はじめに

 今回のアンケート調査は、2022年10月31日(月)~11月2日(水)の「月またぎ」の期間で行われました。

 10月末の日経平均株価は2万7,587円で取引を終えました。前月末終値(2万5,937円)からの上げ幅は1,650円と大きく、月足ベースでも上昇に転じています。

 あらためて10月の日経平均の値動きを振り返ると、前月(9月)からの軟調な流れを引き継ぎ、2万6,000円台割れでスタートしました。

 ただ、相場の地合いはインフレや景気動向、金融政策の「三つどもえ」の構図に変化が見られない中、24年ぶりに行われた為替介入や日米の企業決算、中国共産党大会といったイベントに揺さぶられながらも、その後の株価は上げ下げを繰り返しつつ、水準を引き上げていく展開となりました。

 とりわけ、月末にかけては、米国の大手紙の報道をきっかけに、FRB(米連邦準備制度理事会)が12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で利上げ幅の見直しを行うのではとの観測が広がり、株価の上げ幅を強めていきました。

 このような中で行われた今回のアンケートですが、2,800名を超える個人投資家からの回答を頂きました。日経平均のDIについては、実施タイミングの株価が上昇していたこともあって、短期・中期の見通しがともに大きく改善し、為替の見通しについても、過度な円安見込みが修正される結果となっています。

 次回もぜひ、本アンケートにご協力をお願いいたします。

日経平均の見通し

「株価の持ち直しでDIがプラスに。年末株高の意識も?」

楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト 土信田 雅之

 今回調査における日経平均見通しDIの結果は、1カ月後がプラス5.12、3カ月後はプラス1.83となりました。

 前回調査の結果がそれぞれマイナス51.62とマイナス24.42でしたので、両者ともにDIの値を急激に回復させただけでなく、プラスに転じること自体も昨年の9月調査以来、13カ月ぶりとなります。今回調査の実施期間(10月31日~11月2日)の日経平均が強かったことが影響していると思われます。

 DIの改善幅はとても大きなものとなりましたが、では相場の見通しそのものが強気に傾いたのかどうかについては、回答の内訳グラフを確認する必要があります。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成
出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 実際に回答の内訳を見ると、弱気派の割合は、1カ月後で23.38%(前回は60.55%)、3カ月後で28.57%(同43.78%)となっており、確かに劇的な改善が見られましたが、1カ月後・3カ月後ともに中立派が多数を占めていることが分かります。そのため、過度な弱気が修正されたことは確認できるものの、先高観についてはまだ自信を持てていない状況が読み取れます。

 2022年相場も11月に入り、残り2カ月を切りましたが、今後の焦点は「年末の株高シナリオはあるのか?」へと移っていきます。例年のこの時期は株高となることが多く、特に今年は米中間選挙(11月8日投開票)が行われ、「米中間選挙の前後あたりから年末にかけて株価が上昇しやすい」というアノマリー(経験則)もあるため、心理面で株価を支える可能性があります。

 また、10月にWSJ(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)で報じられた、「12月の米FOMCで利上げ幅の議論が行われる」という記事や、先日のFOMC(11月1~2日開催)でも、利上げペースの見直しについての言及がありました。

 継続的な株高には、「インフレの収束」、「景況感悪化のソフトランディング」、「金融政策の修正」の三つがそろうことが理想的ですが、金融政策の修正については、少なくともFRBによるターミナル・レート(政策金利の最高到達点)が見え始めたことは前向きな兆候といえます。

 ただ、残りの二つについては、まだインフレ警戒がくすぶっていることや、今後想定される景況感の悪化を株式市場が織り込みきれたかについても見極めが必要な状況です。

 一般的な相場サイクルの視点に立てば、景況感の悪化とともにインフレが収束し、金融政策も緩和へとかじを切るという見通しによって、経済指標や業績のバッド・ニュース(悪材料)が株式市場にとってグッド・ニュース(好材料)となります。

 株価の底打ちが、実際の景気悪化の底打ちよりも早く訪れる「不景気の株高」のパターンですが、足元の相場のムードはこのパターンになりつつあるように見えます。

 ただし、そもそも新型コロナウイルスの世界的な感染拡大という異例の事態に対して、異例の規模で金融&財政政策が実施され、異例の速さで経済の持ち直しとインフレが進行して、異例のピッチで金融引き締めが行われていることを踏まえると、「今回は違う」展開になる可能性もかなり残されていると言えます。

 そのため、株式市場が強過ぎる展開になってしまうと、FRBの警戒を招き、再びタカ派姿勢のけん制が出てくることも考えられ、「強い株高そのものが株高の邪魔をする」かもしれない点には注意が必要かもしれません。

楽天DI  2022年10月

楽天ウォレット 松田 康生

【今月の質問1】 ビットコイン(暗号資産)について教えてください。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 ビットコインなどの暗号資産の利用状況や認知度を質問しました。今回「すでに取引している」と「仕組みや動向について情報収集し、取引をはじめる予定」という取引に前向きな回答がそれぞれ20.1%、2.3%でした。

