるようになった。

 子どもの立場では、現金だとおこづかい帳をきちんと付けない限り振り返りができず、使いっぱなしになりがちですが、デジタルのお金は使い方を振り返ることができる。

「1週間でおこづかいがなくなったのは、買い食いをしすぎたからだ」というような気づきが得られます。

 実際にお子さんから、買い物履歴を見て、「こういう買い物を減らそうと思う」という言葉が出たというお話をいただきました。

利用者である親御さんへのインタビューを重ね、家庭での金銭教育の課題を探る。

――米国株投資家であり二人のお子さんの父親でもあるたぱぞうさんは、お子さんの金銭感覚についてどんなお考えをお持ちでしょう。

たぱぞう お金のことに限らずですが、親が子どもに身につけてほしいことは、「自由と責任」なんだと思います。親は基本的には、子供たち自身で自主・自立・自由をコントロールして、よりよい人生を歩んでいってほしいと願うものです。

 でも、自由のコントロールは子どもには非常に難しい。例えば、お店で買い食いをしてしまって、おこづかいを3日とか1週間で使い切ってしまった。スマホの課金ゲームに全部つぎ込んでしまった。そんなことが続くと、親は使い道を制限したくなって、口に出せば親子で嫌な思いをします。

 でもそれは、子どもが一方的に悪いわけではありません。企業は消費意欲をかき立てることに力を入れているので、大人でもコンビニに入ると新しい商品でわくわくしますよね。

 その欲求に負けてお金を無計画に使う習慣がついてしまうと、ものを買うため、消費するためだけに働く人生になって、やりたくない仕事もしなければならなくなるかもしれない。

 そこで小さいうちから生産的なお金の使い方を身につけてほしいと願い、子どもが小さい頃からお金の話をしてきました。

見原 親御さんはやはり長期の視点でお金を使ってほしいと思うし、お子さんは日々の生活が楽しいことが大事なので目先のものを買いたくなる。

 ここに対立が生まれるわけですが、親御さんにインタビューしていて、大切かもと思うことは、お子さんが低年齢であるほど親御さんの話を受け入れやすいので、小学校低学年のうちからお金の話をしておくことです。その下地ができていると、中学生になって自立心が強くなったころでも、お金に関しては基本的な向き合い方ができており、対立が生まれにくいと思います。

使い道の履歴管理は親子ともにメリットがある?

――先ほどの「親に子どものお金の使い方が見える」という部分ですが、親が履歴をチェックすることでマイクロマネジメントをしてしまい、かえって自立を妨げるのではないかという懸念を感じるのですが。

見原 履歴が残ることで、お子さんがおこづかいの使い方を振り返ることができます。親御さんは、履歴を見て感じたことをフィードバックしてあげることができる。

 例えばアイスはコンビニで買うよりスーパーで買ったほうが安いということに自分で気づいたり、親が教えてあげたりすることができる。そこで私たちがプロダクトに込めた思いは、お子さんの自主性を育てるために使ってもらいたいということです。

――子どもが開示を嫌がる理由の一つとして、親の無神経な指摘があると思ったりもします。例えば開示したらコンビニでチキンばかり買っていると、「なんで買い食いばかりするの」と叱る。その裏側には何か理由があるのかもしれません。

見原 これからの話には私の感想も入っているのですが、子どもが開示を嫌がらない家庭は、親御さんがおこづかいの使い方の監視ではなく、おこづかいを使うことを通じて自主性の確立をサポートしたいという思いが強いようなのです。

 コンビニでいつもチキンを買うからおこづかいがなくなるというのなら、なぜいつも買うのかという理由を話し合いの中で引き出す。おなかが減るからという理由であれば、家で一緒に唐揚げを作ってみようという提案をすることで、おこづかいを有効に使えるようになると思います。

