物事はシンプルに

 これまでの連載では、投信の知識の話ばっかりしちゃったので、今日はちょっと元に戻して、投資の考え方の「原理原則」の話をしていこうと思う。原理原則だなんて難しく思うかもしれないけど、そんなことはないから安心してください。

 シンプル化された本質的な理解があれば、色んなモヤモヤが吹っ切れて、多少のマーケット変動が気にならなくなるよ、っていう話なの。僕はもうかなり前にその境地に到達してしまった(笑)おかげで、20年以上ずっと投資を続けられ、結果成功している―― 、少なくとも自分ではそう思えているのは、そんな原理原則の知識があったからだと自己評価しているわけだ。それを是非伝えたい。

 ここ数年、米国株がとても好調だった。その結果、何だか積立投資が「神格化」された、って言うと少し大袈裟だけど「米国株か全世界株にインデックス投資していれば必ず報われる」みたいな、無条件に信じられすぎている気がする。

 元本が保証されていないものに大事なお金を託す投資は、「無条件に信用する」的な部分がすごく大事だと僕自身も思っているものの、訳も分からず「〇〇に投資さえしてれば大丈夫」とか、逆に「それ以外は邪道だ」などという人が多いなら、それは少し怖い。

 そうではなく、原理原則の理解をベースに、自分なりに腹落ち、納得をしておきたいんだよね。そうでないと僕みたいに20年以上続けることは、きっとできないと思う。

何千本あっても「3×3」のマスで整理可能

 まず手始めに、投資信託が対象とする投資資産をこんな風に3×3のマスで整理してみようか。

  投資信託が中に入れるモノの種類を「投資資産」とか「アセットクラス」とかって言うんだけど、それは株式と債券とREITの3種類しかない。他にもあるにはあるんだけど、僕ら普通の個人にとっては3つだけと思ってて構わない。

 そしてそれぞれに「国内」と「海外」があり、海外は「先進国」と「新興国」に分かれている。「株式×国内」のマスは日本株だし、「株式×海外・先進国」のマスは海外先進国株式っていうことだよね。

 世の中には何千本もの投資信託があるんだけど、この9つのマスで理解できるようになるとラクになる。「このファンドはどのマスを塗り潰すファンドなのかな?」ってね。もし将来的に何本かのファンドを持つことを考えるなら、このマスを上手に塗り潰すように複数のファンドを持ちたいね。いわゆる分散投資ってやつだ。

 もしたくさんのファンドを持っていたとしても、あるひとつのマスばっかりだったら、その人は大きな枠組みの中ではまったく分散ができてないことになるわけだ。

 少し前に、将来の「人生のハンドル」を握った素敵な夫婦になっていることを目的としている君らなら、当面は株式100%の投資信託でいいよ、アセットアロケーションなんて考えなくていいよ、って話を思い出してほしい。それはつまりこの株の3マスだけでいいよ、って言ってたわけだ。

 でも債券については後で話しておこうと思う。いずれ債券のマスを埋めることは必要になると思うし、株式と債券の関係を理解しておくことはとても大事なので、その前提知識としても債券は押さえておいてほしい。

 逆にREITはまだいいかな。Real Estate Investment Trustっていう海外発祥の投資資産の名前のまま入ってきたので、日本でもそのまま「リート」って呼ばれるようになったんだが、少し難しい割に株式とあまり値動きが変わらなかったりするので、後回しにしておく。

 さて。ということで、今日からしばらくは、3つの投資資産のうちで最も大事と言っていい「株式の原理原則」の話をしようと思います。

国に投資しているのではない。「企業に」だ

 株式ファンドの選び方について、「米国は世界のリーダーだから、やっぱり米国株ですよね」とか「米国には進取の気性があるから」とか「移民で人口が増える米国は安泰でしょう」とか「いやいや米国以外の国を入れないとダメ。やはり全世界株インデックスでしょう」とか「そろそろ新興国もカバーした方がいいのでは?」とかとか――。どうも最近「国家ベース」の言い方がデフォルトになっていて違和感を覚える。

 どんな株式ファンドであっても、投資している対象は「国家」ではなく、1社1社の企業なんだ。それぞれの社員が毎日働いているその会社の株を、その投信を通じて買うかどうかっていうことであって、決して国家の魅力や成長力といった「国力」みたいなもので判断しているわけではない。

 当たり前だけど、米国の中にも投資対象として有望な企業もあれば、そうでない企業もあるはずだよね。その当たり前を忘れないでほしい。国が魅力的かどうかと、その国に籍を置く企業が投資対象として魅力的かどうかは別の話だからだ。

  ここ数年の米国株のインデックスがとてもいいリターンを生んできたのは、国が素晴らしかったからではなく、そのインデックスの中で大きなインパクトを占めていた企業の株価が、さらに上がっていった結果に過ぎない。

 具体的にはGAFAMと呼ばれる企業。知ってるかな、GはGoogle、実際はその親会社であるアルファベットという企業で、Aはご存知Amazon、Fは「メタ」って名前に変わったFacebook、君らにはInstagramの会社と言った方がいいかな。もう一回のAはAppleで、最後のMはMicrosoft。

 このGAFAMというニックネームまで付いた巨大IT企業たちは、株価が高くて流通している株式の数も多いので、その掛け算である「時価総額」という、いわば株式市場での存在感が元々めちゃくちゃ大きい企業だった。そしてそれらの株価がここ数年ずっと好調だったから、時価総額の大きさでウエイト付けして算出する指数であるS&P500指数とかナスダック指数は、その「GAFAM効果」を受けて、指数としても大きく上昇した。

 つまり米国が国家として素晴らしかったのではなく、GAFAMが非常に素晴らしかったということなのよ。そこに、S&P500やナスダックという指数の算出方法が、時価総額の大きい銘柄の影響を受けやすい方法だったことが重なっていたわけだ。

 もしS&P500が500社の単純平均で算出する指数だったとしたら、S&P500はここ数年こんなに上がってないだろうな。GAFAMたちのせっかく株価上昇も、それぞれ500分の1のインパクトしか持たないんだから。

 なんか米国インデックスやそのインデックスファンドの悪口を言ってるみたいに聞こえたかもしれないけど、そうじゃない。

 米国はもちろん、海外の株式のインデックスファンドは、日本に住み、日本の企業からお給料をもらっている僕たちにとって、賢明にして有力な選択肢だ。前に見せた僕の企業型DCの中身が海外株式のインデックスファンド100%だったのを覚えてるだろうか。円グラフが円グラフになってない、一色だけのもの。僕も大事な企業年金を、海外株のインデックスファンド一択に任せてる。

 今日僕が伝えたいのは、曖昧な国家ベースで緩くとらえないようにしようね、ってことなんだ。国家ベースで期待したり失望したりするのは、何だか世界経済で投資を語っているみたいでカッコいいが、実はあまり意味はないってことだ。

 株式投資はいつでも、どんなかたちにおいても、国家でなく個々の企業への投資。もっと言うと、その企業の「ある株価」での投資が正解かどうかが問われるもの。ちょっと分かりづらいかな。詳しくは次回。

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