信用不安のヤマ越すも金融機関をむしばむ含み損と逆ザヤ

 一方で、ここに至った米当局の稚拙さはさておいて、対応のスピードには目を見張るものがある。まず預金保護とバイデン大統領のコメントで預金者を安心させ、流動性供給で金融機関の資金繰りをサポートし、最終的な受け入れ先も素早く見つけ出した。資金を供給していれば金融機関は破綻しないが、資本を強化しないと投資家の安心は得られないからだ。

 要となるのは、資金繰りと資本増強によって、つまり赤字倒産、黒字倒産の両方のリスクにそれぞれ手を打てば信用不安は収まる。その意味で、今回の金融不安はヤマを越したと言えそうだ。

 ただし、金融機関が抱える債権の含み損の問題は残る。さらに現在のような預金や短期市場での調達金利が中長期の貸出金利を上回る逆ザヤの状態が長引けば、金融機関は短期調達・中長期運用で利ザヤを稼ぐことができなくなり、体力をむしばまれていく。

 次回の第2講では、この信用不安が与える今後の影響についてお話ししたい( 「第2講 リーマン・ショック再来はあるのか?―資産を守る 銀行危機と暗号資産の行方」 )。

ビットコイン決済広がる可能性も

 またシルバーゲート銀行とシグニチャー銀行という暗号資産業界にドル決済を提供していた金融機関が破綻したことは業界にとって大きな痛手だ。暗号資産業界には為替のようなインターバンク市場は存在しないが、各交換所にプライスを供給するリクィディティ・プロバイダーがいくつか存在し、彼らとの決済はこの2行で行われるケースが多かったからだ。

 しかし、もし金融当局がドルの基軸通貨の地位を守るべく暗号資産で代表的なビットコインなどにダメージを与えられたと思っていたとすれば逆効果だったかもしれない。暗号資産業界では別のドル決済方法を探り出した。それとともに、ドル決済に頼らずにビットコインでの決済を検討する動きが本格化している。

 ビットコインはお世辞にも決済に向いているとは言い難いが、その気になれば世界中のどことでも決済できる。当局にそのような意図はなかったと思うが、寝た子を起こしてしまった可能性もある。

 こうした暗号資産への影響については、最終回の第3講で詳しくお話しする予定だ。