3月の相場イメージ

 1月楽観、2月警戒を経て、米株式相場にうかがわれるのは、金利上昇の割には底堅さを保っているということです(図2)。2月下旬には、悪材料を受けて、投機筋がショートで攻めても報われずに買い戻し、下がらないからと好材料時にロングをつくっても腰が据わらず売り逃げという一進一退が繰り返されました。月替わりの楽観から警戒の先は、「ショートで報われないなら、買ってみるか」という相場リズムにじわり移ってもおかしくない、というほどに捉えています。

 特に、ISMサービス業景況指数はおよそ高めでも織り込み済みで、市場の懸念も強くないため、焦点は10日雇用統計になりそうです。その公表まで間が空く分、相場持ち直し機運がじわり出てきても違和感はありません。前段の市場予想のように、さすがに特殊要因で強振れた指標が、ほどほど基調感に沿うところに回帰するという見方は、こうした場面の相場参加者にそう無理なく受け入れられそうです。

 雇用統計、CPIとアク抜けができれば、いよいよ21~22日のFOMCです。3月1日時点で、0.25%利上げ予想が7割、0.5%予想が3割といったところです(図5)。0.25%か0.5%かの予想のバランスは、上述の指標次第と言えます。したがって、0.25%予想が優勢になる場合、経済・インフレ指標も株式相場にとってはポジティブということになります。逆に0.5%になりそうなら、株式相場での新規ロングはヤキモキして長居できないでしょう。

 そもそもが、ファンダメンタルズの基調と無関係に、相場の上げ下げ自体が追認されての楽観と悲観という、緩い相場地合いです。3月相場は、強い予断を持たずに、指標と政策イベントを一つ一つ確認しながらのアプローチが妥当と言えます。

図5:市場が織り込むFF金利経路の変遷

出所:Bloomberg

2023年に見えること(見えないこと)

 さて、3月の終わりに、経済指標が一通り公表され、FOMCの結果を確認したところで、2023年残り9カ月のインフレ、金利、景気について着地点を見いだせるでしょうか。FRBにも市場にも無理と想定されます。市場は新たなFOMCドットチャートをはやすでしょうが、FRBも是々非々対応しかできません。

 インフレ動向を決める要は、エネルギー相場とサービス業の粘着インフレ部分になるでしょう。エネルギー相場は言うまでもなく容易に変転します。サービス業はGDP(国内総生産)の7割以上を占めて重要だなどと言われがちですが、本来景気サイクルの中では変動が小さく、遅行的です。その雇用需給がコロナ禍でゆがめられており、金融引き締めが効きにくくもなっています。そうなると、景気が少なくとも向こう数カ月はしっかりで推移し、インフレは下げ渋り、金利は高止まると見込まれます。

 株式相場にとっては、良好な景気を好感できるようで、その実、サイクルは金利上昇の圧迫が続く逆金融相場の局面です。一段の金利上昇は、サービス業全体こそなかなか反応しなくても、製造業、そして資金繰りで圧迫される債務サイドでリスクを高めていくでしょう。2023年遅くから2024年にかけて、景気後退ないし逆業績相場のリスクを後ズレさせるというシナリオをベースに相場観を組み立てるのが妥当と考えます。

 先行き不透明ゆえに、相場心理が月替わりで変転する波動も、まだ繰り返されやすいと想定します。

 短期投資、時間分散買いの長期投資、金利低下までの待ち、投資家それぞれが、相場心理の振れから一歩距離を置き、冷静に自らのスタイルを踏まえて対応します。

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