 2017年11月に同じ質問をした際はそれぞれ12.7%、7.5%で両者の合計は20.2%でした。ちょうど2017年当時始める予定としていた人がこの5年間で実際に取引を始めたイメージです。ただ今回の合計は22.4%と前回比+2.2%で、ビットコイン取引に前向きな人はあまり増えていないようです。

 一方、「なんとなく関心はある」「まったく関心がない」という人は2017年のそれぞれ26.5%、29.5%から今回17.8%、39.9%となりました。こちらも「なんとなく関心はある」から「まったく関心がない」に一部の人がシフトした可能性があります。

 どうやらこの5年間で、ビットコインを始めた人が増えた一方で、関心がない人も増え、二極化の動きが見られるようです。

【今月の質問2】 ビットコイン価格は昨年11月に約780万円のピークを付け、最近の価格は約290万円です。将来的(3~5年後のイメージ)にどのレベルになっていると思いますか?

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 3~5年後のビットコイン価格予想です。加重平均(「500万~1,000万円」なら750万円、ただし「1億円~」と「ほぼゼロ」はそれぞれ1億円と0円とし加重平均する)は628万円です。中間値(「200万~300万円」で比例案分)は279万円と現水準に近い水準でした。

 このように加重平均と中間値とが乖離(かいり)しているのは、上がると見ている人と下がると見ている人とはほぼ同数だったのですが、下方向は最低でもゼロなのに対して、上方向は何倍にもなると予想している人がいるからでしょう。

 興味深いのは500万円以上と予想する人は約22%で「すでに取引している」と「取引を始める予定」の合計とほぼ同じで、逆に200万円以下と予想する人は約38%と「まったく関心がない」とほぼ同じでした。すなわち、相場の見方も二極化が進んでいて、それが取引スタンスに反映しているのかもしれません。

【今月の質問3】 ビットコインや暗号資産に関して、以下のテーマのうち興味があるものを教えてください。(複数回答可)

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 ビットコインや暗号資産に関して興味があるテーマについても二極化が見て取れます。興味があるテーマが「特にない」が44.2%と【今月の質問1】の「まったく関心がない」39.9%に近い水準となっています。一方で各テーマへの関心が2割弱で並んでいます。

 すなわち、ビットコインなどの暗号資産に対しては2割のポジティブ層と4割のネガティブ層への二極化が進んでおり、その2割のポジティブ層がさまざまな分野に関心を持っている様子が垣間見えます。

 そうなった一因は「ビットコインは危なくないのか」が三番目に挙がっていることに現れているかもしれません。日本では、2018年に交換所からのハッキング事件などが続きました。当時のビットコインに対するネガティブなイメージが今でも完全に払しょくしきれていない様子が見て取れます。

 また「バブル」や「投機」を良くないものとする風潮や新しいものに対する慎重姿勢なども影響しているのかもしれません。今はやりで「骨太の方針」にも盛り込まれた「Web3」や「NFT」より「ビットコインの仕組み」や「ビットコインは何に使われるのか」といった基本的なテーマが上回っています。

 ただ、この点は、すぐに「Web3」や「NFT」といった旬なテーマに飛びつくのではなく、きちんと「ビットコインの仕組み」や「ブロックチェーンとは何か」、など基本から学ぼうとする、日本人の真面目さが表れているのかもしれません。

 今回もたくさんのご意見をありがとうございました。

為替DI:11月のドル/円、個人投資家の予想は?

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 DIは「強さ」ではなく「多さ」を測ります。DIは、円安や円高の「強さ」がどの程度なのかを示しているわけではありませんが、個人投資家の相場観が正確に反映されていると考えるならば、DIの「多さ」は同時に「強さ」を示すことになります。

「ドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券が10月末に実施した相場アンケート調査によると、個人投資家2,009人(※)のうち、1,541人(77%)が、11月のドル/円は「ドル高/円安」に動くと予想しています。前月に比べて割合は7ポイント減りましたが、個人投資家のほとんどは今月もまだ円安が続くと考えています。

 一方、「ドル安/円高」予想は468人(23%)にとどまりました。

(※)「円高」、「円安」のいずれかを回答した個人投資家の総数。「中立」は含めず。

ドル、ユーダ・マン!(Dollar, You da man!)

 マーケットではさまざまな材料が登場していますが、どのように計算しても答えは「ドル高」になります。

 本格的な冬が近づく欧州では、エネルギー不足が深刻化で景気後退はもはや避けられない状態。ウクライナ戦争は停戦の道筋が全く見えないどころか、ロシアは核や生物化学兵器を使用する可能性があり、地政学リスクは一段と高まっています。

 英国の格付け見通しはネガティブに引き下げられました。格下げは珍しくありませんが、今回のように「政治不安」を理由に先進国が格下げされることは異例のことです。

 MMT(現代貨幣理論)的経済政策を掲げた英国のトラス首相はあっという間に辞任に追い込まれ、後任にスナク元財務相が就任しました。ジョンソン氏は今回首相立候補を断念しましたが、いまだ保守党内の最大派閥であり、自分を裏切ったスナク新首相との関係は良好とはいえないようです。英国の政治安定はまだ先になりそうです。

