株主優待活用を「2×2」のマトリックス図で考えてみよう

 先日、「お金の悩みは4マスで考える」という本を出しました。とにかくなんでもマトリックス図に落とし込んでお金の問題を整理してみようというユニークな本なのですが、トウシル編集部から「株主優待の2×2」というお題をいただきました。

 株主優待といえば個人投資家の個別株投資の魅力の一つです。株主優待を提供する企業の株式を一定数保有していると、所定の株主優待を受けられます。内容はその企業の製品(食品など)であったりその企業の商品券であったりします。また、企業とは無関係の商品(たとえばお米とか)がもらえることもあります。

 何がもらえるかは各企業のIR情報として開示されていますし、証券会社のホームページや情報サイトにも紹介されています。

 今回は、この株主優待をどう活用するべきか、マトリックス図で考えてみようというわけです。なんとなくお得だからというイメージで考えがちな株主優待、2×2マスで考えるとどうなるでしょうか。

一つめの軸:長期保有スタイルか短期保有スタイルか

 一つめの軸として設定してみるのは、「長期保有スタイル」でいくか「短期保有スタイル」でいくか、という選択肢です。

 株主優待について「権利確定日」という記事をよく目にします。これは基準日の株主であった人に株主優待を贈る仕組みがあるからです。トウシル内でも「3月の優待銘柄」のように紹介されていることがあります。

 言い換えれば、株主優待の権利が確定したのであれば翌日に売り払っても株主優待はもらえるわけで、これが一つの判断軸となります。権利落ちしたらすぐ売るのは「短期保有スタイル」です。

 この場合は、株主優待だけを目当てにしているということになりますが、世の中はそううまくいかず、権利落ちした直後は株主優待を現金化した場合に相当するくらいの株価下落が起きることがあります。

「株は買って売るだけで、株主優待だけもらおう」とは簡単にいきませんのでご注意を。(これを回避する方法として「現物取引の買い注文+信用取引の新規売建注文」をする「つなぎ売り」という手法があります。楽天証券内に解説ページがありますので参考にしてください)。

 さて、あなたがもし、その企業が好きになっていて長期保有で応援をしていきたいと思うのであれば、権利確定日を超えてもあえて売らないこともできます。こちらは「長期保有スタイル」になります。

 最近では長期保有期間が長い場合、優待が増していく企業も増えています。先日まで私が保有していた銘柄にタカラトミーがありますが、子どもにプラレールを買う時など公式サイトからの購入に割引がつきます。

 これが保有期間1年未満だと10%のところ、3年以上保有の株主は40%の割引までアップするという仕組みで、子育て家族にはうれしい特典となっています。まさに長期保有を促す仕掛けとなっています。

 長期保有しながら株主優待を毎年楽しみに待つ、というスタイルをうまく楽しめると理想的です。

二つめの軸:優待内容重視か企業評価重視か

 とはいえ、長期保有することで数万円相当の株主優待をゲットしたものの、株価はそれ以上に下落した、というのでは本末転倒になってしまいます。

 長期的に企業の成長を期待し、資産価値を高めていくのは個別株投資の前提です。株主優待に目がくらむあまり、ここを見誤ってはいけません。

 二つめの軸を何にするか悩んだのですが、ここでは「優待内容重視」と「企業評価重視」の軸としてみます。

 まず「企業評価重視」×「短期保有」は矛盾していますから成り立ちません。そうすると「企業評価重視」×「中長期保有」ということになりますが、これは先に企業評価があって保有し、オマケとして株主優待がついてくる、というような投資スタンスのイメージになります。

 株主優待を前提として銘柄選びをするとしばしば、企業選択のバイアス(偏り)が生じ、ポートフォリオにはゆがみが生じます。一度、「株主優待抜きにしても、この会社を保有してみたいと思えるか」という視線を持って企業選びをすることは有意義だと思います。

 企業評価を重視して中長期保有した銘柄が、毎年株主優待を送ってくれて、ささやかな楽しみを届けてもらうくらいがちょうどいいのかもしれません。

企業評価抜きに株主優待だけで銘柄選びは避ける

 株主優待のみを目当てにして、企業評価を軽視することが、あなたの投資におけるトラップになることもあります。

 たとえば食品メーカーのA社とB社があったとします。A社が業界首位でB社が2位であり、成長率もA社が勝っているにもかかわらず、株主優待としてはB社が魅力的であったような場合、あなたはどちらの株を保有するでしょうか。

 答えは一つに定まるわけではありません。「優待だけを目当てにしているので、短期保有でねらう」というのもあるでしょう。

 あるいは「今は差がついているけれどB社の新商品やIRのスタンスは魅力的だからB社を保有しつつ優待ももらう」のようなことも考えられます。これは企業評価を加えている判断です。

 しかし、優待のことだけ考えて「毎年もらえる商品の時価総額が多いほうを保有する」と考えた結果、B社の株価そのものは伸び悩み、長期保有したときA社のほうが大きく上昇していた、というようなことは回避したいところです。

 2×2マスで頭の整理をしてみると、もしかすると株主優待と銘柄購入をてんびんにかけるヒントがみつかるかもしれませんね。

バランスよく株主優待とつきあっていこう

 今回は「2×2マス」の整理で、株主優待を考えてみました。注意をすれば、「株主優待目当てと、企業評価目当て」は両立しうるのかもしれません。

 逆にいえば、ここで「株主優待目当て>企業評価」にならないようにするのがポイントでしょう。

 個人の資産運用においては、ポートフォリオを構築する際に「好み」がリスクとリターンのバランスよりも優先されることがしばしばあります。株主優待目当てはその一要素です。

 とはいえ、国の年金運用と同等のリスクとリターンの徹底的バランスを追求するだけが個人の投資ではないのも事実です。こちらはどうしても面白みに欠けるところがあります。

 投資にはやはり面白さが欲しいところ。株主優待を投資の大きなきっかけとしつつ、株主優待がない銘柄にも視点を向け、投資の世界を広げていってほしいと思います。

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