中国が「ゼロコロナ」策に戻ることはない

 冒頭の質問に対する、私の回答は以下の通りです。

「中国が、ゼロコロナ策に戻ることはない」

 中国政府の政策、政府や市場関係者との意見交換を経て、私なりに出した現段階における結論です。

 鐘氏は、前述の会議で、6月末までに週間の新規感染者数が6,500万人に上るとの見込みに対して、「予想の範囲内」という見解を示しています。鐘氏は「中国の新型コロナ感染拡大防止策はすでに、以前の感染予防型から、現在の重症化予防へと移行している。なぜなら、感染自体を防ぐことは困難だからだ」とも続けています。

 2020年初頭から2022年末まで、約3年間続いた「ゼロコロナ」というのは、文字通り「感染自体を防ぐこと」を目的とした、「感染予防型」の政策にほかなりません。それはもはや困難であり、国民が今現在中国国内で第2波として流行しているオミクロン変異株XBBに感染すること自体は問題視しない、言い換えれば、中国政府として、当時の「ゼロコロナ」策を復活させるような措置は取らないということです。

 そもそも、年末年始を跨いでの「ゼロコロナ」策の実質解除を受けて、中国政府は従来のように、無症状者を含めた新型コロナへの感染者数を統計することも、発表することもしていないですし、私の中国の知人たちが指摘するように「そもそもどこでどうPCR検査を受けるのかも定かではない」というのが、コロナフリーと化した中国社会の現状なのです。

 今年年初、感染を徹底的に封じようとする「ゼロコロナ」策から、感染していない人はいないというほど感染がまん延した「フルコロナ」状態へと大転換する中、中国では「陽康」という造語がはやりました。新型コロナに感染し、陽性となることで初めて健康になる、という中国人らしいユーモアというか、皮肉りでした。それに続いて、第2波が到来している現状下では「二陽」、すなわち二回目に感染する状況を表す造語が出回っています。

 鐘氏は「『二陽』の症状のほとんどは比較的軽いとされるが、少数、特に基礎疾患を持っている方の症状は重いようだ」とし、心臓病や神経系疾患、腎臓病などを患っている患者が「二陽」となれば、重症化して死に至るリスクを指摘しています。

 前述した「感染予防型」から「重症化予防」という方針転換にも反映されているように、昨今の中国政府のコロナ対策の対象は、基礎疾患を持った国民、特に高齢者に向けられており、医療資源などもそこに注力すると思われます。中国では現在、オミクロン変異株XBBへの感染を予防するためのワクチン開発が急ピッチで進められており、近いうちに2種の国産ワクチンを使用開始する見込みです。