※「ハッサクのなるほど為替超入門」は毎週水曜日の連載ですが、今週に限り火曜日の公開とさせていただきます。

米追加利上げ観測浮上で、先週1ドル135円後半に

 先週発表された米国の4月CPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)は相次いで予想より弱い結果となりました。10日公表の4月CPIは前年同月比4.9%上昇と3月(5.0%)から伸びが鈍化し、予想も下回りました。

 米インフレ減速期待が高まり、長期金利の低下とともにドル相場は、1ドル=135円台前半から134円台前半へと円高になりました。11日公表の4月PPIも2.3%上昇と3月(2.7%)から伸び幅が縮小し、予想も下回ったことから、ドル相場は一時134円を割れました。

 また、ミシガン大学が12日に発表した5月の消費者信頼感指数が57.7となりました。昨年11月以来6カ月ぶりの低水準となり、4月の63.5から低下しました。米債務上限問題を背景に消費者マインドの弱まりが確認されました。

 しかし、5~10年先のインフレ期待が3.2%と4月時点の3.0%から上昇しました。2011年3月以来の高水準となったことから、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)による追加利上げの可能性が高まり、ドル買いが強まりました。ドル相場は1ドル=135円台後半になり、円安が進みました。

為替市場は債務上限問題を軽視、6月の米利上げが焦点に

 米国では、バイデン大統領と野党・共和党間で債務上限問題の協議が進展せず、米国がデフォルト(債務不履行)に陥るリスクが増す中でも、為替市場はこの問題を無視しているような動きをしています。債務上限とは、米連邦政府が国債発行などで借金できる債務残高の枠のことです。

 イエレン財務長官は上限を引き上げるか一時停止しなければ、米政府の資金繰りが6月1日にも行き詰まると警告しています。しかし、市場ではこの「Xデー」が後ろにずれ込むことや、3カ月など一定期間通常の国債発行を認める暫定延長などを織り込んだ動きとなっています。

 バイデン氏は10日に、19~21日のG7広島サミット(先進7カ国首脳会合)について訪日せずオンラインで参加する可能性に言及しました。しかし、12日にはサミット参加のために訪日すると発表しました。協議の時間的余裕ができた、あるいは方向が見えたということかもしれません。米国が6月初めにもデフォルト(債務不履行)になるのではないかとの切迫感があれば、もっと金利は上昇しているはずです。

 いずれにしろ米長期金利の動きを見ても米国がデフォルトに陥ることはないだろうとの確信犯的な動きを示していることから、ドル相場は債務上限問題よりも6月の利上げがあるかないかに焦点が移り、ドル高円安が進んでいます。米国の金融政策を決めるFOMC(米連邦公開市場委員会)の6月会合に向けて、インフレと先行きの利上げ動向が焦点になってきました。

 先週のドル相場は1ドル=133円台の底堅さが示され、今週は再度137円台への上値の重たさを確認する週となりそうです。しかし、今後発表される指標によっては米利上げに対する市場の見方が変わる可能性もあるため注意が必要です。

日本では17日の1-3月期GDP、19日の4月CPIの発表に注目

 今週は日本の材料に注目です。17日には日本1-3月期GDP(国内総生産)、19日には4月CPIが発表されます。弱めのGDPによって金融緩和継続観測が強まり円安に拍車がかかるのか、前月から加速するCPIによって逆の動きになるのかどうか注目です。19日からのG7広島サミットは注目イベントですが、為替に影響を及ぼす材料にはならないかもしれません。

米債務上限問題の経過

 米国債務上限問題はいったん材料として後退しましたが、地方銀行の経営不安問題と同様にくすぶり続けている点は留意しておく必要があります。米国の債務上限問題のこれまでの経過をまとめておきますので、参考にしてください。

5月1日   イエレン米財務長官は、財務省が連邦債務を上限未満に維持するための特別会計措置を6月1日にも使い切る可能性があると上下両院の共和・民主両党リーダー4人に書簡を送付→市場では6月1日が「Xデー」と認識される
5月9日 バイデン米大統領と共和党のマッカーシー下院議長ら議会指導部との協議は物別れ
次回は12日に協議予定であったが延期
5月10日   バイデン氏、G7広島サミットについて訪日しない可能性に言及
5月12日 米議会予算局は、「債務上限が変更されない場合、6月最初の2週間のどこかの時点で政府が全ての債務を返済できなくなる重大なリスクがある」と警告する一方、米財務省が6月に十分な歳入を確保できれば、米国は7月までデフォルトを回避できると最新の報告書で発表
5月12日 バイデン氏、広島サミット参加の訪日を発表
16日にマッカーシー氏と再会談の見通しと述べる
5月16日 バイデン大氏、マッカーシー氏と再会談の予定
5月17日 バイデン氏、G7広島サミット(19~21日)参加のため出発
5月18日 日米首脳会談

債務不履行長期化なら米株価45%急落の試算も

 米大統領経済諮問委員会は5月3日、米国のデフォルトが長期化した場合の試算を示しています。7-9月期に米国の株価は45%急落し、800万人を超える雇用が失われ、実質GDPも年率換算で前期比6.1%落ち込むとのことです。

 超党派の「責任ある連邦予算委員会」によると、一時停止を含めた上限の見直しは第2次世界大戦後で100回を超えているとのことです。

 また、債務上限の引き上げを巡る与野党の対立は過去にもありましたが、米国が実際にデフォルトに陥ったケースは一度もありません。従って、CEAの試算のような事態は起こらないだろうとバイデン政権も市場も楽観的になっているようです。

 バイデン政権と野党との駆け引きは、時間的余裕ができたかもしれませんが先延ばしになっただけで「Xデー」ぎりぎりまで続きそうです。いつ、どのような形で市場に影響があるかどうか分かりませんが、事態が決着するまでは半身の構えで臨んだ方が良さそうです。