為替DI:11月のドル/円、個人投資家の予想は?

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 DIは「強さ」ではなく「多さ」を測ります。DIは、円安や円高の「強さ」がどの程度なのかを示しているわけではありませんが、個人投資家の相場観が正確に反映されていると考えるならば、DIの「多さ」は同時に「強さ」を示すことになります。

「ドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券が10月末に実施した相場アンケート調査によると、個人投資家2,009人(※)のうち、1,541人(77%)が、11月のドル/円は「ドル高/円安」に動くと予想しています。前月に比べて割合は7ポイント減りましたが、個人投資家のほとんどは今月もまだ円安が続くと考えています。

 一方、「ドル安/円高」予想は468人(23%)にとどまりました。

(※)「円高」、「円安」のいずれかを回答した個人投資家の総数。「中立」は含めず。

ドル、ユーダ・マン!(Dollar, You da man!)

 マーケットではさまざまな材料が登場していますが、どのように計算しても答えは「ドル高」になります。

 本格的な冬が近づく欧州では、エネルギー不足が深刻化で景気後退はもはや避けられない状態。ウクライナ戦争は停戦の道筋が全く見えないどころか、ロシアは核や生物化学兵器を使用する可能性があり、地政学リスクは一段と高まっています。

 英国の格付け見通しはネガティブに引き下げられました。格下げは珍しくありませんが、今回のように「政治不安」を理由に先進国が格下げされることは異例のことです。

 MMT(現代貨幣理論)的経済政策を掲げた英国のトラス首相はあっという間に辞任に追い込まれ、後任にスナク元財務相が就任しました。ジョンソン氏は今回首相立候補を断念しましたが、いまだ保守党内の最大派閥であり、自分を裏切ったスナク新首相との関係は良好とはいえないようです。英国の政治安定はまだ先になりそうです。

 経済構造の変革期にはアンチ政党に支持が増えるといわれます。欧州ではイタリアやスウェーデンに極右内閣が誕生しました。移民政策やロシア制裁を巡って欧州内の足並みが乱れるおそれがあります。

 中国は、ゼロコロナ政策を来年まで継続する方針で、中国の経済低迷はしばらく続きそうです。新しい党最高指導部に経済専門家が不在であることもマーケットには失望でした。

 中国GDP(国内総生産)の1/4を占めている不動産市場では、不良債権が8兆ドルまで膨張しています。これはドイツGDPの2倍の規模です。ウクライナ戦争の次は中国不動産危機とさえいわれています。

 世界経済の3割以上が来年までに景気後退に陥ると、IMF(国際通貨基金)は予測します。それでもOPEC(石油輸出国機構)プラスは大幅減産を断行して、世界的インフレと地政学リスクをさらに悪化させました。景気不安は社会不安につながります。今年の世界各地での暴動は昨年の2倍以上に増えています。

 欧州や英国、日本に比べると米国の経済は堅調です。FRBの連続大幅利上げにもかかわらずインフレ率は高止まりしたままですが、米国は「需要インフレ」であり、欧州や日本のような「供給(輸入)インフレ」とは違います。つまり消費が強いということになります。米国の労働市場は強さを維持しています。

 金利の低い国からお金を借りて金利の高い国に預ける。弱い国の通貨を売って強い国の通貨を買う。これは合理的な取引です。ドルは唯一無二のセーフヘイブン通貨です。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券の相場アンケート調査によると、11月のユーロ/円は、個人投資家1,552人(※)のうち、1,143人(74%)が「ユーロ高/円安」を予想しています。前月に比べて割合は変わりませんが、個人投資家のほとんどは今月もまだ円安が続くと考えています。

 一方「ユーロ安/円高」予想は409人(26%)でした。

(※)「円高」、「円安」のいずれかを回答した個人投資家の総数。「中立」は含めず。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券の相場アンケート調査によると、11月の豪ドル/円は、個人投資家1,426人(※)のうち、1,093人(77%)が「豪ドル高/円安」を予想しています。前月に比べて割合は3ポイント減りましたが、個人投資家のほとんどは今月もまだ円安が続くと考えています。

 一方「豪ドル安/円高」見通しは333人(23%)でした。

(※)「円高」、「円安」のいずれかを回答した個人投資家の総数。「中立」は含めず。

今後、投資してみたい金融商品・国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

 今回は、質問「今後投資してみたい国(地域)」で、「インド」と「アメリカ」を選択した人の割合に注目します。質問の選択肢は、ページ下部の表のとおり13個です。(複数選択可)

図:「インド」「アメリカ」を選択した人の割合

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 2022年10月の調査で、「インド」を選択した人の割合は37.1%、「アメリカ」を選択した人の割合は64.7%でした。ウクライナ危機勃発直後の3月に比べると、「インド」は11.8ポイント上昇、「アメリカ」は6.8ポイント下落しました。

 上図で過去を振り返ってみると、「インド」と「アメリカ」の推移は、大局的には「逆の動き」をする傾向があります。このような動きから、個人投資家の皆さまにおける、「インド」と「アメリカ」の立ち位置を想像することができます。

 一方が一方の値動きのきっかけになっているのか(直接的な因果関係あり)、あるいは何らかの材料が、片方を押し上げ、同時に片方を押し下げ、その結果、逆相関に見えるのか(直接的な因果関係なし)、どちらなのでしょうか。

 この場合、筆者は前者であると考えています。「アメリカが不安定化しているとき、インドはアメリカに代わる資金を振り向ける候補先になり得る」という考え方が、底流していると考えます。(アメリカがきっかけでインドが動く)

 アメリカが不安定化しているときは、「日本」という選択もあると思われますが、「逆の動き」はアメリカとインドの間で目立っています。政治・経済・文化、さまざまな分野で、日本はアメリカと緊密な関係にあるため、アメリカが不安定化しているときには日本も不安定化する、という連想が働いていると考えられます。(アメリカと日本は逆の動きになりにくい)

 その点、インドとアメリカの関係の緊密さは、日本とアメリカの関係の緊密さよりも低く、アメリカが不安定化しているときでも、インドは(日本ほど)不安定化しない、という印象があります。アメリカとの緊密さが低い国・地域ほど、アメリカが不安定化しているときに投資先候補に選ばれやすいと、考えます。

 今後、FRBが、景気減速を覚悟した利上げを継続したり、中間選挙をきっかけとした政局不安が拡大したりして、アメリカにおける不安が拡大した場合は、今まで以上に、「アメリカ下落」「インド上昇」の傾向が鮮明になると、考えられます。引き続き、関連するデータに注目したいと思います。

表:今後、投資してみたい金融商品 2022年10月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成

表:今後、投資してみたい国(地域) 2022年10月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成