真実を言える金融マンになるには
相談者である大学3年生は、どうやら筆者のことを「顧客の利益になる真実を言う金融マン」として大いに買い被ってくれているようだ。
現実の筆者個人は、顧客の利益になる真実の全てに気付いている訳でもないし、気付いた真実をいつでもどこでも述べるほどの度胸があるわけでもない。自分をサンプルに物を考えて一般化する議論は危険だが、ビジネスの世界でどの程度真実を言えるのかは、その人の総合的な実力に応じて決まるとしか言いようがない。意見に自信があり、度胸あって、反発があった時への備えがあれば(個人的な経済的備えなども含む)、など諸々の条件に依存する。
もっとも、「総合的な実力」を養えば真実を言いやすくなるのだから、真実を言える人になることを目指すのは目標としてそう間違っていない。
筆者のはなはだ拙い経験からもう一言申し上げておこう。
「真実」は、都合の悪いものであっても、実際に正しくて、その発言が善意から出たものなら、言ってしまえば、その後は「何とかなる!」。
相談者には、「顧客の利益になる真実を言う」という志を忘れずに、いい証券マンになって欲しい。
【コメント】
2019年と比較的最近の記事であり、意見にわたる部分に変更はない。証券業に限らず「利潤」の二面性(顧客にとって損だが、ビジネスの存続条件でもある)を自覚して仕事に励むことが職業人として大事なのだ。仕事の綺麗事の側面だけを強調して、自分が顧客に損をさせてもいることを忘れてはいけない。
また、仕事上真実を言うことの重要性と、どれだけ真実を言えるかが本人の「実力」の表れであることも、その通りだ。筆者も思っている全ての真実を言えるほどの実力を備えていないし、「言い過ぎて」冷や汗をかくことが今も時々ある。
先の原稿掲載から間にコロナ禍があるなど様々な出来事があったが、文中にある通り証券業の状況は変化している。例えば、株式の委託売買手数料などは「見かけ上ゼロ」に向かって動いている。証券マンが対応すべき状況は変化しているし、言うべき新たな真実も増えている。(2023年2月7日 山崎元)