欧米金融不安は一巡、インフレピークアウト期待で高値圏に切り返す

 直近1カ月(3月10日~4月17日)の東京株式市場の日経平均株価(225種)は終値ベースで1.4%の上昇となりました。期間中前半は売りが優勢となり、3月16日には一時2万7,010円まで下落しました。これは1月20日以来の安値水準となります。

 ただ、その後は切り返す動きとなり、4月17日には2万8,599円まで上昇、3月9日の高値2万8,734円が視野に入る状況となっています(4月18日に2万8,658円を付け、年初来高値を更新しました)。なお、同期間(3月1日~4月14日)のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は6.2%の上昇となっています。

 期間中前半の大幅安(3月9日終値から5営業日安値まで)の背景は、シリコンバレー銀行をはじめとする米地方銀行の相次ぐ経営破綻、それに伴う金融不安の高まりでした。この流れは欧州にも飛び火し、スイス金融大手クレディ・スイスの経営不安も高まる状況となりました。

 ただ、スイス金融最大手UBSによるクレディ・スイスの救済買収が合意されたこと、米政策当局による銀行支援策への期待などから、意外と早いタイミングで、金融不安への懸念は後退する状況となっています。また、金融不安の台頭が、欧米の金融政策のハト派転換につながるとの期待も高まったようです。

 3月末にかけては、配当権利落ち分の先物再投資への買いなど需給面が支援となりました。市場では1兆円超の規模の買い需要が発生したと推測されています。4月に入ると、米経済指標の悪化による世界的な景気減速懸念が台頭して、売り材料視される局面がありました。

 とりわけ、3月のISM(米サプライ管理協会)製造業景気指数は2020年5月以来の低水準にまで低下する格好となっています。その後は、米国のCPI(消費者物価指数)やPPI(卸売物価指数)が相次いで市場予想を下振れたことで、インフレ懸念の後退が切り返しの手掛かりとなっています。

 この期間の物色の方向性としては、米10年債利回りの低下に伴い、中小型のグロース株が上昇しました。マネーフォワード(3994)SHIFT(3697)ラクス(3923)Sansan(4443)、JMDC(4483)など関連の代表銘柄がそろって15%以上の上昇となっています。

 ほか、経済活動の一段の正常化による業績拡大期待で、西武ホールディングス(HD)(9024)東武鉄道(9001)などの電鉄株、オリエンタルランド(4661)なども堅調な動きとなりました。

 三井ハイテック(6966)ファーストリテイリング(9983)などは決算発表が買い材料となっています。

 半面、横浜銀行と東日本銀行を傘下に置くコンコルディア・フィナンシャルグループ(7186)、福岡銀行や熊本銀行、十八親和銀行の持ち株会社ふくおかフィナンシャルグループ(8354)りそなホールディングス(8308)などの銀行株、T&Dホールディングス(8795)かんぽ生命(7181)第一生命ホールディングス(8750)などの保険株が10%以上の下落となっています。海外金融不安の高まり、それに伴う米長期金利の低下が売り材料とされました。

 また、鉄鋼大手JFEホールディングス(HD)(5411)など高配当利回り銘柄の一角が、配当権利落ちの影響で軟調となりました。なお、期間中は小売企業の決算発表が本格化していますが、総じて堅調な収益回復を見込む中で、株価の反応はまちまちでした。

日米金融政策の行方や本格化する2023年3月期決算発表に注目

 当面の注目イベントとしては、4月27~28日の日銀金融政策決定会合や、5月2日~3日の米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)といった日米の金融政策会合、2023年3月期の決算発表などが挙げられます。

 日銀金融政策決定会合は植田和男総裁が就任して新体制初の会合ということで関心を集めていますが、今回はイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)も含めて、政策変更は行われないものとみられます。初会合で引き締めに動くとなるとタカ派との印象が強まりやすいと考えられるため、今回は市場コンセンサスに沿ったものとなりそうです。

 一方、FOMCの5月会合では0.25%の追加利上げが決定されるとみられます。着目すべきなのは、昨年3月から続いた利上げは今回で打ち止めになるとの見方が市場では足元、強まっていることです。実際にFOMCはこうした見方を確認させる結果となる公算が大きく、短期的には、グロース(成長)株の追い風となってくるでしょう。

