インフレと金融不安…中銀はなにもできない

 FRB(米連邦準備制度理事会)の政策はこの繰り返しである。

連邦準備制度危機解決チャート

出所:Wall Street Silver

 しかし、米国は数十年ぶりのインフレによって、アングロサクソン金融システムを崩壊させることなく引き返すことは不可能なところまで追い込まれている。

 もちろん、政府機関や中央銀行による操作は、常に善意から始まるものだ。彼らは銀行を「救い」、市場を極端な結果や暴落から「救おう」としているのである。何かを救おうとするこの欲求は、銀行の破綻や市場の暴落が、事前の行き過ぎや機能不全を一掃するために必要かつ健全な場合があるという事実を無視している。

 暴落は、腐敗を一掃し、損失をあるべき場所に置き、きれいなバランスシートと慎重さの強い教訓でシステムをやり直すことを可能にするのである」(ジム・リッカーズ)

 バイデン米大統領は3月24日、「さらに米銀行が破綻した場合、連邦預金保険が1口座当たり25万ドルという保護の上限を超えて適用される可能性がある」と述べた。おそらく、さらに何行か破綻するのだろう。イエレン財務長官は、銀行危機が爆発する中、金曜日に緊急金融安定化会議を招集した。

 マイケル・ハートネットは、「資本市場は、当局がパニックを始めるとパニックを止める」と述べているが、今がその小休止であろう。

 現在の市場予想は以下のようになっている。

2023年5月3日:一時停止
2023年6月14日:25bps引き下げ、4.50~4.75%に。
2023年7月26日:25bps引き下げ、4.25~4.50%に。
2023年9月20日:25bps引き下げ、4.00~4.25%に。
2023年11月1日:一時停止。 
2023年12月13日:3.75~4.00%に25bps引き下げ。

FFレートに対する市場の期待値

出所:クリエーティブプランニング

 パウエルFRB議長は年内にあと一回の利上げを行うと述べている。にもかかわらず、市場はそれを無視しているようだ。早期利下げシナリオが実現するなら、米ドルは買えないし、株価急落の可能性が高まる。FRBの利下げは、株価急落のトリガーである可能性が高い。

ドルインデックス先物(日足)

(マーケットナビゲーターの売買シグナル ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

歴史は「ピボット(利下げ)」が本当の暴落の引き金になることを示している!?

出所:ゼロヘッジ

 1970年以降、FRBがFF金利を大幅に引き下げたケースは9回ある。各利下げ期間の開始から市場の谷間までの平均最大ドローダウンは27.25%だった。

 現在のCAPE(シラーPER(株価収益率))の評価は、2021年後半ほど高くはないが、平均を50%ほど上回っている。株式市場はすでにいくらか修正しているが、2003年や2009年のように、まだ評価額が平均値かそれを下回る可能性がある。

CAPE(シラーPER)の推移(1950~2023年)

出所:リアルインベストメントアドバイス

「パウエルはFDICが全ての銀行預金をカバーしていると主張しているが、誰がFDICに保険を掛けているのか?彼らは破産している。FRBはFDICを救済し、お金を印刷し、経済をインフレにしなければならないだろう」(ピーター・シフ)

 銀行危機が終息し、FRBがいったん停止して方向転換すると思われるため、今後数週間から数カ月の間に株価が上昇する可能性がある。しかし、これは不況の前の静けさかもしれない。

政府による無謀な紙幣印刷のツケを払うのは一般市民

 クレディ・スイスとUBSグループの緊急合併により、サウジアラビア最大の銀行サウジ・ナショナル・バンク(SNB)が大打撃を受けた。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は昨年、原油高ブームのさなか、SNBに対してクレディ・スイスに15億ドル(約1,970億円)投資するよう指示したが、今回、その投資がほぼ全損になったという。

 3月22日のウォール・ストリート・ジャーナルの記事「サウジ最大銀行、クレディ・スイス投資で大打撃」によると、今回発生した巨額損失は、湾岸諸国が2007~2008年の世界金融危機で、欧米の金融機関とヘッジファンドへの投資で大きな痛手を負った記憶をよみがえらせると指摘している。

 独立系シンクタンクの米外交問題評議会(CFR)が2009年にまとめた報告書によると、湾岸協力会議(GCC)加盟国の投資ポートフォリオに含まれる外国資産の価値は2008年に1,000億ドル減少した。

 サウジだけではなく、カタールの政府系ファンドも大きな損失を被っており、欧米における銀行破綻の余波がペルシャ湾岸諸国に損失をもたらしている。中東勢は米国のクレディ・スイスに対する対応をみて、グローバルサウスが台頭する流れの中で、今後は米国とさらに距離を置くかもしれない。

米商業銀行の借り入れ資金

出所:セントルイス連銀

 銀行システムは信頼によって成り立っている。そのため、一度信頼が損なわれると、銀行のバランスシートは崩れ、預金者はシステム全体に大きな穴(ブラックホール)があることに気づき始める。米商業銀行による資金の借り入れが再び大幅に拡大している。金融機関の問題はこれからが本番であろう。金融機関の統廃合が進みそうだ。

 今回の問題が、米国のいくつかの小さな銀行とクレディ・スイスだけにとどまるのだろうか。預金者が次の銀行からまた次の銀行へと追い寄せるため、これで危機が終わったと思うのは間違いだろう。クレディ・スイスの破綻は、スイスの金融システムを揺るがしただけではなく、世界的に深刻な影響と米国離れを促す可能性がある。

 預金者は米国のFDIC(連邦預金保険公社)や他の国の同様の機関が彼らの預金を救ってくれると信じているかもしれないが、これらの組織はいずれも大規模な資本不足に陥っており、最終的に介入するのは各国の政府になる。政府にもお金はない。

 あるのは莫大(ばくだい)な借金だけである。政府は必要ならば通貨を印刷することはできるが、この紙幣印刷の最終的な負担を背負うことになるのは一般市民だ。

膨れあがる世界の負債

出所:ゼロヘッジ

 1971年のニクソンショックの時代、世界の債務は4兆ドルだった。その後、ゴールドの裏付けが必要なくなり、無制限にお金を刷ることができるようになった。こうして、2000年までに負債は25倍の100兆ドルになり、金融危機が始まった2006年には、世界の債務は120兆ドルに達していた。2021年には、1971年の75倍の300兆ドルにまで膨れ上がっている。

 これは明らかにインフレを引き起こし、その後、崩壊をもたらすだろう。センセーショナルに聞こえるかもしれないが、われわれが目にしているのは「歴史上最大の信用バブル」の終わりかもしれない。残念なことに、腐敗し破綻した金融システムは浄化の時期を迎える必要があり、世界はそれを経験することになろう。

 腐敗し、負債がはびこる現在のシステムが崩壊するまでは、健全な成長と健全な価値観は生まれない。その移行は、悲しいかな、ほとんどの人にとって多くの苦しみを伴う劇的なものになるだろう。

3月29日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 3月29日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、土居雅紹さん(楽天証券 株式・デリバティブ事業部長)をゲストにお招きして、「ChatGPTブームでナスダック100だけ堅調」・「株式市場のテクニカル分析」・「注目の米国株個別銘柄」・「土居さんの注目銘柄は!」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube
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 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

3月29日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

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