――親が頭ごなしに駄目出しをするのではなく、駄目の理由を説明したり、買ったものリストを通じて子どもの気持ちを知る努力をしたりすることが大事なのかもしませんね。

たぱぞう 「駄目なものは駄目」ではなく、子どもに「駄目」な理由を説明するのは大事なことですね。

米国株投資を中心に資産をつくった、たぱぞうさん。お子さんの金融教育も独自の理念がある。

見原 もう一つ例を挙げると、インタビューを進める中で、小学校の娘さんが、「カフェに行った」とおこづかい帳につけていたケースがありました。それを見た親御さんは、カフェ自体に問題は無いけれど、小学生が行くところではないから駄目出ししようかと思ったのだけれど、思いとどまって、「カフェに行ったんだね」とだけ言いました。

 すると娘さんは、「中高生のお姉さんたちがカフェにいるのを見て興味を持って友達と行った」と答えたそうです。なるほど、娘はそういう体験をしたかったんだと親御さんは娘の成長を感じ、娘さんは商品が500円もしたので、おこづかいを使いすぎてしまった、今度は別のお店でいいかもな、という振り返りをしたそうです。

たぱぞう みなさん、子どもと向き合う丁寧な子育てをされていますね。すごいですよ。つい毎日が忙しいから、「駄目なものは駄目」と突き放しがちですが、インタビューされた親御さんの姿勢は素晴らしいと思います。

小学校低学年は現金によって「減る痛み」を体験

――それでも親に履歴を開示したくない子どももいますよね。

たぱぞう 自分だって見られたくない(笑)。

見原 このアプリを使ってくださっているご家庭は、開示することで親子の会話が生まれることをメリットと感じてくれている方が多いです。では、開示したくないお子さんにはどのような使い方の提案ができるのか。

 それは検討中の課題ではあるのですが、一つ考えられるのは、子どもにとってもお金が増えることはメリットなはずなので、お金を増やせる仕組み――働くことで報酬を得られるとか、アプリで貯金をすると(親払いの)利息が付く(親が利子を払うことで短期間で複利体感ができる)とかの機能をプラスできないかということです。

たぱぞう 貯金に対する批判は少ないでしょうが、子どもの成果報酬制には否定的な指摘もあります。労働が打算的になってフィーに応じた労働しかしなくなるとか。

 労働には本来、誰かに役に立つことの喜びがあるはずなのに、それが感じ取れなくなるのではないかとか。

 でも、シャトルペイで素晴らしいと感じることは、利用者に選択の余地を残しているところです。会社がおしつけるのではなく、利用者が使い方を選べることはとても大事なこと。

見原 子どもたちは、自分のお金の使い方と向き合う中で、自制心であるとか、長期的な考えに基づいて行動するとか、買い物を通じて自分の価値観に気づくことができます。そこでシャトルペイは、毎月のお金の流れを振り返ることで、大人的な表現をすればPDCAを回して、お金に向かい合うためのツールになることを目指しています。

――おこづかいにおける現金の位置付けですが、私たちの子ども時代は現金しかなかったから、現金の重みを自然に学びましたが、生まれた時からデジタルのお金が使える今の子どもたちに現金は必要ですか。

見原 キャッシュレスが普及してきた今も、現金しか使えない場面があります。今後も現金は残るし、現金で支払う場面はあるので、現金を使う方法を覚えることは基本です。それによって、5円玉と50円玉といった硬貨の違い、お金の価値を理解できます。

 もう一つの現金の効用は、「お金が減る痛みを感じやすい」こと。使うと物理的になくなるから、お金の価値を認識しやすく、必要なものから買う訓練になります。買い物の入り口として現金を活用するのは効果的かと思います。小学3年、4年くらいで訓練は終わるので、そこから先は、キャッシュレスが持つ恩恵を活用するといいのかなと思っています。

たぱぞう 大人でもデジタルのお金のやり取りをしていると、数字のゲームをしている感覚になります。デジタルのお金はとても便利ですが、子どもの原体験として現金を扱うことは大事だと思います。

金融教育はいつ、どのように始める?

