インデックスファンドはあなたの資産の増加をめざしてはいない

 さて前回はインデックスファンドについて、特に「コスト」にフォーカスを当てた話をした。ちょっと内容は難しかったかもしれない。要はつみたてNISAで選べるようなインデックスファンドなら、どれを買ってもいわゆるコスト面での後悔はない、っていうのが結論だったと思う。

 対象とする指数が同じなら日興アセットのでも他社のでも結果はほぼ同じで指数通りだ(もちろん僕としては日興アセットのインデックスファンドを買って欲しいけど)。なぜなら、それが、日々の指数の動きを上にも下にもなぞるインデックスファンドの目的だからだ。

 ということで、最も大事なのは「どの指数のインデックスファンドを買うべきか」ということになる。最初の頃に話したように、僕は若い頃に深く考えずに日経平均のインデックスファンドで積立をスタートしたわけだけど、その後の僕の投資成果は何に左右されただろうか。

 コストだろうか。

 複利効果だろうか。

 違う。ただ単純に「日経平均株価」という指数の波乱万丈な値動きに左右されてきただけだ。

 つまりインデックスファンドを買う場合は、指数選びを間違えるとどうにもならない。日経平均のインデックスファンドを買うと決めた瞬間に、僕の投資成果は日経平均と一蓮托生、決まってしまったわけだ。

 投資信託には必ず読まないとならない目論見書(もくろみしょ)という法定書類があって、銀行などの窓口で販売する場合はお客様に必ず交付しないといけないことなっているし、ネット取引でも必ずそのPDFを開いて読まないと買付のボタンが押せないようになっている。

 そこには必ず「ファンドの目的」といった項目があるんだよね。インデックスファンドの場合どう書いてあるかというと、「(1)当ファンドは〇〇指数の動きに連動する投資成果をめざします」みたいなことが書かれている。一方で、インデックスファンドではない普通の株式ファンドの場合は「(1)当ファンドは世界各国の株式への投資を通じて、信託財産の中長期的な成長をめざします」みたいな書き方をされていることが多いだろう。

 つまり、インデックスファンドは決して「信託財産の成長をめざします」とは言わないわけだ。というか言えない。なぜなら連動対象である指数の方が主役だから。それに連動していくだけのファンドの方が主体的に「めざす」ことはできない。かといって、日経平均株価とかS&P500といった指数の方が「指数の成長をめざします」と宣言しているかというとそうではない。指数の目的はそれぞれの指数の定義通りに計算し、定義された世界を数値として発表し続けていくことであって、それが上がるか下がるかという思惑はそこにはないわけだ。

 ということは、僕たち投資家としては、果たしてどの指数が自分のお金を増やしてくれそうな指数なのかを考えなくてはならない。指数自体は成長する努力はしてくれないからだ。

S&P500一択論

 前にも話したけどS&P500という米国株式の指数は、発行している株式の数が多くて株価が高い、専門用語で「時価総額」の大きい上位500社を順に重み付けをして計算されている指数だ。これに連動するインデックスファンドがここ数年とても人気がある。

 その人気化の背景には、米国の株価が2020年の春先から2021年の年末まで2年間ほぼ一直線に上昇し、S&P500インデックスファンドの基準価額で見て2倍くらいになっちゃったという絶好調さがあったからだ。S&P500のインデックスファンド「一択」で放っておけばすぐにお金が増えてしまうという状況に、この2年間は沸いた。たくさんのYouTuberが生まれ、NISAの浸透もあって実際に新しい投資家層が増えたことは、僕の業界としても嬉しいことだった。

  だが、S&P500のインデックスファンドが2倍になったのは、米国という国が素晴らしくて今後も米国という国家を信じていれば間違いないという安易な話では決してないということは言っておきたい。米国が素晴らしかったのではなく、この時期にS&P500の中で大きなシェアを持っていた企業たちが素晴らしかったのだ。

 具体的にはGoogleとかAppleとかAmazonとかの巨大IT企業たちがS&P500の上位を占めていて、この2年間それらの株価がさらに上がっていったから、S&P500はさらに上がっていった。思い切って単純化すれば、それがすべてだ。米国のリーダー企業がこの時期、素晴らしかった。

 もちろん今後も、米国のリーダー企業の活躍を僕らの資産運用に活かしていくにあたり、S&P500はいい指数だと思う。問題は「企業の国籍を米国に絞り込んでいる点」だろう。この3×3のマスの絵は覚えているだろうか。

 何千本もある日本の投信も、中身を調べるとこのマスのどれを埋めているかで理解しやすくなるという話をしたよね。そして、長期間にわたる資産形成を考える君たちなら、できるだけ「賭け」をしない方がいいと思うという話もした。

 簡単に言えば、ひとつのマスにだけ賭けてしまうのは心配だって話。もちろん1つに絞った方が当たった時には大きいわけで、複数のマスに拡げれば拡げるほど、得られるリターンは薄まりがちっていうのはデメリットだ。でもまぁそれが分散するってことなのだ。

 僕自身若い時に深く考えず日本株のファンドで投信積立を始めてしまったのは、まさにこれだった。自分の人生設計を「日本企業縛り」の中での株価上昇に賭けてしまったんだよね。

 米国株式が絶好調なたった2年間の、しかも他人の成功事例を見ただけで「S&P500一択!」「他は考えなくていい!」と盛り上がっている風潮に僕が不安を感じるのは、自分のその経験があるからだと思う。下の絵のような投資スタンスってことだからだ。

[株式]には本来、[国内]と海外の[先進国]と[新興国]の3つのマスがある。S&P500だけにするということは、先進国のマスをさらに小さく区切った小さなマスを埋めにいっているだけということになるのだ。

オールなカントリー?

