株主価値向上へ一段の還元策も期待できる高配当利回り銘柄

 今回は、PBR水準の低い高配当利回り銘柄をスクリーニングしています。プライム市場からスタンダード市場への移行を選択する銘柄も多いとみられることから、企業の価値向上策を期待するにしても、中小型銘柄より大型株の方に、安心感がより強いと考えます。

 配当利回りは4.0%以上、PBRは0.7倍未満、時価総額1,000億円以上の銘柄を楽天証券のスーパースクリーナーで選出しました。

 その中で、高配当水準の持続性を考慮して、2023年3月期の純損益が赤字予想の銘柄、配当性向が100%以上の銘柄、2024年3月期に大幅な減配が予想される銘柄(会社四季報予想など参考)などは除外しています。また、銘柄数の多い金融関連業種は除いたほか、会社計画の配当水準とアナリストによるコンセンサス配当水準が明らかに隔たりがある銘柄なども除いています。

(表)低PBRの高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当
利回り(%)
4月17日
終値(円)
時価総額
(億円)
PBR (倍)
5411 JFEHD 4.97 1,641.0 10,082 0.48
5481 山陽特殊製鋼 4.77 2,350.0 1,280 0.65
5020 ENEOSHD 4.62 475.8 14,430 0.53
7259 アイシン 4.49 3,655.0 10,770 0.56
5019 出光興産 4.20 2,854.0 8,501 0.60
5471 大同特殊鋼 4.02 5,180.0 2,250 0.67
6371 椿本チエイン 4.01 3,240.0 1,240 0.58

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが4.0%以上(4月17日終値:コンセンサス予想)
  2. 時価総額が1,000億円以上
  3. PBRが0.7倍未満
  4. 2023年3月期の純損益が黒字予想
  5. 3月期本決算
  6. 金融関連業種、2023年3月期配当性向100%以上、2023年3月期会社計画配当利回りが3.0%以下、2024年3月期大幅減配見込み企業などを除く

厳選・高配当銘柄5銘柄(JFEHD、山陽特殊製鋼、ENEOSHD、アイシン、椿本チエイン)

1 JFEHD(5411・東証プライム)

 2002年9月に川崎製鉄とNKKが経営統合して発足した持株会社です。粗鋼生産で国内第2位のJFEスチールを筆頭に、JFEエンジニアリング、JFE商事などを傘下に抱えます。京浜、千葉、倉敷、岡山の4製鉄所を主力拠点としています。

 国内トップクラスの建造能力を持つジャパンマリンユナイテッドは持分法適用会社です。電動車のモーターに使用される高級電磁鋼板の供給体制拡大などに注力しています。

 2023年3月期第3四半期累計事業利益は2,310億円で前年同期比28.4%減となっています。国内の住宅・土木建築分野での需要先送りや海外需要・市況の軟調継続を受けて、主力の鉄鋼事業の利益が減少しています。

 第3四半期決算時に通期見通しを下方修正、事業利益は従来予想の2,550億円から2,350億円に引き下げています。粗鋼生産量の下振れなどが下方修正の主因となります。2023年3月期年間配当金は80円を計画、減益見通しに合わせて前期比60円の減配となります。

 2023年3月期は減益率に合わせた減配予想となっており、配当性向30%を目安としている状況が確認されています。2024年3月期は鉄鋼事業のマージン改善などが見込まれますが、在庫評価損益の悪化が想定されることで、配当水準の大幅な引き上げは見込みにくいでしょう。

 ただし、中期計画では2025年3月期純利益を2,200億円(2023年3月期計画1,500億円)と見込んでおり、中期的な配当水準の回復は想定されます。最大手の日本製鉄との比較におけるPBR水準(日本製鉄0.69倍、JFEHD0.44倍)是正に向けた施策などにも注目できます。

2 山陽特殊製鋼(5481・東証プライム)

 日本製鉄の子会社である特殊鋼メーカーです。主力の軸受鋼は主にベアリングの素材として使用されており、この分野では日本と欧州でシェアトップと推定、インドでも一貫生産を展開しています。2019年にはスウェーデンのOvako AB社を完全子会社化しています。

 介在物が少ない高清浄度鋼の生産では世界トップクラスとされているほか、連続鋳造設備での連続操業の世界記録も持っているようです。

 2023年3月期第3四半期累計営業利益は204億円で前年同期比41.8%増となっています。販売価格の上昇などによるマージンの改善で原燃料価格上昇の影響をカバー、一過性の要素を含むようですが、Ovakoの収益改善も寄与しました。

 会社計画では2023年3月期通期では220億円で前期比2.7%増を予想、第3四半期決算時に従来予想の196億円から上方修正しています。年間配当金も同時に85円から90円にまで引き上げ、2022年3月期並みの水準を見込んでいます。

 会社側では、配当方針として、のれん償却費を除く1株当たり当期純利益に配当性向 30%程度を乗じた金額を配当額とするとしています。2023年3月期の業績計画は第3四半期までの状況から保守的であるとみられ、業績上振れに伴う増配の余地があると考えます。

 2024年3月期は、子会社の一過性要因がなくなることで営業減益となる可能性もありますが、実質ベースでは堅調な推移が想定されるため、配当水準が大きく引き下がることはないでしょう。親会社の日本製鉄とともに、低PBR水準是正に向けグループ再編なども含めた取り組みが注目されます。