先週の日経平均株価(225種)は19日(金)の終値が前週末比1,420円高の3万0,808円に到達し、バブル経済崩壊後の最高値を更新しました。1990年8月以来、約33年ぶりの高値水準となりました。

 先々週の12日(金)から6日連続で200円以上の上昇が続き、5月に入ってからの上昇値幅は1,951円、上昇率は6.8%に達しています。

 TOPIX(東証株価指数)も16日(火)に約33年ぶりのバブル後最高値を更新し、その後も19日(金)まで続伸しました。5月に入ってからの上昇率は日経平均には劣りますが、前月末比5.1%に達しています。

 先週の本記事では、日本株上昇に寄与していた2023年3月期決算発表が15日(月)にほぼ終わるため、材料出尽くしの利益確定売りでいったん下がるのではないかと予想していましたが、とんでもない間違いでした。

 この記録ずくめの上昇を支えているのは、4月以降、5月第2週までに、現物株と先物あわせて日本株を約4.3兆円近く買い越した外国人投資家以外にありません。

 現物株に関しては、5月第2週までの7週間累計で2兆8,842億円の買い越し。

 4月に来日して、大手商社5社株の買い増しを表明した米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏の宣伝効果もあって、外国人投資家が長期保有も見据えて、4月以降、日本株に大規模投資していることがわかります。

 外国為替市場の円相場は、15日(月)の東京市場の始値1ドル=135円台後半から19日(金)のニューヨーク市場の終値1ドル=137円台後半まで、約2円も円安が進んだことも追い風でした。

 一方、4月下旬以降、高金利の長期化や景気後退で不振が続いた米国株も、機関投資家が運用の指針にするS&P500種指数平均の19日(金)終値が前週末比1.6%上昇するなど、先週は3週間ぶりにプラスで終わりました。

 週明け22日(月)の東京株式市場の日経平均終値は、前週末比278円高の3万1,086 円でした。午前中の取引では利益確定の売りが優勢となる場面がありましたが、日本株の根強い先高観に支えられ、続伸しました。再びバブル崩壊後の最高値を更新しました。

先週:バブル後最高値更新!外国人買いで日本株急騰の全理由を検証!

 まずは4月以降、日本株がこれほど好調な理由を整理しましょう。

●4月9日に日本の中央銀行である日本銀行の新総裁に就任した植田和男氏が「粘り強く金融緩和を続けていく」と発言をするなど、予想以上に金融緩和に積極的なハト派だったこと。

●先ほども挙げた、日本株に強気な見解を示すバフェット氏の宣伝効果。

●東証が3月末にPBR(株価純資産倍率)が1倍を割り込み、株価が会社の解散価値より低い企業に異例の経営改善を要請したこと。

●東証の要請によって、PBR1倍割れ企業が相次いで自社株買いや増配など株主還元策を打ち出し、株価の上昇に努めていること。

●インバウンド(訪日外国人)の増加や新型コロナウイルス感染症(以下、コロナと略します)の収束による旅行、外食、買い物の盛り上がりで、国内消費が非常に堅調に推移していること。

●企業の業績も内需は値上げ浸透やコロナ明けの個人消費で活況。外需も国際物流網や半導体供給の正常化による販売好調もあって堅調なこと。

●欧米各国がインフレを抑え込むための利上げを続ける中で、日本だけがいまだ低金利政策を維持していることで、株高につながりやすい円安トレンドが続いていること。

などが挙げられます。

 さらに先週は、17日(水)発表された2023年1-3月期の物価変動を除く実質GDP(国内総生産)は年率換算で前期比1.6%増と3四半期ぶりのプラスになったことも好感されました。

 米国の2023年1-3月期の実質GDPは前期比年率1.1%増と2022年9-12月期(2.6%増)から伸びが大幅に鈍化しました。

 ユーロ圏の2023年1-3月期の成長率も前期比年率換算0.3%と低成長が続き、景気のいい日本株が消去法的に買われている面もありそうです。

 同日17日に発表された訪日外国人客数も、4月は韓国、台湾、米国を中心に194万9,100人が来日し、コロナ前(2019年4月)の3分の2の水準まで回復。

 コロナ前に全体の4分の1を占めていた中国本土からの観光客はまだ10万人程度と少ない中で、この回復ぶりです。

 18日(木)には、岸田文雄首相が欧米や韓国、台湾の半導体大手企業幹部と面会。約2兆円超とも報じられる日本への投資を呼びかけたことも好材料でした。

 この報道を受け、車載半導体メーカーのルネサスエレクトロニクス(6723)の19日終値が前週末比7.9%高となったように、半導体関連株が属する電気機器セクターが先週の業種別値上がり率トップになりました。