 経済構造の変革期にはアンチ政党に支持が増えるといわれます。欧州ではイタリアやスウェーデンに極右内閣が誕生しました。移民政策やロシア制裁を巡って欧州内の足並みが乱れるおそれがあります。

 中国は、ゼロコロナ政策を来年まで継続する方針で、中国の経済低迷はしばらく続きそうです。新しい党最高指導部に経済専門家が不在であることもマーケットには失望でした。

 中国GDP(国内総生産)の1/4を占めている不動産市場では、不良債権が8兆ドルまで膨張しています。これはドイツGDPの2倍の規模です。ウクライナ戦争の次は中国不動産危機とさえいわれています。

 世界経済の3割以上が来年までに景気後退に陥ると、IMF(国際通貨基金)は予測します。それでもOPEC(石油輸出国機構)プラスは大幅減産を断行して、世界的インフレと地政学リスクをさらに悪化させました。景気不安は社会不安につながります。今年の世界各地での暴動は昨年の2倍以上に増えています。

 欧州や英国、日本に比べると米国の経済は堅調です。FRBの連続大幅利上げにもかかわらずインフレ率は高止まりしたままですが、米国は「需要インフレ」であり、欧州や日本のような「供給(輸入)インフレ」とは違います。つまり消費が強いということになります。米国の労働市場は強さを維持しています。

 金利の低い国からお金を借りて金利の高い国に預ける。弱い国の通貨を売って強い国の通貨を買う。これは合理的な取引です。ドルは唯一無二のセーフヘイブン通貨です。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券の相場アンケート調査によると、11月のユーロ/円は、個人投資家1,552人(※)のうち、1,143人(74%)が「ユーロ高/円安」を予想しています。前月に比べて割合は変わりませんが、個人投資家のほとんどは今月もまだ円安が続くと考えています。

 一方「ユーロ安/円高」予想は409人(26%)でした。

(※)「円高」、「円安」のいずれかを回答した個人投資家の総数。「中立」は含めず。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券の相場アンケート調査によると、11月の豪ドル/円は、個人投資家1,426人(※)のうち、1,093人(77%)が「豪ドル高/円安」を予想しています。前月に比べて割合は3ポイント減りましたが、個人投資家のほとんどは今月もまだ円安が続くと考えています。

 一方「豪ドル安/円高」見通しは333人(23%)でした。

(※)「円高」、「円安」のいずれかを回答した個人投資家の総数。「中立」は含めず。

今後、投資してみたい金融商品・国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

 今回は、質問「今後投資してみたい国(地域)」で、「インド」と「アメリカ」を選択した人の割合に注目します。質問の選択肢は、ページ下部の表のとおり13個です。(複数選択可)

図:「インド」「アメリカ」を選択した人の割合

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 2022年10月の調査で、「インド」を選択した人の割合は37.1%、「アメリカ」を選択した人の割合は64.7%でした。ウクライナ危機勃発直後の3月に比べると、「インド」は11.8ポイント上昇、「アメリカ」は6.8ポイント下落しました。

 上図で過去を振り返ってみると、「インド」と「アメリカ」の推移は、大局的には「逆の動き」をする傾向があります。このような動きから、個人投資家の皆さまにおける、「インド」と「アメリカ」の立ち位置を想像することができます。

 一方が一方の値動きのきっかけになっているのか(直接的な因果関係あり)、あるいは何らかの材料が、片方を押し上げ、同時に片方を押し下げ、その結果、逆相関に見えるのか(直接的な因果関係なし)、どちらなのでしょうか。

 この場合、筆者は前者であると考えています。「アメリカが不安定化しているとき、インドはアメリカに代わる資金を振り向ける候補先になり得る」という考え方が、底流していると考えます。(アメリカがきっかけでインドが動く)

 アメリカが不安定化しているときは、「日本」という選択もあると思われますが、「逆の動き」はアメリカとインドの間で目立っています。政治・経済・文化、さまざまな分野で、日本はアメリカと緊密な関係にあるため、アメリカが不安定化しているときには日本も不安定化する、という連想が働いていると考えられます。(アメリカと日本は逆の動きになりにくい)

 その点、インドとアメリカの関係の緊密さは、日本とアメリカの関係の緊密さよりも低く、アメリカが不安定化しているときでも、インドは(日本ほど)不安定化しない、という印象があります。アメリカとの緊密さが低い国・地域ほど、アメリカが不安定化しているときに投資先候補に選ばれやすいと、考えます。

 今後、FRBが、景気減速を覚悟した利上げを継続したり、中間選挙をきっかけとした政局不安が拡大したりして、アメリカにおける不安が拡大した場合は、今まで以上に、「アメリカ下落」「インド上昇」の傾向が鮮明になると、考えられます。引き続き、関連するデータに注目したいと思います。

表:今後、投資してみたい金融商品 2022年10月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成

表:今後、投資してみたい国(地域) 2022年10月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成