――次のテーマは金融教育についてです。お金の使い方には消費と投資があると思います。子どもに対する投資を含めた金融教育の入り口は、どのように作ればいいのでしょうか。

たぱぞう 『バビロンの大富豪』(ジョージ・S・クレイソン著)という名著がありますが、ここに書かれていることの要点は、「稼いだものは、すべてその一部を自分のものとしてとっておくこと」です。おこづかいは全部使わずに、いくらかを取っておくこと。そこが入り口になると思います。

見原 確かに、おこづかいを節約して一定額を貯金に回す習慣を付けることで、将来の投資の資金を確保できるようになる。この習慣がついていないと、大人になって給料をもらうと、全部使いたくなるかもしれません。

 ただ一般的なおこづかい制は、「want」(日々の消費)のためのお金を渡すことであり、文房具のようなものは別途親が出します。そのため、そもそも貯金をする余力がないのでしょう。そこで親は、子が収支のコントロールができるようになったと思ったタイミングで、余分なお金をあえて与えて、使わないでためる訓練をするという方法はあると思いました。

シャトルペイでは、子どもが何にお金を使ったかを親も把握できる。どこまで介入するかは、子どもの成長次第?

――子どもが小さいうちは、親がお年玉を管理することが多いと思うのですが、それを原資に使うこともできますね。

見原 我が家でもお年玉やお祝い金を預かって投資していて、大きくなったら渡そうと思っているのですが、株式投資が分かるような年齢になったら、一緒に銘柄選定することで投資の経験を積むことができそうです。我が家の投資教育は、ここを入り口にしようと思いました。

――たぱぞうさんは、お子さんに投資の話もしているのですか。

たぱぞう 折に触れて話しているので、今ではかなりの知識を持っています。面白いのは、兄弟でも生まれた瞬間から別人格だから、私の話が響いて自らの生活に落とし込んでいくタイプとそうでないタイプがいる(笑)。

見原 響かない子には、どうすればいいんですか。

たぱぞう 響かない子に響かせるというのは難しいですね。だけど、響いた方がいいとも言い切れない。もしかしたら響いた子のほうは起業の道を選び、失敗して路頭に迷うかもしれない。響かない方の子は堅実に持続可能な仕事に就いて平穏な生活を送るかもしれない。将来のことは分かりませんから、何が起こってもいいように、親として準備をしてあげたいと思っています。

世代によって労働とお金に対する価値観が異なる

――親は子に、安定した生活をしてもらいたいと願うものです。チャレンジは応援するけれど、波瀾(はらん)万丈な一生を願っているわけではない。

 だから勉強をして、いい大学に入って、いい会社に就職してという価値観が多数を占めていたのですが、テクノロジーの進歩によるものなのか、子どもの価値観の変化、親の価値観の変化が起こっている気もします。ただ、私の親の世代(70代)は、そこまで真剣に子ども、つまり私の将来を考えていたのだろうか。放置されていた気もします(笑)。

生成AIの登場で、働き方や生き方の多様化も加速しそう、という点で子育て議論は白熱。

たぱぞう 親同士の世代間ギャップはあると思います。うちの親も70代ですが、オプティミスト(楽観論者)なんですよね。なぜかというと、生まれた時と退職した時の社会の様子が全然違うのです。

 つまり社会が豊かになり続け、会社に定年まで真面目に勤めれば給料も上がり続けるし、退職金も年金も十分にもらえるので、父には貯金という発想があまりない。「なんでお前は投資や節約にしゃかりきになっているんだ」というわけです。

 でも私たちの世代(40代)は、成功モデルが終わり、世の中が停滞しているので、どうしてもペシミスト(悲観論者)寄りにならざるを得なくて、子どもの頃から金銭感覚を養うことが大事だという切り口になってしまうのかと、自分自身を振り返って思います。

見原 お客さまからこんな話を聞いたことがあります。「親からお金の話ははしたないと言われてきたから自分はお金の大切さに気づかなかったけれど、社会人になってお金の大切さや運用の必要性を実感したので、子どもには教えてあげたい」。

 また30年間収入が右肩下がりが続いたことで、こういう言葉も聞きます。「子どもはいつか親から離れなければならない。でも自分がいなくなった後にちゃんと生きていけるのだろうか心配になる。だから今から正しいお金の選択ができるようにしてあげたい」。

