反グローバル化がコロナで加速、インフレ要因に

――今年は世界的な景気後退が懸念されています。とりわけ、米国のインフレや利上げはどうみますか?

 米国のCPI(消費者物価指数)は高止まりしていますが、前年同月と比べた上昇率は昨年6月に9.1%になったところで天井は打ったと思います。欧州のインフレも昨年9、10月ごろにピークは越したと思っています。

 ただ、インフレ率が物価安定目標の2%まで、すぐ下がるかというと難しい。リセッション(景気後退)がどこまで進むかという問題もあります。米国の政策金利は、リーマン・ショックの一因となったサブプライムローン問題が2007年に表面化するまで、5.25%でした。FRBはこれと同じ水準まで引き上げると思います。

 現在が4.50%なので、0.25%の利上げを3回やれば終わる。景気が今後、本格的に後退した際に、利下げできる余地が5%くらいあれば、景気刺激効果を期待できる。FRBは利下げできるバッファーがほしい。

 FRBは2021年頭に引き締めを始めるべきでしたが、1年遅くなりました。対応の遅れで今はインフレも進み、資産バブルもはじけ、痛い目にあっている。リーマン・ショック以降、緩和を続けてもインフレが起きませんでしたが、それを過信し過ぎました。

――中国経済は昨年、感染の封じ込めを図る「ゼロコロナ政策」で大きく揺らぎました。中国の不安定さは続きますか?

 中国はまだ荒れるでしょう。非効率な投資をして、不動産バブルをつくってしまいました。また、反グローバル化の中で、多国籍企業はサプライチェーン(供給網)を中国から自国や先進国にいかに移すかを考えている。

 2013年に新冷戦が始まった時から既にその動きはあったが、コロナを機に供給網の見直しがさらに加速する。昔は20、30年かかっていたが、5年以内に終わると思います。

――そうした反グローバル化の動きは世界経済にどのような影響がありますか?

 米中対立やコロナ、ロシアのウクライナ侵攻など、反グローバル化が世界のトレンドになりました。グローバル化や緩和マネーの恩恵を受けてきた新興国にとってはいい話ではありません。賢い新興国は産業の発展に投資をしましたが、愚かな新興国は借金で箱物しか作らなかった。そうした国はこれから特に厳しくなる。

 地政学的な要因だけではなくて、コロナ禍後の世界的な供給網の見直しで、自国や友好国に生産拠点を移す動きが世界的に広がっています。これまでグローバル化の中で安い労働力を使って低価格で生産できていました。だけど、これからは自国などで作らざるを得ず、生産コストが高くつくようになります。それは構造的なインフレ要因です。

 一方で、先進国は自国に生産拠点が戻り、プラスになる側面もあります。日本に半導体などの生産拠点ができて、企業は高い給与で人材を雇わないといけなくなる。給与が上がる可能性があります。

投資先は割安な日本株、特にインバウンド、防衛、医薬品銘柄

――世界的な景気後退リスクがある中で日本の個人投資家はどこに投資したらよろしいですか?

 日本政府がNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)枠を2024年に拡大することもあり、初心者はまずは積み立てです。日本株が割安なので見直される時です。日本株の積み立てが一つの方法だと思います。

 日本はほかの先進国に比べてコロナ後の経済再開が遅れていましたが、インバウンド(訪日外国人客)の受け入れが再開されて、航空、鉄道、宿泊レジャーは恩恵を受けます。

 医薬品も引き続き注目したいですね。今後、新型コロナウイルスほど大きな危機はなくても引き続き感染拡大などのリスク要因が潜在的にある。画期的な新薬の開発があれば、材料になりやすい。健康も長期のメガトレンドです。

 後は防衛費の増額が決まった防衛関連。鉄鋼も含めて重工業は引き続き大きなテーマです。ゴールドも米国の長期金利やドルの下落が追い風になっている。

――暗号資産(仮想通貨)では交換所大手FTXトレーディングが経営破綻し、ビットコインも含め大きく値下がりしました。仮想通貨は今後どうなりますか?

 仮想通貨はかなり厳しく規制されると思います。ビットコイン以外はあまり期待しない方がいい。ビットコイン以外の仮想通貨であるオルトコインは各国の通貨当局に規制されて、全て廃止される気がします。オルトコインから投資資金がビットコインに流れて行きやすくなる。株式に流れるかどうかは分からない。(取材はトウシル編集チーム 田嶋啓人)

エミン・ユルマズ氏 1980年生まれ。トルコ出身。1997年に日本に留学し、東大院修士課程を修了。2006年野村証券。2016年から複眼経済塾取締役・塾頭。