日銀年内にマイナス金利撤回、さらなる引き締めも

――日銀の金融政策は今後どうなりますか?さらなる引き締めもあり得ますか?

 マイナス金利は2023年にやめると思います。短期金利を引き上げて、長短金利操作(YCC:イールドカーブ・コントロール)も止めざるを得なくなる可能性があります。現時点では引き締めにかじを切ったとまでは言えませんが、引き締め方向に向かっていく。放置していれば、国債市場が機能しなくなる。非常に大きな問題です。

 日銀はYCCの中で長期金利上昇を抑えるため、指定した利回りで無制限に国債を買い入れる「指値オペ」を実施してきました。日銀による国債の保有割合は2022年9月末時点で5割(国庫短期証券を除く)を超えました。日銀が日本国債を持ちすぎると、ほかの買い手がなくなり価値がなくなる。根本的なシステムが崩壊しかねず、望ましくありません。 

日銀の金融政策の経過
2013年 1月 消費者物価の前年上昇率を2%にする物価安定目標を掲げる
3月 黒田東彦総裁が就任
4月 国債やETF(上場投資信託)を大量に買い入れる「異次元の金融緩和」(量的・質的金融緩和)を開始
2016年 1月 短期金利を抑え込むため、マイナス金利政策導入を決定
9月 長期金利を0%程度に誘導する目標を決め、YCC(長短金利操作)を導入
2018年 7月 長期金利の変動幅をプラスマイナス0.2%程度まで容認
2021年 3月 長期金利の変動幅をプラスマイナス0.25%程度まで拡大
2022年 9月末 国債発行残高の内、日銀が保有する割合が5割を超す
12月 長期金利の変動幅をプラスマイナス0.5%程度まで拡大、市場で実質利上げと受け止められる
2023年 4月 黒田総裁任期満了

住宅ローン金利上昇の一方、住宅価格は下落へ

――引き締めによって住宅ローン金利が上がり、個人の負担が増す懸念があります。

 住宅ローン金利は上がるかもしれないが、逆に住宅価格は下がります。金融緩和は既に資産がある人には有利だけど、今から買おうとする若者に不利になる。これから家族をつくる人たちにとって、住宅価格が下がった方が望ましいです。

 日本で不動産が高騰したのは、金融機関が預金から金利を取れず投資先も限られている中で、不動産のようなリスク資産に投資するしかなかったからです。日本の金利が低いままだと、実需だけでなく投資マネーも呼び込み、住宅価格がどんどん上がる。

 緩和が続いたら、若い人は一生、家や車などの資産を持てません。金利をゼロやマイナスにするのは間違っています。(※インタビュー後の昨年12月30日、大手銀行が固定型の住宅ローン金利の引き上げを発表し、今年1月から適用を始めました)

――金利が上がることで、中小企業などの資金繰りが苦しくなる可能性もありませんか?

 ありますね。そのあたりに関しては現時点ではまだYCCをいじっただけなのですぐに影響があるかは分かりません。そうした様子を見ながら、今後も引き締め方向に持っていくのだと思います。

――金融引き締めに向かうことは、日本経済にプラスになりますか?

 まだ分かりません。そもそも金融緩和で日本のGDP(国内総生産)成長率は上がらず、思っていたほどプラスになっていない。日本人は貯蓄率が極めて高く、緩和をしても市中に出回るトータルマネーが増えず、インフレが起きなかった。緩和のやりすぎは間違った政策です。

 日本政府の経済政策は中央銀行に丸投げし過ぎです。本来、経済を復活させるのは政府の仕事です。中銀には物価安定と雇用安定という二つの責務があり、そのために金融政策をいじるだけです。

 日本企業が抱えるイノベーションや市場シェアの喪失など経済全般の問題に中銀は何もできません。リーマン・ショック以降は日本も米国も政治の力が落ちている。中央銀行は選挙で選ばれた人ではない。テクノクラート(技術官僚)です。官僚が政治家より力を持つ世の中は民主主義として良くない。政治家が怠けずに経済対策をしないといけない。

――インフレ手当の支給をする企業もあります。これから春闘も本格化します。インフレに合わせ、賃金も上がりますか?

 今のところ、インフレ手当など一時的な対応の企業が多いですが、ここ30年続いたデフレから変わるチャンスでもあります。製造コストの上昇を受けて、自動車会社が自動車を値上げして、下請けも値上げする。値上げすることで、売上高が増え、賃上げも起きる、いい循環ができるきっかけになる可能性があります。