 ただ、利上げが終わるからといって、その後、利下げ転換が市場の期待ほど早期に実現されるのかどうか分かりません。そのため、グロース株の好材料になっても、すぐに出尽くし感が強まる可能性があります。

 2023年3月期の決算発表では、今期の業績予想(ガイダンス)が脚光を浴びます。3月の日銀短観による2023年度全規模・全産業ベースの経常利益は前期比2.6%の減少見通しとなっています。日銀短観には米地銀の破綻の影響などは織り込まれておらず、各企業の実際の見通しはもう少し慎重になる可能性もあります。

 そもそも、近年では配当計画に配当性向(当期純利益に占める年間の配当金の割合)をめどとする企業が多くなっています。一般的に株式市場では、業績下方修正よりも配当計画の下方修正にネガティブインパクトが強まりやすいため、期初の段階で、配当金のもととなる収益予想は保守的になりやすいでしょう。

 今回の決算発表では、例年以上に株主還元策に関心が高まる可能性はあるでしょう。東京証券取引所が、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に対して、改善するための具体策を公表するよう要請しています。

 PBRは、会社が解散した場合に残る純資産が時価総額の何倍であるかを表す指標です。1倍を下回ることは、理論上は事業活動を続けるよりも解散した方が投資家はより多くの資金を得られます。

 PBR向上のためには、増配や自社株買いの実施などの株主還元策発表、あるいは高い数値目標を掲げる中期経営計画の発表などが考えられます。増配に関しては、インパクトを強めるために大幅増配の発表が必要となるでしょう。高配当利回り銘柄においても、PBR水準の低い銘柄がより注目されやすくなると見込まれます。

 一方、最上位のプライム市場から、上場廃止を回避するため上場基準が緩いスタンダード市場に移行する銘柄が増えつつあります。東京証券取引所では、上場維持基準の未達企業に対して暫定的に上場を認めている経過措置を2025年3月で終了することを決定しており、2023年4月1日~9月29日は審査なしでスタンダード市場に移行できる機会を設けているためです。

 株価に短期的なネガティブインパクトはありますが、今回の決算で移行を表明する企業も多くなってくるでしょう。

株主価値向上へ一段の還元策も期待できる高配当利回り銘柄

 今回は、PBR水準の低い高配当利回り銘柄をスクリーニングしています。プライム市場からスタンダード市場への移行を選択する銘柄も多いとみられることから、企業の価値向上策を期待するにしても、中小型銘柄より大型株の方に、安心感がより強いと考えます。

 配当利回りは4.0%以上、PBRは0.7倍未満、時価総額1,000億円以上の銘柄を楽天証券のスーパースクリーナーで選出しました。

 その中で、高配当水準の持続性を考慮して、2023年3月期の純損益が赤字予想の銘柄、配当性向が100%以上の銘柄、2024年3月期に大幅な減配が予想される銘柄(会社四季報予想など参考)などは除外しています。また、銘柄数の多い金融関連業種は除いたほか、会社計画の配当水準とアナリストによるコンセンサス配当水準が明らかに隔たりがある銘柄なども除いています。

(表)低PBRの高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当
利回り(%)
4月17日
終値(円)
時価総額
(億円)
PBR (倍)
5411 JFEHD 4.97 1,641.0 10,082 0.48
5481 山陽特殊製鋼 4.77 2,350.0 1,280 0.65
5020 ENEOSHD 4.62 475.8 14,430 0.53
7259 アイシン 4.49 3,655.0 10,770 0.56
5019 出光興産 4.20 2,854.0 8,501 0.60
5471 大同特殊鋼 4.02 5,180.0 2,250 0.67
6371 椿本チエイン 4.01 3,240.0 1,240 0.58

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが4.0%以上(4月17日終値:コンセンサス予想)
  2. 時価総額が1,000億円以上
  3. PBRが0.7倍未満
  4. 2023年3月期の純損益が黒字予想
  5. 3月期本決算
  6. 金融関連業種、2023年3月期配当性向100%以上、2023年3月期会社計画配当利回りが3.0%以下、2024年3月期大幅減配見込み企業などを除く