 最初はそうした親が子を思う気持ち(もしかしたら「親のエゴ」かもしれないけれど)が出発点になって自立をサポートするわけですが、子が早く自立してくれると、親は立ち位置を変えて、自分のことを考えられるようになる。

――子どものことを考えてという建前を前面に出しているけれど、実は子どもが自立できないといつまでも頼られることになり自分も困るという本音もあるのかもしれません(笑)。

見原・たぱぞう それはある(笑)。

――大学を出るまでは親の責任、そこから先は子どもの責任、つまりこの自立という考え方は昔からありますよね。今は、そう簡単に割り切れない状況ですか?

見原 その考えは今でも変わらないと思いますが、ワードとして「乗り遅れたくない」というのがあります。他の子は自立までにきちんとした金銭感覚を身につけていて投資にも前向きなのに、自分の子どもはおこづかいを全部使ってしまうような浪費の感覚が残っている。それでは社会から取り残されるので、「乗り遅れたくない」ということなのでしょう。

たぱぞう 金融教育は家庭と地域と学校というトライアングルで語られますよね。最近の学校教育はどうなっているのでしょうか。

見原 学校でのお金の教育は知識ですよね。それも教える時間が限られます。家庭は知識を実践したり、体験する場であるという言葉は、親御さんから聞きますね。

たぱぞう 学校は時間が限られているし、家庭科で教えるお金の知識は消費者教育の域を出ないだろうし、投資教育に踏み込むのは難しい。結局、学校が抱えている課題はそのまま家庭での課題でもあるのです。

――AIが普及すると、人間の仕事の多くがなくなるといわれています。次世代を担うお子さんたちに、働くことをどう教えていますか。

たぱぞう 子どもたちには持続可能な資格を取得して、持続可能な仕事に就くように、強制はできませんから、水を向けています。労働資本(働いて得たお金)は重要です。投資の原資は労働資本によってつくるしかないのだから、一労働者としての資質を高めていくことはお金の使い方と同じくらい重要なことだということを子どもに話しています。

――水を向けた成果はいかがですか?

たぱぞう 次男は全寮制の学校に入学しました。スマホ禁止、おこづかいは先生の管理の下で使うという厳しいルールがあるのですが、将来なりたい職業に就くための学力を身につけるには、勉強に集中できる環境が必要だと自分で選んだのです。

見原 スマホやおこづかいは子どもにとって重要なものですが、次男さんは勉強を優先させたのですね。

たぱぞう でも親世代の私は、勉強して得たことに価値があるのか疑問に思っています。私達の世代は、勉強のプライオリティは高くなかった気がしているのです。

 昔は知識とか教養とかを学校で教えられてインプットしていく作業に価値があったわけですが、ChatGPTもそうですが、知識をインプットしなくても簡単に引き出すことができる時代になると、知識を引き出すためのプロセスや指示方法を身につけた方がより良い生活を実現できるのかもしれません。

――おこづかいから投資、働き方まで幅広いお話をしていただきました。きっとお子さんを持つ親世代にたくさんの気づきを与えてくれたと思います。ありがとうございました。

■教えてくれたのは

見原思郎さん
シャトル代表取締役

GREE子会社の社長、メルペイなどを経て、親子向けフィンテック企業であるシャトルを40歳で起業。子供向けプリペイドカード「シャトルペイ」を2022年にリリース。シャトルペイを通じた金融教育で、子どもたちの可能性を最大化できる社会を実現するのがミッション。

<シャトルペイ>

 

たぱぞうさん
投資インフルエンサー、米国株投資家

登録者数22万人を誇るYouTubeチャンネル「たぱぞう投資大学」や、月間100万PV超の投資ブログ「たぱぞうの米国株投資」など、幅広く情報発信に取り組む米国株投資家。米国株で資産を築き、現在はセミリタイア。著書に、『僕が子どもに教えている1億円のつくり方』(KADOKAWA/2022年9月出版)などがある。

<たぱぞう投資大学>