証券業は残るが形は大きく変わる

 これから就職する人に関係する、むこう40年くらいの期間を展望したときに、企業が資金を調達すること、企業自体を売り買いするニーズがあること、法人・個人共に資産を運用するニーズがあることについては、根本的な変化はないだろう。

 今の証券会社の仕事の分類で言う、リテール(個人向け)営業、ホールセール(法人向け)営業、引き受け、資産運用、M&A(企業の合併や買収)仲介、自己売買、などの機能は、担い手が変わる可能性はあるが、形を変えながら残っていくだろう。

 ただし、ビジネスのやり方は激変する可能性があるし、自分の専門分野・得意業務としていたものが、将来なくなってしまうこともあると覚悟しておくべきだ。

 一例としては、かつて証券取引所にいて、株式の売り買いに関わる「場立ち」と呼ばれる専門職があった(ご存じない方はネットで検索してみてください)。独特の符牒や仕草を用いて株式の売買に参加し、「場味」と呼ばれる取引の雰囲気などを把握して伝達する、経験が必要な仕事だったのだが、取引の電子化が進んで今はなくなった。

 勘と度胸が必要で花形の職業だった自己売買のトレーダーも、今やコンピューター・プログラムを使った取引に置き換えられつつある。

 例えば、ファンドマネージャーという職種は、現在各所で働いているが、かつての場立ちのように、システムで置き換えられる可能性が否定できない。

 資産運用という仕事は「判断」の集積だが、判断ルールには一貫性がなければならないし、情報の見落としや、疲労や恐怖などによる判断ミス(ルールの適用のミス)があってはいけないのだが、理想的な運用には生身の人間よりも、データを持ったコンピューター・プログラムの方が明らかに向いている。

 仮に、筆者に大学3年生の子供がいて「ファンドマネージャーを目指したい」と言うとすると、父親である筆者は、20年前なら「いい仕事だから、ぜひやってみろ」と言ったかも知れないが、今なら「将来仕事がなくなるかも知れないけど、それでもやるか?」と言いそうだ。

 子供が「それでもやる」というなら意志を尊重したいと思うが、その場合に、かつてなら「経済や会計の勉強をしっかりしなさい」と言ったかも知れないが、今なら「まず、プログラミングの勉強をしなさい」と言いそうだ。かつては、システムを使いながら自分で考えれば良かったが、これからは、考え方も含めたシステムを自分で組み立てる力がないと、ファンドマネージャーとして面白い仕事はできないだろう。

 リテール営業はどうだろうか。今は、人間である証券マンが同じく人間である顧客に働きかけるビジネス形態がまだ有効性を持っていて、これは案外しぶとく残るかも知れない。しかし、かつてネット証券の登場で個人の株式取引の大半が数年のうちに対面営業の証券会社からネット証券に流れた程度の変化が、リテール営業の世界にもいつ起こってもおかしくないし、変化のスピードはもっと速いかも知れない。

 また、将来は、「お金」と呼ばれるものの形態がすっかり変わるかも知れないし、「証券取引所」「株式」といったものの形もすっかり変わるかも知れない。

 年齢にもよるが、慣れ親しんだ仕事のやり方を捨てて、新しい仕事に適応することが苦手だったり、辛かったりする人がいるのは事実だ。

 証券ビジネスは、もともと何がその時の旬の商品・サービスになるのかが一定しない変化の激しいビジネスだが、今後、技術進歩を背景に、一層大きな変化がありそうだ。証券ビジネスには、明らかに改善できる非効率が多々残っているので、変化は大きく、そのスピードは速いはずだ。変化を楽しむことができる人でないと証券ビジネスには向かない。