厳選・高配当銘柄5銘柄(JFEHD、山陽特殊製鋼、ENEOSHD、アイシン、椿本チエイン)

1 JFEHD(5411・東証プライム)

 2002年9月に川崎製鉄とNKKが経営統合して発足した持株会社です。粗鋼生産で国内第2位のJFEスチールを筆頭に、JFEエンジニアリング、JFE商事などを傘下に抱えます。京浜、千葉、倉敷、岡山の4製鉄所を主力拠点としています。

 国内トップクラスの建造能力を持つジャパンマリンユナイテッドは持分法適用会社です。電動車のモーターに使用される高級電磁鋼板の供給体制拡大などに注力しています。

 2023年3月期第3四半期累計事業利益は2,310億円で前年同期比28.4%減となっています。国内の住宅・土木建築分野での需要先送りや海外需要・市況の軟調継続を受けて、主力の鉄鋼事業の利益が減少しています。

 第3四半期決算時に通期見通しを下方修正、事業利益は従来予想の2,550億円から2,350億円に引き下げています。粗鋼生産量の下振れなどが下方修正の主因となります。2023年3月期年間配当金は80円を計画、減益見通しに合わせて前期比60円の減配となります。

 2023年3月期は減益率に合わせた減配予想となっており、配当性向30%を目安としている状況が確認されています。2024年3月期は鉄鋼事業のマージン改善などが見込まれますが、在庫評価損益の悪化が想定されることで、配当水準の大幅な引き上げは見込みにくいでしょう。

 ただし、中期計画では2025年3月期純利益を2,200億円(2023年3月期計画1,500億円)と見込んでおり、中期的な配当水準の回復は想定されます。最大手の日本製鉄との比較におけるPBR水準(日本製鉄0.69倍、JFEHD0.44倍)是正に向けた施策などにも注目できます。

2 山陽特殊製鋼(5481・東証プライム)

 日本製鉄の子会社である特殊鋼メーカーです。主力の軸受鋼は主にベアリングの素材として使用されており、この分野では日本と欧州でシェアトップと推定、インドでも一貫生産を展開しています。2019年にはスウェーデンのOvako AB社を完全子会社化しています。

 介在物が少ない高清浄度鋼の生産では世界トップクラスとされているほか、連続鋳造設備での連続操業の世界記録も持っているようです。

 2023年3月期第3四半期累計営業利益は204億円で前年同期比41.8%増となっています。販売価格の上昇などによるマージンの改善で原燃料価格上昇の影響をカバー、一過性の要素を含むようですが、Ovakoの収益改善も寄与しました。

 会社計画では2023年3月期通期では220億円で前期比2.7%増を予想、第3四半期決算時に従来予想の196億円から上方修正しています。年間配当金も同時に85円から90円にまで引き上げ、2022年3月期並みの水準を見込んでいます。

 会社側では、配当方針として、のれん償却費を除く1株当たり当期純利益に配当性向 30%程度を乗じた金額を配当額とするとしています。2023年3月期の業績計画は第3四半期までの状況から保守的であるとみられ、業績上振れに伴う増配の余地があると考えます。

 2024年3月期は、子会社の一過性要因がなくなることで営業減益となる可能性もありますが、実質ベースでは堅調な推移が想定されるため、配当水準が大きく引き下がることはないでしょう。親会社の日本製鉄とともに、低PBR水準是正に向けグループ再編なども含めた取り組みが注目されます。

3 ENEOSホールディングス(5020・東証プライム)

 石油元売りの国内トップ企業で、国内シェアは約5割となっています。また、世界9カ国で石油や天然ガスの探鉱・開発・生産を展開しているほか、銅(鉱山権益量年間約20万トン)などの金属事業も手掛けています。

 原油相場の水準によって在庫の評価損益の変動が大きく、株価は原油相場との連動性が強い傾向があります。配当利回り水準が高いだけでなく、PER(株価収益率)やPBRでみても株価の割安感が強いといえる銘柄です。

 2023年3月期第3四半期累計営業利益は2,497億円で前年同期比52.9%減となっています。油価下落によるマージンの悪化などエネルギー事業が大幅減益となったほか、在庫評価益の減少も1,784億円影響しました。

