低PBR水準で出遅れ感が強い高配当利回り銘柄(日本郵政、コスモエネルギーHD、日本製鉄、石油資源開発、デンカ)

 全体相場の調整局面入りを念頭に置いて、高配当利回り銘柄への関心も、出遅れている銘柄に絞りたいところです。低PBR銘柄のみならず、日本株全体が割安から適正と思われる株価水準に近づく「水準訂正」の材料とされている要因の一つに、東証によるPBR1倍割れ銘柄に対する改善要求が挙げられます。

 これが示されたのが今年3月末であり、この時期との比較で株価が上昇していない(出遅れている)低PBR銘柄などには、今後投資家の関心が向かっていくものとみられます。これらの銘柄においては、株価上昇に向けた一段の施策などが発表される余地もあるといえるでしょう。

(表)株価の出遅れ感が強い低PBRかつ高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り(%) 6月19日終値(円) 時価総額(億円) PBR (倍) 株価騰落率 (%)
6178 日本郵政 4.90 1,020.5 38,451 0.35 -6.64
5021 コスモエネルギーHD 4.84 4,128.0 3,499 0.68 -3.31
5401 日本製鉄 4.77 2,937.5 27,915 0.65 -4.34
1662 石油資源開発 4.72 4,240.0 2,423 0.54 -3.02
4061 デンカ 4.60 2,609.5 2,310 0.76 -3.78
(注)株価騰落率は3月31日終値比

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが4.0%以上(6月19日終値)
  2. 時価総額が1,000億円以上
  3. PBRが0.8倍未満
  4. 3月31日比で株価下落率が3%以上

厳選・高配当銘柄(5銘柄)

1 日本郵政(6178・東証プライム)

 日本郵政公社の民営化に伴って発足した、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命を主要子会社とする持株会社です。日本全国2万4,000の郵便局ネットワークが強みとなっています。政府はこれまで3度の保有株売出を実施し、2023年3月末時点の保有株比率は34.33%となっており、郵政民営化法上の下限である3分の1超まで低下しています。

 一方、保有しているゆうちょ銀行やかんぽ生命の株式は将来的に完全処分を目指していますが、現在では、それぞれ60.2%、49.8%となっています。

 2023年3月期純利益は4,310億円で前期比14.1%減となりました。主要3社がそろって減益となっています。とりわけ、郵便・物流事業が不振だった日本郵便、保有契約の減少などが響いたかんぽ生命の減益幅が大きくなっています。

 一方、2024年3月期は2,400億円で44.3%減の見通しとしています。ゆうちょ銀行の持分割合が89%から60%に低下することが減益見通しの主因となりますが、デジタル化進展などで引き続き日本郵便の低迷は続く想定となっています。年間配当金は前期比横ばいの50円を計画しています。

 ゆうちょ銀行とかんぽ生命の現在の持分を合わせると約2.9兆円となるほか、賃貸不動産の時価も約7,500億円あります。さらに、出資しているアフラックや楽天の持分なども考慮すると、現在の同社の時価総額3.5兆円程度には割安感が非常に強いと言えるでしょう。

 目先、保有するゆうちょ銀行の株式追加売却は想定されますが、売却資金を自社株買いに充当すれば、EPS(一株当たり純利益)の十分な下支えになるでしょう。現在の配当水準は今後も継続する可能性が高いと判断されます。

2 コスモエネルギーホールディングス(5021・東証プライム)

 コスモ石油からの株式移転により、2015年10月に発足した持株会社です。燃料油の国内販売シェアは12%程度と推定されます。現有処理能力は1日当たり40万バレル程度で、千葉、堺、三重県四日市の3製油所で展開しています。

 石油精製・販売のほかに、石油化学、アブダビ首長国での石油開発事業などを行っています。また、再生エネルギー事業なども手掛け、陸上風力発電の国内シェアは第3位です。筆頭株主だったアブダビ政府系会社とは2022年に資本提携を解消しています。

 2023年3月期経常利益は1,645億円で前期比29.4%減となっています。原油価格の上昇によって石油開発事業は大幅増益となりましたが、製油所トラブルの影響やエネルギーコストの上昇を受けて石油事業が足を引っ張る形となっています。

 一方、年間配当金は前期比50円増の150円としています。

 2024年3月期経常利益は1,250億円で24.0%減の見通しです。一転して石油開発事業が原油価格下落の影響で減益を見込んでいます。石油事業は在庫評価益216億円一巡がマイナス要因となりますが、これを除いたベースでは、マージン改善や製油所トラブルの影響一巡で増益を見込んでいます。

 なお、年間配当金は前期比50円増の200円を計画しています。

 3月に発表している中期経営計画では、3カ年累計の総還元性向は、在庫影響を除いた純利益の60%以上としています。下限配当として200円も設定しており、石油業界の中ではトップクラスの還元姿勢と言えるでしょう。

 また、旧村上系ファンドとされるシティインデックスイレブンスが共同保有者分を合わせ議決権で約20%所有する大株主となっていることも思惑材料です。再生エネルギー事業子会社の上場などを提案しているもようです。