金融教育はいつ、どのように始める?

――次のテーマは金融教育についてです。お金の使い方には消費と投資があると思います。子どもに対する投資を含めた金融教育の入り口は、どのように作ればいいのでしょうか。

たぱぞう 『バビロンの大富豪』(ジョージ・S・クレイソン著)という名著がありますが、ここに書かれていることの要点は、「稼いだものは、すべてその一部を自分のものとしてとっておくこと」です。おこづかいは全部使わずに、いくらかを取っておくこと。そこが入り口になると思います。

見原 確かに、おこづかいを節約して一定額を貯金に回す習慣を付けることで、将来の投資の資金を確保できるようになる。この習慣がついていないと、大人になって給料をもらうと、全部使いたくなるかもしれません。

 ただ一般的なおこづかい制は、「want」(日々の消費)のためのお金を渡すことであり、文房具のようなものは別途親が出します。そのため、そもそも貯金をする余力がないのでしょう。そこで親は、子が収支のコントロールができるようになったと思ったタイミングで、余分なお金をあえて与えて、使わないでためる訓練をするという方法はあると思いました。

シャトルペイでは、子どもが何にお金を使ったかを親も把握できる。どこまで介入するかは、子どもの成長次第?

――子どもが小さいうちは、親がお年玉を管理することが多いと思うのですが、それを原資に使うこともできますね。

見原 我が家でもお年玉やお祝い金を預かって投資していて、大きくなったら渡そうと思っているのですが、株式投資が分かるような年齢になったら、一緒に銘柄選定することで投資の経験を積むことができそうです。我が家の投資教育は、ここを入り口にしようと思いました。

――たぱぞうさんは、お子さんに投資の話もしているのですか。

たぱぞう 折に触れて話しているので、今ではかなりの知識を持っています。面白いのは、兄弟でも生まれた瞬間から別人格だから、私の話が響いて自らの生活に落とし込んでいくタイプとそうでないタイプがいる(笑)。

見原 響かない子には、どうすればいいんですか。

たぱぞう 響かない子に響かせるというのは難しいですね。だけど、響いた方がいいとも言い切れない。もしかしたら響いた子のほうは起業の道を選び、失敗して路頭に迷うかもしれない。響かない方の子は堅実に持続可能な仕事に就いて平穏な生活を送るかもしれない。将来のことは分かりませんから、何が起こってもいいように、親として準備をしてあげたいと思っています。

世代によって労働とお金に対する価値観が異なる

――親は子に、安定した生活をしてもらいたいと願うものです。チャレンジは応援するけれど、波瀾(はらん)万丈な一生を願っているわけではない。

 だから勉強をして、いい大学に入って、いい会社に就職してという価値観が多数を占めていたのですが、テクノロジーの進歩によるものなのか、子どもの価値観の変化、親の価値観の変化が起こっている気もします。ただ、私の親の世代(70代)は、そこまで真剣に子ども、つまり私の将来を考えていたのだろうか。放置されていた気もします(笑)。

生成AIの登場で、働き方や生き方の多様化も加速しそう、という点で子育て議論は白熱。

たぱぞう 親同士の世代間ギャップはあると思います。うちの親も70代ですが、オプティミスト(楽観論者)なんですよね。なぜかというと、生まれた時と退職した時の社会の様子が全然違うのです。

 つまり社会が豊かになり続け、会社に定年まで真面目に勤めれば給料も上がり続けるし、退職金も年金も十分にもらえるので、父には貯金という発想があまりない。「なんでお前は投資や節約にしゃかりきになっているんだ」というわけです。

 でも私たちの世代(40代)は、成功モデルが終わり、世の中が停滞しているので、どうしてもペシミスト(悲観論者)寄りにならざるを得なくて、子どもの頃から金銭感覚を養うことが大事だという切り口になってしまうのかと、自分自身を振り返って思います。

見原 お客さまからこんな話を聞いたことがあります。「親からお金の話ははしたないと言われてきたから自分はお金の大切さに気づかなかったけれど、社会人になってお金の大切さや運用の必要性を実感したので、子どもには教えてあげたい」。

