日経平均は直近一段と上昇、米利上げ停止期待や海外投資家の買いで

 直近1カ月(5月22日~6月16日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで8.4%の上昇となりました。1990年3月以来約33年ぶりの高値水準となっています。

 期間中の取引時間中の安値は5月25日の3万558円で、高値は6月16日の3万3,772円と、ほぼ右肩上がりでの上昇となりました。6月16日までの週を含めて、10週間連続での上昇となり、これは約10年ぶりの長期間での上昇となっています。なお、この期間(5月22日~6月16日)のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均の騰落率は3.0%の上昇でした。

 期間中前半は、米国の債務上限交渉への先行き不透明感が上値の重しとなる局面もありました。ただ、米半導体大手エヌビディア(NVDA)が5月24日に好決算を発表したことで、日米の半導体関連株が大きく上昇して相場を支えました。

 6月に入ると、米国における利上げ停止観測の強まりや米連邦政府の債務不履行回避を受けて、日経平均は上昇ピッチを強める展開となっています。6月9日(金)に期限を迎えた日経平均先物・オプション取引の清算日「メジャーSQ(特別清算指数)」前にはいったん、需給要因で調整する状況にもなりました。

 米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)では利上げ停止を決定し11会合ぶりの据え置きとなったものの、年内にあと2度の利上げ観測が重荷になりました。ただ、国内で衆議院解散の観測も強まったことで、格好の押し目買い場面ともなった形です。

 岸田文雄首相が15日、21日に会期末を迎える今国会での衆院解散を見送ると表明し、利益確定売りを誘いましたが、日本銀行が16日に大規模金融緩和の維持決定を表明したことで一段高となっています。

 なお、この期間の相場環境として、円相場は約半年ぶりとなる1ドル=142円台手前の円安水準まで上昇し、海外投資家の日本株大幅買い越し基調も続く状況でした。

 この期間の物色ですが、米エヌビディアの好決算発表が手掛かりとなり、1カ月前と同様に半導体関連株の上昇が目立ちました。80%以上の上昇率となったソシオネクスト(6526)を筆頭に、芝浦メカトロニクス(6590)アドバンテスト(6857)東京精密(7729)ルネサスエレクトロニクス(6723)イビデン(4062)SCREENホールディングス(7735)ディスコ(6146)などが20%以上の上昇となっています。

 また、三井物産(8031)丸紅(8002)三菱商事(8058)など総合商社も強い動きとなりました。米著名投資家のウォーレン・バフェット氏による株式の追加取得への思惑などが背景となったようです。実際、6月19日には大手総合商社5社の追加取得が明らかになっています。

 対話式AI「ChatGPT」を開発した米「オープンAI」のサム・アルトマンCEO(最高経営責任者)が来日し、ソフトバンクグループの孫正義社長と面会と伝わったことで、ソフトバンクグループ(9984)の上昇も目立ちました。一方、楽天グループ(4755)は公募増資実施に伴う短期的な需給の悪化もあって、前月に続いてさえない動きになっています。

 京王電鉄(9008)東急(9005)小田急電鉄(9007)など、電鉄株も弱い動きとなりました。

一段高余地も想定される中で過熱感などは強まる、出遅れ銘柄への資金シフトを想定

 今年の日経平均はすでに昨年末の終値と比べると、7,600円強の上昇となっています(6月16日現在)。1年のまだ半ばにして、年間の上昇幅としてはバブル経済崩壊以降で最大の水準にまで達してきている状況です。

 また、バリュエーションを見ても、アジアや欧州との比較でPER(株価収益率)は同水準であり、PBR(株価純資産倍率)も、低いROE(株主資本利益率)水準を考慮すれば割安感はなくなっている状況といえます。

 加えて、6月末にかけては、株主総会の集中日を通過(企業サイドとしては株主総会前に悪材料を表面化させたくない)するほか、海外年金の中間期末を迎えることもあり(新たな半期がスタートすることでポートフォリオの入れ替えなども起こりやすい)、短期的には、ここまでの上昇の反動安を警戒する局面に差し掛かっているともいえるでしょう。

 円安は進んでいる状況ですが、ここからの一段の円安は、日銀のYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)修正を促す可能性もあります。