 第3四半期決算発表時には通期予想を下方修正、営業利益は5,600億円から前期比59.3%減の3,200億円に引き下げています。2,400億円減額のうち、1,200億円は在庫の影響によるものです。なお、年間配当金は前期比横ばいの22円を引き続き計画しています。

 2022年度を最終年度とする中期計画では、還元方針として、配当は年間22円を下回らない水準とすること、3カ年トータルでの総還元性向は在庫影響を除いた当期利益の50%以上とすることとしています。

 2023年度からスタートする新中計において、還元方針がどのように変化するのか注目されるところです。現状のコンセンサスでは、当面は22円配当が据え置かれるとの見方が強いようです。なお、中長期で期待される事業分野としては「水素」が挙げられるでしょう。

4 アイシン(7259・東証プライム)

 トヨタ自動車系列の自動車部品大手企業です。トランスミッションやエンジン周り部品などのパワートレイン領域、ブレーキやステアリングなどの走行安全領域、ドアやシートなど車体領域、カーナビやセンサーなど情報・電子に至るまで幅広く扱っています。

 海外開発拠点は21社、先端研究機関は国内外で8拠点あります。2019年には、電動化の普及に向けた駆動モジュール開発・販売へ向けデンソーと合弁会社を設立しています。2021年4月にアイシン精機とアイシン・エィ・ダブリュが合併しています。

 2023年3月期第3四半期累計営業利益は270億円で前年同期比80.5%減となっています。自動車生産台数の減少に加えて、原材料価格や輸送費の高騰などが響いています。第3四半期決算時には通期予想を下方修正、営業利益は従来の1,900億円から前期比50.6%減の900億円に引き下げています。ここまでの販売状況を反映したものとみられます。

 年間配当金は、上半期末70円に対して期末は未定としています。市場コンセンサスでは160円(期末90円)程度とみられているようです。

 会社側では連結配当性向30%レベルを目安としているようです。2023年3月期は同水準を上回る可能性もありますが、2024年3月期は業績回復が見込めるため、今後の減配リスクなどは小さいでしょう。自動車関連業界に関しては、生産の正常化に伴って2024年3月期の業績安心感が相対的に強いと判断され、買い安心感は強いと言えます。

 今後、電気自動車(EV)での活躍期待が高まるに従い、デンソー(PBR1.3倍)とのPBR格差も縮小していく余地があるでしょう。EV 向けにモーターやギアなど部品をひとまとめにしたコア部品「e-Axle」やガソリン車の燃費に当たる電力消費率を高められる「回生協調ブレーキ」などといった電動車関連製品の新規拡販進展に注目したいところです。

5 椿本チエイン(6371・東証プライム)

 産業用スチールチェーンと自動車エンジン用タイミングチェーンで世界シェアトップとなっています。シェアは前者で15%、後者で37%程度とみられています。世界最小、最大チェーンを扱っているほか、引っ張り強さ世界一のチェーンなど、同分野では高い技術力を誇っています。

 チェーンのほか、搬送・保管システムを扱うマテハン事業も手掛けています。電気自動車が持つ大容量バッテリーと、建物や電力網を、双方向につなぐV2X対応充放電装置なども、新規ビジネスとして扱っています。

 2023年3月期第3四半期累計営業利益は137億円で前年同期比6.0%増となっています。産業用、自動車用チェーンの販売が伸びましたが、エネルギーや原材料価格の上昇が響いたほか、マテハン事業における採算悪化や先行投資負担も影響しました。

 第3四半期決算発表時に通期予想は下方修正、営業利益は200億円から前期比1.9%減の175億円に下方修正しています。マテハン事業の下方修正幅が大きくなっています。一方、年間配当金は前期比10円増の130円計画を据え置いています。

 株主還元として配当性向30%を基準とするとしています。2024年3月期は、とりわけ自動車関連分野の拡大が期待できることで、業績の伸長、それに伴う増配の可能性もあるでしょう。

 自動車の電動化加速により、自動車用チェーン事業の先行きが懸念されるため、PBRは0.6倍台と低位に放置されています。電動化に伴う新規分野での新製品創出、拡販などが進めば、割安水準の是正につながっていくものと考えられます。