 19日(金)から21日(日)には、G7(先進7カ国)サミット(首脳会議)も広島市で開かれ、世界中の注目が日本に集まったことも株高の遠因といえるでしょう。

 閉幕日の21日(日)には、来日したウクライナのゼレンスキー大統領も討議に参加。ロシアの侵略に対して、西側諸国が結束して立ち向かうことを確認しました。

 一方、米国では、6月1日にも米国政府の債務が法律で定められた上限に達し、米国債の利払いなどが債務不履行(デフォルト)に陥るリスクのある債務上限問題がくすぶり続けています。

 16日(火)には、バイデン大統領が、対立する共和党のマッカーシー下院議長と会談。債務上限の引き上げに関する合意はなかったものの、「生産的で直接的な会談」だったという声明もあったことから、株式市場の警戒感は和らぎました。

 ただ、19日(金)の民主党、共和党の交渉担当者の協議は進展がないまま打ち切られ、債務上限問題は6月初旬のデフォルトぎりぎりまで紛糾しそうです。

 しかし、19日にはその後、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長がFRBの会合で、地方銀行危機などによる信用状況の引き締まりもあり、利上げをいったん停止することを示唆。

 米国株は下落したものの、大崩れはしませんでした。

今週:PBR革命でバブル越えも!?米国債務上限問題とFOMC議事録に注意

 今週は、さすがに、ここまでハイペースな上昇が続いたため、利益確定売りが出そうな時期にあるのは確かです。

 先週の売買動向では、日本株を丸ごと売買できるため外国人投資家の取引が多い先物市場の売買高が膨らんでいることも指摘されています。

 現物株への投資と違い、先物取引には期限があり、その多くは期限前に反対売買して決済されます。

 ただ、市場では、欧米に比べた日本経済の優位性が語られ、急騰を続ける日本株を保有していない「持たざるリスク」が話題にのぼるほどになっています。

 ここまでの大規模買いの勢いが急に衰える可能性は低く、たとえ株価が調整しても、米国など外部要因に変化がない限り、大きく急落することはないかもしれません。

 先週も、鹿島(1812)リクルートホールディングス(6098)が自社株買いを発表して株価が前週比13~15%も上昇するなど、今後も東証のPBR1倍割れ解消要請を受けて自社株買いや増配などを発表する企業が続出する期待感が相場のけん引役になるでしょう。

 日経平均の採用銘柄225社の平均PBRは19日(金)時点で 1.28倍とまだ低く、東証スタンダードの上場銘柄の平均PBRはいまだ0.95倍です。

 PBRは「株価÷純資産」で計算するので、純資産が変わらない場合、PBRを10%上げるためには株価が10%上がる必要があります。

 逆に、純資産のうち分配可能な利益剰余金などを株主配当金として、純資産の10%に当たる額を外部の株主に還元すれば、株価が変わらない場合でもPBRは約11%上昇します。

 東証改革に当たった日本取引所グループの清田瞭前CEO(最高経営責任者)は退任前の3月の会見で「(PBR1倍割れについて)日本の50%というのは高過ぎる。グローバルに見てそん色ないように企業経営者にPBR革命に取り組んでほしい」と強調しました。いずれにしてもPRB1倍割れ解消に向けた動きは、日本株にとって「革命」と呼んでもいいほどのインパクトがあります。

 そう簡単ではないでしょうが、1989年年末につけた日経平均の最高値3万8,915円87銭越えをはやす声もそろそろ聞こえてきそうです。

 ただ先週の19日(金)、日経平均は前日比234円高と上昇しているものの、値下がり銘柄は945銘柄。値上がり812銘柄を上回っています。

 これは一部の銘柄だけに対する買いで株価指数だけが上がっている状況です。

 米国の債務上限問題など、外部環境の悪化も心配です。米国のメディアなどによると、バイデン大統領は、G7広島サミットからの帰国の機上でマッカーシー議長と電話協議し、22日に直接、再会談する見通しになったとのことです。

 バイデン氏は、これまで提案していた3兆ドルの赤字縮小に加え、1兆ドル以上の支出削減も盛り込んだ妥協案を提案していますが、共和党との間で低所得者向けの医療保険制度や食料支援を巡って、意見の隔たりが大きいようです。

 今週は23日(火)に、米国の5月製造業・サービス部門PMI(購買担当者景気指数)が発表になります。米国の景気後退を占う指標として注目されそうです。

 24日(水)には、5月2~3日に0.25%の利上げを決めたFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録も公開されます。

 利上げ打ち止めが優勢であることが判明すれば、株価にとってポジティブでしょう。

 一方、少し考えにくいですが、6月13~14日の次回FOMCで再び0.25%の利上げを求める声が根強かった場合、株価が急落してもおかしくありません。

 26日(金)には、米国の4月個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)も発表になります。

 FRBがインフレ指標として最重要視する、価格変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアPCEデフレーターは前年同月比4.6%増と高止まりしたままです。

 今週も日本株の力強い上昇が続きそうです。22日の日経平均終値は3万1,086円台となりました。8営業日連続の上昇で、バブル崩壊後の最高値を再び更新しました。ただ急上昇が続いただけに、どこかで利益確定の売りが出ることにも警戒感が必要でしょう。