物価上昇率3%前後が1、2年続く

――円高に振れることで輸入物価の上昇が緩和されます。日本の物価高にはどういう見通しを持っていますか?

 欧米と違い、日本はインフレがどんどん加速する状況ではありません。インフレ率は、日本が3%後半で、欧米のように9、10%を超えるような状況にはなっていません。

 ただ、日本経済の成長率の見通しが比較的高いので、物価上昇率もある程度は高くなる。物価上昇率も3%前後のような状況が1年か2年は続くというのが大体の予測じゃないでしょうか。

――OECD(経済協力開発機構)はウクライナ戦争が欧米を中心にインフレ率を引き上げ、経済にも悪影響が及ぶとの分析を出しました。日本も欧米のようにはなりませんか?

 欧米は典型的なスタグフレーションですよね。インフレは結構高いけど、経済成長率は減速する。2023年にかけてそういう状況に入るというのが大体の予測です。

 インフレは普通、景気がいい時に起きるけど、今は世界的に景気が後退する中で起きている。世界的にスタグフレーションに入っている中で、日本だけが避けるのは難しい。

 ただ、今のところ日本経済は順調で、2023年の成長率が高くなる予測になっている。もちろん世界経済の状況が伝播(でんぱ)して日本経済もある程度失速する可能性がないわけではありません。

 その辺が日本経済にとっての懸念材料で、注目していかないといけないポイントだと思います。

――インフレ率3%は日本経済にとって良い水準なのでしょうか?

 インフレ率2~3%はいい数字だと日銀は思っている。経済成長率もある程度高くて、物価上昇率も2%や3%という状況は望ましいと黒田さんは思っているのではないでしょうか。

――この1年間は、値上げに動く企業は増えました。

 いままでは(モノやサービスの価格が上がらない)デフレ状況がずっと続いてきた。それがインフレに転じました。いろいろな企業が値上げをしていることが背景にあります。

――日本もインフレが起こりつつある中で、労働組合の中央組織・連合は春闘で5%の賃上げを企業側に求めています。賃金は上がりますか?

 かなり可能性はあるでしょうね。これまでデフレだったけど、物価上昇率が2,3%となってきた。インフレが加速してきたことを考えると企業側も賃上げを受けいれるところがかなり多くなるでしょう。

黒田総裁とあれこれ

――日銀の黒田総裁は大蔵省時代の後輩に当たりますが、今も連絡をお取りになりますか?

 大蔵省でずっと一緒に仕事をしてきましたからね。非常に親しい関係ですよね。僕が財務官の時に彼が国際金融局長で、僕の後任の財務官でした。

――金融政策のことも話しますか?

 たまに会うけど、あまりそういう微妙な話はしません。よっぽどのことがあれば別ですけどね。昔の話や雑談をね。彼は大秀才です。大学生のころは図書館の本を全部読んだという伝説がありました。

――黒田総裁が務めた約10年間の日銀の政策をどう評価しますか?

 非常にパフォーマンスはいいんじゃないですかね。2013年に就任して異次元の金融緩和をずっと続けてきて、日本の景気回復をサポートしてきました。それは成功したと言えるのではないでしょうか。黒田さんが総裁になって今年で10年。過去に8年ほど総裁を務めた一万田(尚登)さん、山際(正道)さんを超えて、戦後一番長い。個人的に親しいから若干バイアスもあるけど、政策は成功したと思っています。

――今は資産を円でお持ちですか?

 まあ、円ですよね。大した額じゃないから。ドルやポンドで稼ごうとは思いません。

(取材はトウシル編集チーム 田嶋啓人)

榊原英資(さかきばら・えいすけ)氏 1941年生まれ。1965年に大蔵省(現財務省)入省。国際金融局長などを経て、1997~1999年に財務官。退官後は、慶大、早大教授などを歴任し、インド経済研究所理事長。日銀総裁の黒田東彦氏は大蔵省の後輩に当たり、榊原氏の後の国際金融局長や財務官を務めた。