 ただし、米国では今回ドットチャート(FOMCの各メンバーによる政策金利の予想分布)が引き上げられており、年内にあと2度の利上げが想定されることになっています。この結果はサプライズではありましたが、逆に今後の利上げ停止を織り込む余地(株高の余地)が生じる状況になっています。

 あくまで、今後の再利上げは、沈静化しつつあるインフレ指標の明確な反転が表面化した際のことであり、利上げステージは終了した可能性は十分にあるとも考えられます。今後もインフレ指標の低下は米国株、ならびに、日本株の買い材料とされるでしょう。

 また、欧州に関しても、ECB(欧州中央銀行)の次回7月理事会での連続利上げは想定されていますが、その際にその次の9月理事会での利上げ停止が織り込まれてくるとみられます。欧米の金融引き締め緩和が世界株高につながる余地は残っていると言えます。

 また、海外投資家の日本株買いの勢いも沈静化していません。6月第1週まで11週連続で買い越し、累計買越額は約5.5兆円にのぼっていますが、2016~2020年にかけては約12.5兆円を売り越しており、依然として買い越し余地があるとも考えられ、当然ポートフォリオの入れ替え時期に日本株のウエートを高める可能性もあるでしょう。

 このように、株価の過熱感、割安感の消失などは意識されつつある中ですが、一段の上昇の可能性も十分に残されている状況にはあります。こうした状況下では、グロース(成長)株、バリュー(割安)株に限らず、出遅れ感が相対的に強い銘柄に資金をシフトさせるべきであると考えます。

 具体的には、グロース株であれば、2021年1月からマザーズ指数が急落したことで、2020年末との比較で株価が出遅れている銘柄が挙げられるでしょう。また、バリュー株で言えば、東京証券取引所がPBR1倍割れ銘柄に対して改善要求を行ったのが今年3月末であることから、3月末比で上昇率が低い低PBR銘柄などが対象になってくると考えます。

低PBR水準で出遅れ感が強い高配当利回り銘柄(日本郵政、コスモエネルギーHD、日本製鉄、石油資源開発、デンカ)

 全体相場の調整局面入りを念頭に置いて、高配当利回り銘柄への関心も、出遅れている銘柄に絞りたいところです。低PBR銘柄のみならず、日本株全体が割安から適正と思われる株価水準に近づく「水準訂正」の材料とされている要因の一つに、東証によるPBR1倍割れ銘柄に対する改善要求が挙げられます。

 これが示されたのが今年3月末であり、この時期との比較で株価が上昇していない(出遅れている)低PBR銘柄などには、今後投資家の関心が向かっていくものとみられます。これらの銘柄においては、株価上昇に向けた一段の施策などが発表される余地もあるといえるでしょう。

(表)株価の出遅れ感が強い低PBRかつ高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り(%) 6月19日終値(円) 時価総額(億円) PBR (倍) 株価騰落率 (%)
6178 日本郵政 4.90 1,020.5 38,451 0.35 -6.64
5021 コスモエネルギーHD 4.84 4,128.0 3,499 0.68 -3.31
5401 日本製鉄 4.77 2,937.5 27,915 0.65 -4.34
1662 石油資源開発 4.72 4,240.0 2,423 0.54 -3.02
4061 デンカ 4.60 2,609.5 2,310 0.76 -3.78
(注)株価騰落率は3月31日終値比

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが4.0%以上(6月19日終値)
  2. 時価総額が1,000億円以上
  3. PBRが0.8倍未満
  4. 3月31日比で株価下落率が3%以上

厳選・高配当銘柄(5銘柄)

1 日本郵政(6178・東証プライム)

 日本郵政公社の民営化に伴って発足した、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命を主要子会社とする持株会社です。日本全国2万4,000の郵便局ネットワークが強みとなっています。政府はこれまで3度の保有株売出を実施し、2023年3月末時点の保有株比率は34.33%となっており、郵政民営化法上の下限である3分の1超まで低下しています。

