政府による無謀な紙幣印刷のツケを払うのは一般市民

 クレディ・スイスとUBSグループの緊急合併により、サウジアラビア最大の銀行サウジ・ナショナル・バンク(SNB)が大打撃を受けた。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は昨年、原油高ブームのさなか、SNBに対してクレディ・スイスに15億ドル(約1,970億円)投資するよう指示したが、今回、その投資がほぼ全損になったという。

 3月22日のウォール・ストリート・ジャーナルの記事「サウジ最大銀行、クレディ・スイス投資で大打撃」によると、今回発生した巨額損失は、湾岸諸国が2007~2008年の世界金融危機で、欧米の金融機関とヘッジファンドへの投資で大きな痛手を負った記憶をよみがえらせると指摘している。

 独立系シンクタンクの米外交問題評議会(CFR)が2009年にまとめた報告書によると、湾岸協力会議(GCC)加盟国の投資ポートフォリオに含まれる外国資産の価値は2008年に1,000億ドル減少した。

 サウジだけではなく、カタールの政府系ファンドも大きな損失を被っており、欧米における銀行破綻の余波がペルシャ湾岸諸国に損失をもたらしている。中東勢は米国のクレディ・スイスに対する対応をみて、グローバルサウスが台頭する流れの中で、今後は米国とさらに距離を置くかもしれない。

米商業銀行の借り入れ資金

出所:セントルイス連銀

 銀行システムは信頼によって成り立っている。そのため、一度信頼が損なわれると、銀行のバランスシートは崩れ、預金者はシステム全体に大きな穴(ブラックホール)があることに気づき始める。米商業銀行による資金の借り入れが再び大幅に拡大している。金融機関の問題はこれからが本番であろう。金融機関の統廃合が進みそうだ。

 今回の問題が、米国のいくつかの小さな銀行とクレディ・スイスだけにとどまるのだろうか。預金者が次の銀行からまた次の銀行へと追い寄せるため、これで危機が終わったと思うのは間違いだろう。クレディ・スイスの破綻は、スイスの金融システムを揺るがしただけではなく、世界的に深刻な影響と米国離れを促す可能性がある。

 預金者は米国のFDIC(連邦預金保険公社)や他の国の同様の機関が彼らの預金を救ってくれると信じているかもしれないが、これらの組織はいずれも大規模な資本不足に陥っており、最終的に介入するのは各国の政府になる。政府にもお金はない。

 あるのは莫大(ばくだい)な借金だけである。政府は必要ならば通貨を印刷することはできるが、この紙幣印刷の最終的な負担を背負うことになるのは一般市民だ。

膨れあがる世界の負債

出所:ゼロヘッジ

 1971年のニクソンショックの時代、世界の債務は4兆ドルだった。その後、ゴールドの裏付けが必要なくなり、無制限にお金を刷ることができるようになった。こうして、2000年までに負債は25倍の100兆ドルになり、金融危機が始まった2006年には、世界の債務は120兆ドルに達していた。2021年には、1971年の75倍の300兆ドルにまで膨れ上がっている。

 これは明らかにインフレを引き起こし、その後、崩壊をもたらすだろう。センセーショナルに聞こえるかもしれないが、われわれが目にしているのは「歴史上最大の信用バブル」の終わりかもしれない。残念なことに、腐敗し破綻した金融システムは浄化の時期を迎える必要があり、世界はそれを経験することになろう。

 腐敗し、負債がはびこる現在のシステムが崩壊するまでは、健全な成長と健全な価値観は生まれない。その移行は、悲しいかな、ほとんどの人にとって多くの苦しみを伴う劇的なものになるだろう。