 とはいえ、絶好調な20年と21年の後に米国株をはじめ世界の株式市場に少しブレーキがかかったこともあって、最近では「S&P500一択」ではなく「全世界株式がいいのでは?」という意見を耳にすることが多くなった。「全世界株式」は「オール・カントリー」とも言われるんだけど、これも指数の名前なんだ。

 S&P500と違ってこの日本語が冠される指数には種類がいくつかあるある中で、最もポピュラーな全世界株式はMSCI All Country World Indexという指数。「えむえすしーあい」は指数算出会社の名前で、MSCI社が計算するたくさんの指数の中のひとつがAll Country World Index、オール・カントリー・ワールド・インデックスってわけね。オールなカントリーだから「全世界」という日本語が付けられることになった。

 3×3のマスでいうとこういうこと。日本と先進国と新興国のコマを全部埋めるのがこの指数だ。 

 先進国はアメリカ、日本、イギリス、フランス、ドイツ、スイス、スペイン、イタリア、カナダ、オーストラリアなどなどなど。新興国は中国、韓国、台湾、インド、マレーシア、インドネシア、メキシコ、ブラジル、トルコ、ポーランド、南アフリカなどなどなど。順不同に挙げてみたけど、こんなにたくさんの国に籍を置く会社に投資したと考えて計算されるのが、MSCI All Country World Indexというわけ。会社数でいうと2千数百社だったと思う。S&P500が約500社だったのに比べると随分と多い。

 計算にあたっては2千数百社の株価を足して2千数百で割る単純平均ではなく、S&P500と同じように時価総額加重平均という方法を使ってる。時価総額とは発行済み株式数×株価なので、株式をたくさんの人に持たれている大企業で、かつ今の株価が高くなっている会社に重みを付けて指数を計算するってことだ。したがって足もとではやはりGoogleとかAmazonとかAppleといった米国の巨大IT企業のシェアが高い。そこはS&P500と同じだ。

 以下の表はオール・カントリー指数を連動対象としたあるインデックスファンドの月次レポートの一部だ。これを見るとアメリカ企業が58.4%で、次に多いのは日本企業で、でもわずか5.5%で、次がイギリス、スイス、フランスとヨーロッパの企業が続いている。中国や台湾は合わせると4%ちょっとを占めている。

あくまで本コラムをわかりやすくするために示したものであり、具体的な商品の内容を解説するものではありません。当社ファンドの現在および将来の組入を示唆するものでもありません。

 右の表を見ると、国が分散されている結果として通貨、つまり為替変動リスクが分散されている。意味わかるだろうか。日本人の我々が日本の投資信託で海外の国の株を買っているわけなので、必ず為替変動リスクがある。今はとりあえず「円高はマズイ、円安はラッキー」と覚えておこう。

 この表を見てわかるのは、米ドルは62.3%だけであとはユーロはじめ色んな通貨に分散されているということだ。これは基本的にいいことだ。ニュースで見聞きするのは日本円と米ドルのレートばかりで、毎日円高だ円安だと言ってる。さらにユーロもポンドも円との交換レートはそれぞれに動いていて、それぞれに「円高はマズイ円安はラッキー」なので、その変動要因が分散されているのはいいことだ。

 それでもこっちの「組入上位10銘柄」という指数におけるシェア、つまりその企業の株価の上下が指数をどれだけ大きく動かすかという順番で見てみるとこの通り。やっぱりこの時点ではAppleとかMicrosoftとかAmazonとかAlphabet(Google)が並んでる。もれなく米国企業がずらりと並んでいる。

あくまで本コラムをわかりやすくするために示したものであり、具体的な商品の内容を解説するものではありません。当社ファンドの現在および将来の組入を示唆するものでもありません。

 つまり、顔ぶれという意味では実はS&P500とあまり変わらないというのが、今のS&P500とオール・カントリーの関係だと言える。これはいい悪いじゃなく、それくらい世界の中での今の米国巨大IT企業たちの株価が高く存在感が大きいってことだ。

 ただ、この同時点でのS&P500を連動対象にしたあるインデックスファンドの上位10銘柄の表を並べてみると、顔ぶれはほぼ一緒だけど「比率」のところがかなり違うのがわかる。

あくまで本コラムをわかりやすくするために示したものであり、具体的な商品の内容を解説するものではありません。当社ファンドの現在および将来の組入を示唆するものでもありません。

 たとえばAppleはオール・カントリーでは4.6%だったが、S&P500では7.27%もある。Microsoftはオール・カントリーでは3.8%だったが、6.8%だ。顔ぶれは同じでも、一つひとつの企業のシェアが格段に小さい。つまりオール・カントリーの方が一つひとつの銘柄の株価の上下に振らされる程度が小さいってことになる。さっきの為替変動リスクが分散されているのと同じだ。

 このことは、これら上位の企業がガンガン上がっていくようなマーケット、相場の時にはマイナスに作用する。そういう時はそれらの比率が高いS&P500の方がより大きく上がる。それは間違いない。一方で、これら上位の企業の調子が悪い時、S&P500の方が大きく下がる。これも間違いない。

 そろそろ結論。悪いけど僕はS&P500とオール・カントリーのどちらがいいとは言いません。とにかく理解してもらいたいのは、インデックスファンドは指数選びがすべてだということ。だから指数の仕組みと中身をある程度でいいから理解してほしいと思う。人の意見や人気ランキングなんかで安易に決めることだけはないようにしてほしい。

 ついつい長い話になってしまった。ではまた。

※個別銘柄への言及については、当該個別銘柄の売買を推奨するものでも、将来の価格上昇または下落を示唆するものではありません。また当社ファンドにおける保有・非保有および将来の銘柄の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。

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