 また30年間収入が右肩下がりが続いたことで、こういう言葉も聞きます。「子どもはいつか親から離れなければならない。でも自分がいなくなった後にちゃんと生きていけるのだろうか心配になる。だから今から正しいお金の選択ができるようにしてあげたい」。

 最初はそうした親が子を思う気持ち(もしかしたら「親のエゴ」かもしれないけれど)が出発点になって自立をサポートするわけですが、子が早く自立してくれると、親は立ち位置を変えて、自分のことを考えられるようになる。

――子どものことを考えてという建前を前面に出しているけれど、実は子どもが自立できないといつまでも頼られることになり自分も困るという本音もあるのかもしれません(笑)。

見原・たぱぞう それはある(笑)。

――大学を出るまでは親の責任、そこから先は子どもの責任、つまりこの自立という考え方は昔からありますよね。今は、そう簡単に割り切れない状況ですか?

見原 その考えは今でも変わらないと思いますが、ワードとして「乗り遅れたくない」というのがあります。他の子は自立までにきちんとした金銭感覚を身につけていて投資にも前向きなのに、自分の子どもはおこづかいを全部使ってしまうような浪費の感覚が残っている。それでは社会から取り残されるので、「乗り遅れたくない」ということなのでしょう。

たぱぞう 金融教育は家庭と地域と学校というトライアングルで語られますよね。最近の学校教育はどうなっているのでしょうか。

見原 学校でのお金の教育は知識ですよね。それも教える時間が限られます。家庭は知識を実践したり、体験する場であるという言葉は、親御さんから聞きますね。

たぱぞう 学校は時間が限られているし、家庭科で教えるお金の知識は消費者教育の域を出ないだろうし、投資教育に踏み込むのは難しい。結局、学校が抱えている課題はそのまま家庭での課題でもあるのです。

――AIが普及すると、人間の仕事の多くがなくなるといわれています。次世代を担うお子さんたちに、働くことをどう教えていますか。

たぱぞう 子どもたちには持続可能な資格を取得して、持続可能な仕事に就くように、強制はできませんから、水を向けています。労働資本(働いて得たお金)は重要です。投資の原資は労働資本によってつくるしかないのだから、一労働者としての資質を高めていくことはお金の使い方と同じくらい重要なことだということを子どもに話しています。

――水を向けた成果はいかがですか?

たぱぞう 次男は全寮制の学校に入学しました。スマホ禁止、おこづかいは先生の管理の下で使うという厳しいルールがあるのですが、将来なりたい職業に就くための学力を身につけるには、勉強に集中できる環境が必要だと自分で選んだのです。

見原 スマホやおこづかいは子どもにとって重要なものですが、次男さんは勉強を優先させたのですね。

たぱぞう でも親世代の私は、勉強して得たことに価値があるのか疑問に思っています。私達の世代は、勉強のプライオリティは高くなかった気がしているのです。

 昔は知識とか教養とかを学校で教えられてインプットしていく作業に価値があったわけですが、ChatGPTもそうですが、知識をインプットしなくても簡単に引き出すことができる時代になると、知識を引き出すためのプロセスや指示方法を身につけた方がより良い生活を実現できるのかもしれません。

――おこづかいから投資、働き方まで幅広いお話をしていただきました。きっとお子さんを持つ親世代にたくさんの気づきを与えてくれたと思います。ありがとうございました。

■教えてくれたのは

見原思郎さん
シャトル代表取締役

GREE子会社の社長、メルペイなどを経て、親子向けフィンテック企業であるシャトルを40歳で起業。子供向けプリペイドカード「シャトルペイ」を2022年にリリース。シャトルペイを通じた金融教育で、子どもたちの可能性を最大化できる社会を実現するのがミッション。

<シャトルペイ>

 

たぱぞうさん
投資インフルエンサー、米国株投資家

登録者数22万人を誇るYouTubeチャンネル「たぱぞう投資大学」や、月間100万PV超の投資ブログ「たぱぞうの米国株投資」など、幅広く情報発信に取り組む米国株投資家。米国株で資産を築き、現在はセミリタイア。著書に、『僕が子どもに教えている1億円のつくり方』(KADOKAWA/2022年9月出版)などがある。

<たぱぞう投資大学>