 一方、保有しているゆうちょ銀行やかんぽ生命の株式は将来的に完全処分を目指していますが、現在では、それぞれ60.2%、49.8%となっています。

 2023年3月期純利益は4,310億円で前期比14.1%減となりました。主要3社がそろって減益となっています。とりわけ、郵便・物流事業が不振だった日本郵便、保有契約の減少などが響いたかんぽ生命の減益幅が大きくなっています。

 一方、2024年3月期は2,400億円で44.3%減の見通しとしています。ゆうちょ銀行の持分割合が89%から60%に低下することが減益見通しの主因となりますが、デジタル化進展などで引き続き日本郵便の低迷は続く想定となっています。年間配当金は前期比横ばいの50円を計画しています。

 ゆうちょ銀行とかんぽ生命の現在の持分を合わせると約2.9兆円となるほか、賃貸不動産の時価も約7,500億円あります。さらに、出資しているアフラックや楽天の持分なども考慮すると、現在の同社の時価総額3.5兆円程度には割安感が非常に強いと言えるでしょう。

 目先、保有するゆうちょ銀行の株式追加売却は想定されますが、売却資金を自社株買いに充当すれば、EPS(一株当たり純利益)の十分な下支えになるでしょう。現在の配当水準は今後も継続する可能性が高いと判断されます。

2 コスモエネルギーホールディングス(5021・東証プライム)

 コスモ石油からの株式移転により、2015年10月に発足した持株会社です。燃料油の国内販売シェアは12%程度と推定されます。現有処理能力は1日当たり40万バレル程度で、千葉、堺、三重県四日市の3製油所で展開しています。

 石油精製・販売のほかに、石油化学、アブダビ首長国での石油開発事業などを行っています。また、再生エネルギー事業なども手掛け、陸上風力発電の国内シェアは第3位です。筆頭株主だったアブダビ政府系会社とは2022年に資本提携を解消しています。

 2023年3月期経常利益は1,645億円で前期比29.4%減となっています。原油価格の上昇によって石油開発事業は大幅増益となりましたが、製油所トラブルの影響やエネルギーコストの上昇を受けて石油事業が足を引っ張る形となっています。

 一方、年間配当金は前期比50円増の150円としています。

 2024年3月期経常利益は1,250億円で24.0%減の見通しです。一転して石油開発事業が原油価格下落の影響で減益を見込んでいます。石油事業は在庫評価益216億円一巡がマイナス要因となりますが、これを除いたベースでは、マージン改善や製油所トラブルの影響一巡で増益を見込んでいます。

 なお、年間配当金は前期比50円増の200円を計画しています。

 3月に発表している中期経営計画では、3カ年累計の総還元性向は、在庫影響を除いた純利益の60%以上としています。下限配当として200円も設定しており、石油業界の中ではトップクラスの還元姿勢と言えるでしょう。

 また、旧村上系ファンドとされるシティインデックスイレブンスが共同保有者分を合わせ議決権で約20%所有する大株主となっていることも思惑材料です。再生エネルギー事業子会社の上場などを提案しているもようです。

3 日本製鉄(5401・東証プライム)

 2012年に住友金属と合併して誕生した鉄鋼大手企業です。粗鋼生産は国内で4割強のシェアを占めるほか、世界でも第4位の位置づけとなっています。自動車用鋼板、高級シームレス鋼管、電磁鋼板など高級鋼板に強みを持っています。

 国内に6製鉄所を構えるほか、海外でも15カ国、52社の製造拠点があります。エネルギーロスを低減させる電磁鋼板や自動車の軽量化につながる超ハイテン鋼板など、カーボンニュートラル貢献製品に注力しています。

 2023年3月期は本業のもうけを示す事業利益は9,164億円で前期比2.3%減となっています。在庫評価差の影響が657億円程度マイナスに効いたことで、実力ベースでは440億円の増益となり、過去最高水準となっているようです。鋼材の出荷数量は減少しましたが、円安効果などによるマージン改善、コスト改善が下支えしました。年間配当金は前期比20円増の180円としています。

 一方、2024年3月期事業利益は6,500億円で29.1%減の見通しとしています。原材料価格高騰の反動による在庫評価損益の一段の悪化を見込んでおり、1,500億円のマイナス影響を想定しているようです。これによって、年間配当金も前期比40円減の140円を計画しています。

