ファンドマネージャー時代にやっていたESG投資

 私は2013年まで25年間、日本株のファンドマネージャーをやっていました。年金・投信など合わせて1,000億円を超えるファンドの運用を担当していました。私が運用していたのは、一般のアクティブ運用で、特にESGを重視するとうたっていたファンドではありませんでした。それでも、私はESGを重視しながら運用していました。欧州基準ではなく、私が考える基準です。

 ガバナンスの悪い企業が不祥事を起こして株価が急落することが頻発する時代となり、ESGのG(ガバナンス)を重視するのは、アクティブ運用で好パフォーマンスを目指すのに必須でした。E(環境経営)も重要でした。

 私が考える環境経営基準で、省エネ・環境技術の優れた企業を選別して投資していました。それは、ESG投資という概念が無かったころから、普通にやってきたことです。

 私がファンドマネージャーになった初期(1980年代後半・1990年代)には、ESG投資という概念はありませんでした。それでも、私は「省エネ・環境技術にすぐれた企業」を選別して投資していました。なぜならば、省エネ・環境技術に優れていることが、企業の競争力を高め、利益拡大に直結するからです。

 例えば、日本車が2000年代前半まで米国でどんどん販売シェアを拡大していったのは、性能の良さに加え、省エネ環境技術で優れていたことが重要な役割を果たしていました。日本の機械やプラント、エアコンなどが世界で販売を拡大したのも、性能に加え、省エネ環境技術が差別化につながっていました。

 したがって、ESG投資が重要と世間で言われ始めた時、私は「そんなことはパフォーマンスを重視する上で当然のことだ」と思いました。したがって、私はファンドマネージャーとしてお客さま(年金基金や投信販売会社)にプレゼンする時は、「ESGを重視して投資しています」と言っていました。

 ところが、しばらくしてから、私の考えるESG投資が、欧米基準のESG投資と異なることが明らかになりました。私は、世界一燃費の良いガソリン車を開発生産しているトヨタ自動車は、脱炭素第1ステップで、地球環境に貢献する企業と考えています。

 一方、欧米基準では、ガソリンを使う自動車はいくら燃費が良くても全て「悪」とされました。世界一燃費の良いハイブリッド車も含めて、販売にペナルティが加えられるガソリン車に入れられてしまいました。

 私は、欧米の基準が究極の脱炭素を目指すものであることに異論を唱えるつもりはありません。ただ、現実的な移行プロセスを無視していることが問題と思っています。また、欧米の基準で、米国の電気自動車テスラが、環境貢献企業とされていることにも違和感を覚えます。

 テスラ車は電気自動車なのでCO2を排出しませんが、テスラ車が使う電気やテスラの車体などを作るために化石燃料を大量に消費している事実を無視しているからです。テスラが真の環境貢献企業と言えるようになるのは、人類の使うエネルギーの少なくとも半分以上が自然エネルギー起原となってからだと思います。