分かりやすさの正体

 アノマリーの他にも思考停止を招きやすい「分かりやすさ」は溢れています。列挙してみましょう。

(1)ズバリ予想

 メディアやセミナーでは、専門家として「今年末はいくらですか」、「上がりますか、下がりますか」といった、ズバリ予想や明暗択一を求められます。予言のような予測技術は存在しません。技術的裏付けのないズバリ予想を真に受けることは、思考停止を意味します。

(2)ポイント三つ

 本来5コ10コ考えるべきことがあったり、巡り巡っての因果を考える必要があったりしても、視聴者の理解にはポイントの数を減らして三つ以内の箇条書きが良いとされます。

(3)重要イベント

 雇用統計、CPI(消費者物価指数)、FOMC(米連邦公開市場委員会)など重要イベントのカレンダーに沿って、相場シナリオを説明するのも一般的です。人の思考は、目立つポイントにばかり注意が向き、そこで相場の明暗分岐が起こるかのストーリーになりがち。

 実際は、目立つイベントは事前にポジション化され、相場に織り込まれていくため、相場動意はその漸変していくポジション次第です。

(4)日常性バイアス

 人には多少異常なことが発生しても、それを日常的な範囲で判断する性向があります。金利が想定以上に高まる公算となった2022年初め、この典型的な相場反落のきっかけ要因を軽視して、相場はまだ大丈夫、下がれば買い場とする論調がかなり続きました。

(5)インパクト

 日常性と逆に、相場へのインパクトを強調する刺激性、扇動性も分かりやすさの代表例です。投資家が慌てて損失回避で売る、買い衝動に駆られる、など相場が動く大きさが情報の重要性と認識されがちです。

 低めの米CPIで株価が跳ねると、単月の数字でインフレの大勢を語るには不十分でも、インフレ鈍化で相場の潮目が変わる証拠のように重大視されます。

(6)レッテル貼り

 米中間選挙で「民主党勝利なら…共和党勝利なら…」と対立軸で描き、相場の上げ下げが論じられます。現実には相場要因の多くが白黒でなくグレー、明暗でなくマダラ、上か下かでなくどっちつかずで、そこから動意を解析するものと心得ています。

 レッテル貼りすると、その途端にグレーやマダラやどっちつかずの要因は思考の対象からほぼ消えてしまいます。

(7)相場追認

(1)~(6)の例を補強する極め付きは相場追認です。相場が上がれば、なぜ上がるかという視角で、好都合な上げ要因を強調します。(6)のレッテル貼りで、米中間選挙前に株価が上がると「共和党優勢で民主党の財政大盤振る舞いや規制強化が抑えられるから」「選挙途中から株安になると民主党善戦で」と解説されました。

 しかし、中間選挙の事前評価は、FOMCやCPIほど相場インパクトはないと見られていました。要は、目の前のイベントを取り上げ、相場の上げ下げに都合の良い解釈として使っただけ。選挙が終わると、民主党善戦の選挙結果は「どこ吹く風」になりました。