 2024年3月期は在庫評価損益を除いた実力ベースでは8,000億円以上(同ベースの前期は7,340億円)の事業利益を計画しています。業績の基本的な基調としては拡大方向と捉えることができます。

 また、2024年3月期の配当金140円は最低線とコメントしており、一段の減配の公算は低いと言えるでしょう。配当利回りの水準は今後も株価の下支えとなることが想定されます。足踏みが続いている中国の景気回復が本格化すれば、株価の上振れ要因につながると捉えたいところです。

4 石油資源開発(1662・東証プライム)

 原油や天然ガスなどの開発、採掘、生産、販売を行う資源開発会社です。現在、国内10カ所(北海道・秋田県・山形県・新潟県)の油ガス田で原油・天然ガスを生産しています。海外では5カ所でプロジェクトを遂行中、また、シンガポールを拠点としたLNG(液化天然ガス)の調達なども行っています。

 原油価格の影響度としては、原油1バレルの価格が1ドル下がるごとに3.5億円の純利益マイナス要因、為替の影響度としては、1ドルにつき1円の円高ドル安に動くごとに3.4億円の純利益マイナス要因となるようです。

 2023年3月期経常利益は831億円で前期比90.3%増となっています。原油価格上昇による国産原油の販売価格上昇、輸入LNG価格上昇に伴う国産天然ガスの販売価格上昇などが背景となったほか、前期に発生した一過性のコスト増要因剥落も寄与しました。

 連結配当性向導入に伴い、年間配当金は前期比320円増の370円としています。一方、2024年3月期経常利益は455億円で前期比45.3%減の見通しとしています。原油・天然ガス販売価格の下落がストレートに響くとみています。年間配当金も前期比170円減配の200円を計画しています。 

 2030年度までの中期計画では、現在主力のE&P分野(上流分野)とインフラ分野の利益ウエートを半々にする計画で、市況変動などに耐えうる事業構造への移行を目指す方針です。

 資本政策としては、配当性向30%を継続して投資をより重視する方針ですが、ネットキャッシュの水準が極めて豊富である中、東証のPBR1倍割れ改善要請もあり、一段の株主還元強化に迫られる可能性などもありそうです。

5 デンカ(4061・東証プライム)

 インフルエンザワクチンや新型コロナウイルスの検査試薬などを扱うライフイノベーション部門、リチウムイオンバッテリー向け導電助剤や放熱材料・基板、機能性フィルムなどを扱う電子・先端プロダクツ部門、機能性エラストマーやインフラ強靭(きょうじん)化に必要な特殊混和材などを扱うエラストマー・インフラ・ソーシャルソリューション部門、スチレン系機能樹脂や食品包装用シートなどを扱うポリマーソリューション部門を展開する化学会社です。

 中でも、クロロプレンゴムでは世界シェア40%と推定されています。

 2023年3月期営業利益は323億円で前期比19.4%減になりました。検査キットやワクチンなどの販売数量増、原燃料価格上昇に対応する価格改定効果などはありましたが、増産体制構築や販売体制強化による費用増、販売物流コストの上昇などが響きました。セメント事業撤退に伴う特別損失も発生し、年間配当金は前期比45円減配の100円としています。

 一方、2024年3月期営業利益330億円で2.1%増の見通しです。スマホ・TV・PC・家電向けに電材関連や機能樹脂の下期からの需要回復を見込むほか、クロロプレンゴムも自動車用途での需要回復を想定しています。年間配当金は前期比20円増の120円を計画しています。

 2月には米子会社が司法省から環境関連訴訟を提起されており、5月には樹脂製品の一部において品質不正問題が発覚したほか、さらに、6月には国内で配管破裂事故が発生しています。コンプライアンスに対する懸念を背景に株価は長期的な低迷状態にありますが、ここにきて割安感も台頭し、株価も底打ちの兆しが見られ始めています。

 同社が注目されるのは、クロロプレンゴムをはじめ、球状アルミナ、インフルエンザワクチン・診断キットなど、国内・世界でトップシェアの製品を数多く保有していることです。こうした状況下で、1倍を大きく割り込んでいるPBR水準には割安感が強いと言えます。